SSブログ

一年ぶりのワンコイン・ライヴ(泉里沙×鈴木大介 España!) [音楽のこと]

昨年03月23日開催の「第101回公演」からまるっと一年お休みが続いた「OCCA ワンコイン市民コンサート」。
その間、公演予定であったアーティストの方々のご協力、スタッフのご尽力もあって、ヴィデオ配信用の録画収録も行われたのですが、音楽はやっぱりナマモノ。ヴィデオが悪いという訳では無いのですが、ライヴの方が立体感に奥行き感、色彩感まで直接的に感じられて気持ちがいい訳でして、ねェ。
絵画などもそうですが、デジタル処理されて、モニター越しに観てスピーカー越しに聴くよりも、特に音楽はヴァイブス、鼓膜を震わせるだけでなく、振動が心臓まで届いて欲しいですよね。


OCCA102.jpg

一年ぶりの「ワンコイン市民コンサート 第102回公演」は、ヴァイオリニストの泉里沙さんとギタリストの鈴木大介のデュオで、『España!(エスパーニャ!)』をテーマとしたプログラム。

今回が4度目のご出演となる泉里沙さんは、
ロンドンで生まれる。
最年少にてRoyal Academy of Music, Juniorにスカラーシップを得て入学。
帰国後、東京芸術大学音楽部附属音楽高等学校を経て東京芸術大学を卒業 同声会賞受賞。更に同大学大学院修士課程へ入学、ウィーン・コンセルヴァトリウム大学院修 士課程入学、首席にて修了。その後ソロディプロマコースに進み(ジュリアン・ラクリン氏門下)修了。東京芸術大学大学院修士課程に復学して修了。
YBP国際ヴァイオリンコンクール第1位、日本学生音楽コンクール中学の部東京大会第2位、日本クラシック音楽コンクール高校の部全国大会第2位(1位なし)、摂津市主催LCコンクール金賞、併せて大阪府知事賞受賞、2012年ヴィ二アウスキーVnコンクール、2013年ヤンポルスキーVnコンクールにてディプロマ賞受賞。ブラームスVnコンクールセミ ファイナリスト。ポートグルアーロ音楽祭最優秀賞など国内外で入賞多数。Sofia Philharmonic, Royal Academy of Music Chamber Orchestra、Finchley chamber Orchestra、Thames Philharmonia Orchestra、日本センチュリーオーケストラ、テレマン室内オーケストラ他と共演。
2015年12月初CDアルバム「マイ フェイヴァレット」リリースされる。
2017年より草津音楽祭に招かれ数々のウィーンフィルのメンバーとコンサートに共演。
というプロフィール。

大阪大学会館には初のお目見えとなる鈴木大介さんは、
作曲家の武満徹から「今までに聴いたことがないようなギタリスト」と評されて以後、ソロ・リサイタルのみならず、現代音楽の初演やアンサンブル、コンチェルトなどでの明晰な解釈力と洗練された技術によって常に注目を集める 。
近年はジャズやタンゴ奏者との共演や、自作品を中心とするライヴも行い、また編曲作品はCDやコンサート共に好評で、他のギタリスト達にも演奏・録音されている。
美術作品からインスパイアされたプログラムも多く、これまでに国立新美術館「オルセー展」、ブリジストン美術館「ドビュッシー展」、都立現代美術館「田中一光展」を始めとする多くの美術展でのコンサートを成功させている。
これまでに市村員章、福田進一、尾尻雅弘、エリオット・フィスク、ホアキン・クレルチの各氏に師事。マリア・カナルス国際コンクール第3位、アレッサンドリア市国際ギター・コンクール優勝。第10回出光賞、第56回芸術選奨新人賞を受賞。
というご経歴。

そのお二方がタッグを組んでのデュオ・リサイタルは、

縦の糸はあなた
横の糸は私
織りなす布は
いつか誰かを
暖めうるかもしれない
・・・と中島みゆき的な・・・?
ヴァイオリンとギター、絃楽器2台のアンサンブル。前例が無い訳でも無いけれど、ちょっと珍しい組み合わせは、4本と6本、都合10本の弦が、経(たて)と緯(よこ)に織り成すものか、並列に共鳴し合うものか、気になるところでしょ?

それもプログラムが、

パブロ・デ・サラサーテ「ツィゴイネルワイゼン 作品20」
マヌエル・デ・ファリャ「スペイン民謡組曲」より
    1.エルパノモルノ
    2.ナナ
    3.カンシオン
    4.ジョッタ
    5.アストゥリアーナ
    6.ポロ
アストル・ピアソラ「オブリビオン」、「リベルタンゴ」
ニコロ・パガニーニ「カンタービレ ニ長調」
イサーク・アルベニス(フリッツ・クライスラー編曲)「組曲『エスパーニャ』 作品165」より『タンゴ』
エドゥアール・ラロ「スペイン交響曲」より第1楽章
武満 徹「さようなら」

とスペイン風ア・ラ・カルト? 一部そうでないものもありますが、何れにせよ多彩な色合い。

IMG_E4104.jpg

突然、私事なのですが、ここに来る前に頂いたお昼ご飯が「北海海鮮丼」で、それにはサーモン、甘エビ、ホタテ、ウニ、イクラ、カズノコ、おまけでキュウリにシソの葉、カイワレ、海藻類がトッピングされて、それはそれで美味しく食べられたのですが、魚介類と音楽は違うとは言えそれに近いアソルティモン的なプログラムだと想像してました。
それに、ヴァイオリンのヴィルトゥオーソの手になる楽曲は本来は独奏ヴァイオリンと伴奏管弦楽のための作品で、続く民謡組曲はスペイン各地から集めたフォークソングをモティーフにしたソプラノとピアノのための歌曲集で、アルゼンチン・タンゴからの新様式はバンドネオンを主とするし、やはりヴァイオリンの名手が書いた楽曲のオリジナルはピアノ伴奏を伴って、のちにクライスラーがヴァイオリン用に編曲したとはいえアルベニスのタンゴはピアノ独奏曲、ラロがサラサーテのために書いたのはシンフォニーと言いながら独奏ヴァイオリンとオーケストラでのコンチェルトで、最後は日本語の歌詞が乗る独唱曲、合唱曲ですよ。それをヴァイオリンとギターで演奏しちゃうって?
ヴァイオリンとギターのためのトランスクリプション集のようですね。
どうお料理するのでしょうといったレベル。「北海海鮮丼」を食べながら、サーモンがラロでウニかホタテがサラサーテ、イクラがファリャかしら(?)と想像を巡らせて、期待半分、心配半分。

で、久し振りの大阪大学豊中キャンパス大阪大学会館
今回はコロナ・ウイルス感染拡大防止対策として、事前予約からの全席指定となって、定員400名のホールを77人でシェアする変則体制。
14:30開場、15:00開演はこれまで通り。
ワタシに与えられたお席もほぼいつもの場所で、オペラ座の怪人ならぬ、黒尽くめの旧イ号館の快人?
他のホールもそうであるように、検温されて手指をアルコール消毒してからの入場。

IMG_E4110.jpg

開演直後、期待半分と心配半分は「ツィゴイネルワイゼン」の最初のひと節で、まるっと期待に変わっちゃいました。
というのも、ヴァイオリンの4本とギターの6本、計10本の絃(いと)をどう鳴らすのか、その意図(いと)するところが見えちゃったので・・・。
技巧的な楽曲ながら、技巧をアピールするというよりは、ヴァイオリンは朗々と歌い上げ、ギターは管弦楽やピアノに迫ろうとはせず、調性感を調整する程度に、必要最小限の音数でそれを下支え。ジプシー(ロマ)のムード、哀感を存分に伝えながら、エネルギッシュでハードなプレイを見せつけてやろうといったようなお下品なことはしないのね。
メランコリックというよりアンニュイ、んン、微妙なニュアンスの表現ということになるのでしょうが、テクニカルに演じようというより、好きで選んだ楽曲のいいところを素直に表しましょうといった感じですか。素材の良さを活かしてアッサリと仕上げました・・・的な。まァ、それも高度なテクニックではあるのですが・・・。
もっとドラマティックにも出来たのでしょうが、あえてそれは避けたのでしょう。
情感たっぷりに哀愁を通り越して悲哀まで感じさせると、多分オーヴァーになっちゃう気がして、漠然とただ何と無くセンチメンタルな気分・・・という雰囲気がワタシは(個人的な見解ですが)良いと感じます。
何より、的確で狂いのない音が思った通りのところで鳴るのが心地いい。一緒に口ずさめるような、共感出来るような、ワタシのツボにハマったような演奏。

続くスペイン・フォーク・ソング集もそう。ヴァイオリンで現す歌心。
ピアソラの代表曲2題にしても、そう。用いる楽器や編成がどうとか、難しいことは後ろに隠して、思いの丈を示したいというパフォーマンスなのでしょう。

ロンドン生まれの里沙さんはバイリンガル。
ですが、思考を構築するのはともかく、表現するのは英語より日本語より4歳から始めたヴァイオリンの方がお得意なのではないかと想像します。
今回選んだ楽曲に扱われるジプシー的なトラヴェラーズに共鳴してしまう、彼女もまた「ヴァイオリンを抱えて国境を越える」エトランジェ。feelでなく、agreeでもなく、sympathyを感じるものがあって、今日のプログラム、それをヴァイオリンで表現された・・・のでしょう。
それに、鈴木さんのギター。
ヴァイオリンの”独唱”を引き立てる控え目な伴奏の”ふり”をしながら、要所要所に小技を効かせて、「海鮮丼」のお薬味、醤油とワサビ、サーモンの下に隠れたシソの葉・・・みたいな。
もしかしたら、同じ演奏は二度と出来ない、近代絵画でいうところのドリッピングのようなインプロヴィゼーション。「かっけェ〜!!」と唸っちゃいます。

インターミッション後に楽曲紹介とその解説を交えたインタヴュウがあったのですが、そこでこうした作品を選んで、それを実現するために鈴木さんにお声を掛けて、対するギタリストも面白いと思われて、今日のデュオ・リサイタルが実現出来たというようなお話しだったでしょうか。

後半はパガニーニの「カンタービレ ニ長調」から。
やっぱり、高らかに朗らかに歌いたかったのでしょうね。
パガニーニはイタリア人で、スペイン風でもないのだけれど、まァ、そこはいいでしょう(笑)。タイトル通りに「歌うような」旋律で、パガニーニらしくないと言えばらしくない。
本来はピアノ伴奏が付くのをギターに置き換えて、これがねェ、ヴァイオリンのメロディーが朗らかな春風ならギターはそれに舞う梅か桃、桜の花びらのようでもあって、ハーモニーという柔らかな彩りを添えて、今日のお日和にジャスト・フィットするようでしたね。

続くヨーロピアン・タンゴ、アルベニスの「タンゴ」もそれに追随する感じでしょうか、同じ調性ですし。
植民地時代にアルゼンチンからスペインに持ち帰ったタンゴをヨーロッパ流にソフィスティケイトして、いい風味。シャコンヌ(チャコーナ)だとか、スペインが新大陸から欧州へ広めた様式はその都度ブームになるのが面白いのだけど、これも大ヒットとなったのでしょう。
オリジナルはピアノ独奏曲。よほど流行ったのか、それをクライスラーがヴァイオリンとピアノのデュオにしちゃって、今日はピアノに代わってギター。いい素材はどう料理しても美味しいという見本みたいな。

メジャーからマイナーに転じて、ラロサラサーテのために書いた交響曲という名の協奏曲、その第1楽章。
実質的にはこれが表のテーマで、プログラムのフィナーレでしょうか。
原曲はソロ・ヴァイオリンとオーケストラで、バスク系フランス人の作曲家がイタリア人ヴァイオリニストのために書いたスペイン風の、交響曲という名の協奏曲。なんだかウロウロしちゃいそうですが、その分かなり洗練された印象もあって、適度にエキゾティーク。それを、多少シンフォニックな部分を犠牲にしつつ、いいバランスに原曲の威厳を留め、軽やかに音吐朗朗と演じ切っちゃうヴァイオリンとギター。
聴きたいのはやまやまなれど(?)、第1楽章だけで止めておかないと、全曲演奏は時間的にも大変ですが、労力的にも超ハード。小休止どころか、長いインターバルが必要?

交響曲という名の協奏曲の後でアンコールのようにも聴こえちゃうのですが、これが今日の裏テーマ(?!)だったのかも。「さようなら」をヴァイオリンで唄っちゃいました・・・的な。
美しいメロディーを歌い上げたいという想いと、作曲者と鈴木さんのご縁からの選曲ですね。

演奏会、リサイタルならターブルドートなコース料理、誰もが知るような著名な大作、日頃研鑚を重ねた難曲をご紹介するのもいいのでしょうが、またそうしたプログラムを望まれたりもするのでしょうが、演奏家が今演奏したい曲、聴いて頂きたい作品を思うままにご披露されるのも悪くないと思います。
腕の冴えを誇示するのも、胸の内をメロディーに変えて顕すのも、独奏会(今日はお二人でしたが)ならでは。
España!(エスパーニャ!)』じゃないところもチラホラとありましたが、それはそれとして、プログラムとしてもよく出来ていたと感じました。
秋風のヴィオロン・・・ではなく、朗らかな風光るような、この季節に相応しいヴァイオリンとギターの調べを堪能することが出来ました。
4本と6本、都合10本の絲が織り成したのは、銘仙のカジュアルさを伴った繻子織り・・・という感じですかね。
経ての糸がヴァイオリン、緯の糸がギター。ほっこりさせて頂いた気がします。

アンコールは、ジャンゴ・ラインハルトマイナースイング」。これはちょっとお上品に過ぎましたか。

さて、一年のお休みを経た「OCCA ワンコイン市民コンサート」ですが、この3月以降は公演がびっしり予定されて、以下のラインナップが発表されています。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の収束が予想出来ず、外出自粛要請があったり解除されたり、予断を許さぬ状況が続き、海外からアーティストを招くのも難しい事態になっています。
予定は未定・・・?? 「OCCA ワンコイン市民コンサート」のウェブサイト、フェイスブックなどで都度ご確認頂くようお願いします。

2021年
04月25日(日) 14:30開場、15:00開演・田中正也(ピアノ) 事前予約のみの76名限定 残席僅か!!
05月・A:青柳いづみこ&上野星矢(ピアノ&フルート) B:ニコライ・サラトフスキー(ピアノ)
06月・企画中・演奏家募集中
07月・デュオ・ヴェンタパーネ(ピアノ&ヴァイオリン)
08月・沼沢淑音+大阪大学交響楽団(モーツァルト「ピアノ協奏曲」、「ピアノ四重奏曲」)
09月・今峰由香(ピアノ)
10月・竹久源蔵&永井由里(ピアノ&ヴァイオリン)
11月・古田昌子&宮崎貴子(アルト&ピアノ)
12月・A:沼沢淑音(ピアノ) B:橋本京子(ピアノ)
2022年
01月・松尾久美(ピアノ)
02月・有田朋央(ヴィオラ)

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント