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第14回 ヲトのたね [音楽のこと]

さて、本日はえべっさんこと西宮神社に程近い、表大門へ至る東の参道でもある旧国道、西国街道沿いにある貞光能舞台を訪ね、関西在住の若手能楽師4名から成るユニット「ナニワノヲト」の定期公演(?)、「第14回 ヲトのたね」を拝見、拝聴いたします。


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お能は、舞いや謡い、語りを演じる立方(シテ方、ワキ方、狂言方)と舞台右端の地謡座に控えて詞章の合唱を担う地謡方と舞台後方の後座で楽器演奏を担当する囃子方で成り立つ総合芸能、総合芸術。

とはいえ・・・、

面(おもて)や装束を着けずに紋付・袴姿のシテ方と地謡方だけで演じる略式ダイジェスト版の「仕舞」があったり、それに囃子方が加わった「舞囃子」があったり、同じ曲目でも上演様式にヴァリエーションもあったりするものの、よく知られる通常の様式「能」では特徴的な面(おもて)を着けて絢爛豪華な装束を纏ったシテ方が注目されがちで、ワタシなどの初心者からすれば奥に控える囃子方はそれらの伴奏とも思えてしまう。

・・・が、さにあらず。

一般的に「ヴァイオリン・ソナタ」 ~ チェロ・ソナタでもなんでもいいのですが ~ と呼ばれる室内楽がその実「ヴァイオリン(チェロ)とピアノのためのソナタ」であるように、あるいはそれのピアノ以上の働きをするのが能楽の囃子方。
オペラやバレエが舞台上の歌手、役者、ダンサーだけでは成り立たないのと同様、舞台装置の一部として、時間や空間効果まで演出するのがお囃子。
「仕舞」がよく演じられることから、実際のところ恐らく歌舞が能のメイン・パートではあるのでしょうが、シンプルな能舞台にあって、そこに物語りの情景や時空間の移ろいを表現するのがお囃子のお役目で、単に雰囲気造りに留まらず、atmosphereからambience、さらに内面的なmoodまでを演出し、それがvibrationとなって鑑賞者に伝播する。そのヴァイブスがお能の幽玄美をいやましに高める(と初心者なりに感じる)。
未熟なワタシではまだまだ、語りや謡いの室町言葉が難し過ぎてヒアリング出来ず詞章だけでは意味を成さなくて、物足りなくも感じてしまったり。いわゆる現代音楽だとか、ブリティッシュ・ロックやフレンチ・ポップスよりある意味難解?!
舞台上の音楽は雄弁で、詞章だけでは伝わらない情感・情景を補填し、舞いの優美さを引き立てるのがお囃子。ニホンゴワカラナイデスという方々にも響く・・・かも。
管楽器ひとつと打楽器が2~3つ。極簡素な構成で、メロディーやハーモニー、リズムといった西洋音楽での重要な要素も希薄でありながら、時間や空間の遷移まで表現出来てしまうお囃子が面白くないわけがない・・・と思えるわけですな。

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で、その面白みを探るうち、昨年たまたま知ったのが「ナニワノヲト」と「ヲトのたね」。

囃子方笛方小鼓方大鼓方太鼓方の4パートからなり、通常1つの楽器は一人ずつ、立方同様に各々流儀もあって古くから個々に継承される伝統芸。
演目によって太鼓が入る「太鼓物」、太鼓が入らない「大小物」、と謡いだけの「一菅物」など幾つかの形態はあるものの基本4名で「四拍子(しびょうし)」。これに謡い手が入ると今の時期によく目にする雛飾りの「五人囃子」となる。
元は大人の「五楽人」。それぞれ横笛、縦笛、火焔太鼓、笙、鞨鼓で雅楽を演じる様を模したものが、猿楽~能楽が流行るうちにお可愛らしいおかっぱ頭の未成人で構成する「五人囃子」になっちゃって、それぞれお道具もよりポピュラーなものに変わって、能管小鼓大鼓太鼓の4人じゃきりが悪くて5に合わせたいから謡い手を加えたのでしょう。

ナニヲト」こと「ナニワノヲト」は「五人囃子」と違って全員(若手ではあるものの)オトナの成人男性。謡い手は入らず、笛方森田流・貞光智宣さん、小鼓方幸流・成田奏さん、大鼓方大倉流・山本寿弥さん、太鼓方金春流・中田一葉さんの囃子方4名で構成される「四拍子」能楽囃子ユニット。
能楽を未来に繋げることを使命とし、幅広い世代に能楽の囃子の面白さを伝えるために結成されたそうで、各々がそれぞれに能楽の囃子方として活躍される傍ら、独自に講座やコンサート、主催公演など行っておられる。

・・・で・・・、

4名のユニット「ナニワノヲト」として主催されている定期公演(?)が「ヲトのたね」で、今日がその「第14回公演」。
昨年行われた4公演では、それぞれが1公演ずつ担当楽器の面白さを伝えるレクチャー・コンサート的なプログラムが組まれていたのですが、今年の上半期は「ナニヲト メモリーズ」と題して、日々の思い出や舞台の感想を踏まえた選曲となって、よりフレンドリーなトークと演奏が演じられる由。
極間近でお囃子だけを聴く機会は他には無くて、若手とはいえそれぞれ幼少期から研鑽を重ねた4名がパーマネントなユニットを結成しての演奏会、息の揃ったパフォーマンスをご披露くださるうえに、曲間にはMCというか気さくなトークとご解説まで入ってのライヴ。今回そのテーマとなるのが「メモリーズ」。

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定刻になって、形通りに鏡の間から「お調べ」が聴こえて、それが途絶えて、切戸口から順々に、本来なら後座に並ぶところを本舞台まで進み出て、先ずは口切りに「賀茂」や「小鍛冶」などでも用いられる「舞働(まいはたらき)」から。
1分半ほどの短い曲で、演目や使われる場面によって様々に変奏されて、多分それぞれの流儀によっても微妙な差異があって、四拍子の組み合わせによっても異なって聴こえるのでしょうが、まだそこまでの聴き分けが出来なくて、耳にしたことはあるはずなのですが俄かに思い出せない・・・ような。
ある種インプロビゼーションのようにも聴こえる。
囃子もそれぞれに「」があって、それの組み合わせである由。部分的には聴いていても、謡曲に組み込まれちゃうとヴァリエーションというより別曲。天女なり狐の精霊なり、立方のキャラクターや筋書きの季節感、空気感を考慮して都度演出されるのでしょうね。
囃子だけなら「舞働」であるものが、能楽として演じられると「賀茂 舞働」になったり、「小鍛冶 舞働」になったり、ヴァリエーション以上の変化を示すわけですな。

今回のテーマが「メモリーズ」。曲目リストには選曲理由となる写真が添えられ、MCはその紐解き。
その取りつきは、笛方・貞光智宣さんの思い出曲、すぐご近所のえべっさんへの初詣からのインスピレーションで「下り端(さがりは)」から。
これは「猩々(しょうじょう)」や「国栖(くず)」などでこの世ならざる者の登場時に用いられる渡り拍子。謡いや語りが入らないインストゥルメンタルな出囃子
囃子を聴いていると、揚幕から何やら立方が静々とお出ましになるような気さえして・・・。

お子さんが産まれるのに先立って、その安産を願って石切さん(石切劔箭神社)に御百度参りしたと仰言るのは大鼓方・山本寿弥さんで、その印象から「神楽(かぐら)」。「絵馬」や「三輪」で用いられるが、女神や巫女など女性キャラクターが神々しくも優美に舞うシーンが浮かぶ。

太鼓方・中田一葉さんが「あべのハルカス美術館開館10周年記念 円空 -旅して、彫って、祈って-」に展示された木製彫像「両面宿儺」から閃いたのは「大べし」。「善界(ぜがい)」、「車僧(くるまぞう)」など、大癋見(おおべしみ)を付けたシテ方、天狗(てんぐ)役のテーマ曲。鷹揚で厳かで、某Star WarsのImperial March的?! あッ、マーチじゃない。
この楽曲だけ撮影可(こちらをご覧くだされ)。

タイの寺院で美女二人に挟まれてご満悦なのは小鼓方・成田奏さん。
美女に囲まれるといえば、今年は何やら紫式部&『源氏物語』がブームということで、光源氏のモデルのひとりとされる河原左大臣こと源融・・・の亡霊が舞う「融(とおる)」の「早舞」に小書が付いて「早舞 舞返(はやまい まいかえし)」。
最近はDragonForceだとかのメロディック・スピード・メタルばっか聴いているせいで、それほど速いとは感じないのだけれど、「舞返」は通常の「早舞」よりもアップテンポ。メタルのリフのようでもあって、クセになりそう?

立役者がいなくて集中出来る分物足りないどころか、能楽の演奏部・・・お囃子だけでも大満足。フルセットを観覧するより、「仕舞」やこうした囃子だけ、パートごとに理解していく方がより深く知れる・・・のかも。
兎にも角にも、しっかり勉強させていただきました・・・という感じ。

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アンコールに換えて撮影会?!
今時の方々らしく、ご自身たちでもSNSをフル活用されておられるが、先の演奏中に撮影した画像・映像共々精々拡散してくださいとのこと。
上のフライヤーにもあるとおり、この後「ヲトのたね」はまだまだ続いて、次回は4月、6月。ええ、合わせて宣伝させていただきますわ。

タグ:貞光能舞台
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