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能面面々1 [散歩・散走]

さて、本日の「きょう散歩」は、常とはちょっと趣きが異なり、訪ねるのは京都産業大学むすびわざ館で、拝見するのは能面
ワタシが好むフランス近現代芸術やそれに影響を与えたとされるジャポニスムからは少ォし外れるようにも思えますが、如何にも日本的な文化、日本独自の芸能とそれに用いられる(おもて)。ある種究極的なjaponaiserieでJaponisme、日本趣味の極み、真髄とも思えます。


さて、なんで急にお能にハマっちゃったか?
ハマったまでいかないにしろ、興味を持つに至ったか?

小学生の頃にアメデオ・モディリアーニ描くところのポートレイトを観て以来、その時代のフランス絵画に興味をもって、いわゆるエコール・ド・パリ(パリ派)から広がって、その頃パリにあったismeを探り、その範囲は絵画や映画、詩からフランス近現代芸術全般に広がって、音楽はクロード・ドビュッシーに至り、彼らに影響を与えたとされるジャポネズリ、ジャポニスムを探るうちに興味の枝葉は全方向に繁茂し、ドビュッシーの音楽性に関わるとも言われるジャワ・ガムラン音楽を追体験的に知ることとなって今日に至る。
観たり聴いたりしているだけでは理解し難いからとガムランのワークショップに通って自ら演奏してみたり、もちろん足繁く美術館やコンサート会場にも赴いて・・・。
昨春からのいわゆるコロナ禍。コンサートや展覧会は中止になっちゃうし、長らく通ったワークショップも沙汰止みで、外出すること自体憚られる状況の中、蟄居しながらこれまでン十年で蓄えた知識、情報を整理整頓、脳内に断片化して散らばったデータをデフラグメンテーション、最適化してみたところ、そこから浮かび上がってきたのが能楽、謡曲。

というのも・・・、

先にあげた通り、ジャポネズリ、ジャポニスムからの繋がりがあって、ジャワの伝統芸能に似た要素を見つけて、それらが交差するところにあるのが能楽・・・ではないかなァっと。ドビュッシーの音楽から聴こえてくるのは決してガムランだけではないのです(謡曲でもないけどね)。
さらには、近代日本画、分けても上村松園さんのお作を拝見するうちに彼女が絵画とともに学んだという謡曲、それを題材にして描いた作品、その下図やそれらを描くために何枚も描かれたスケッチの中に能面を見つけ、だったら謡曲や能面を知らないことには松園さん描くところの美人絵を理解出来ないじゃん!! ・・・となったわけで。
そういえば、モディリアーニの肖像画のお貌も何処と無く能面ぽい・・・ような??
何より、この国に生まれ育ってウン十年。日本文化やそれに即した芸能・芸術を知らないでは恥ずかしい(今更ですが)。

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京都産業大学むすびわざ館2階ギャラリー
で11月01日から12月18日を会期として開催中の第23回企画展「能面面々 - きょうの能楽に寄りそう面打 - 」
京都には能楽の題材となった場所や所縁の史跡など関わりのあるところがたんとあって、室町時代に観阿弥・世阿弥親子が京都の今熊野で演じたものが三代将軍・足利義満に認められ、以後絶大な支援を受け発展を遂げ、武家の台頭とともに多くの能楽師や面打師が江戸や全国へと四散する中、京都に留まる方々もあって、洗練された芸が家の流儀として受け継がれ、今もその伝統を守っておられる。

秦河勝が紫宸殿にて上宮太子(聖徳太子)の前で舞わせた「申楽」が始まりとされて、江戸時代には「猿楽」と呼ばれるようになり、また幕府公認の「式楽」として武家の嗜みとされて、ご一新後には狂言と合わせて「能楽」と呼ばれるようになり、重要無形文化財の指定を受け、ユネスコ無形文化遺産に登録されて、歴史と伝統、格式も備わる芸能の集大成。一朝一夕では知ったかぶりすら出来ないほどに奥深い技の継承。
能は面(おもて)を主体として演じられる。面を活かしてこそ能楽なのだという。
ならばそれをしっかり拝見し、それが表現するものから能を読み解いていこうという算段。
主にお能の主役、シテ方が用いてかける面(おもて)。
室町中期から末期にかけて完成したとされる面(おもて)。
主に檜材から打ち出され、胡粉や膠、漆などで下地塗り、さらには彩色を施され、家々の宝として大切に扱われるが、傷み易く現存するものは極僅か。有ってもそうした古面は超貴重品となって、名物とされるものは美術館に収蔵されたりここ一番のとっておき、現在多くの舞台で用いられているのはそれらの「写し」。江戸時代に「式楽」となった頃が作製の最盛期なのでしょうか。各地で多く作られて、コピーではあっても、出来の良いものは百年余も使い続けられ、古面に並ぶ名品の扱い。
レプリカと言って仕舞えばそれまでだけど、その面(おもて)が用いられた芸歴や用いた能楽師の研鑽まで肖ろうとするのか、ある種クローニング的に、場合によっては傷や汚れまで完全にコピーするのだという。

嬉しいことにこの「能面面々」では会期中に3回の講演会が予定されていて、能楽や能面についての知識を深めることが出来るかと3回全部を予約して、今日がその1回目。
講演会は14h00開始予定。昼食後にむすびわざ館を訪ね、講演会までの時間を企画展示の観覧に充てる。

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能面の基本型は約60種とされて、そのヴァリエーションで約二百数十種になるのだとか。
むすびわざ館2階ギャラリーの壁面に掲げられた作品は約40点。京都を舞台とする能楽・謡曲を紹介するとともに、それに用いられる面(おもて)が掲示される。
ここに並ぶのは主に京都ゆかりの面打ち=能面師12人の作品で、今日と次回の講演会で講師を担当される面打ち、大月光勲さんと見市泰男さんのお作もそこに連なる。
ガラスのショーケースに収められたものもあるが、約半数は壁に掲げられてガラスを通さず眼にすることが出来て、触れるわけにはいかないけれど、その造作の細やかさは手にとるように見て取れる。
ギャラリーの一角には、面の製作道具や製作過程を工程ごとに示した展示もあって、そのサンプルは女面(小面)なのですが、檜の角材が徐々に鑿打たれ磨き上げられ、漆や胡粉、墨に紅、お化粧するかのように仕上がっていく様は工芸品の域を超えて芸術品でもあるかのよう。
新作でさえそうなのだから、古面となると来歴が古色となって添えられて、名物へと昇華するのでしょう。
京都を舞台とする演目が知れて、お能から京都観光、何れ気ままに外出出来るようになったらゆかりの地を巡ってみようと思います。

お時間になりました。ギャラリー横のホールに向かいます。
席数400の講演会場には大きなスクリーンを備えたステージがあって、そこに演台がひとつ。
3回の講演会の1回目。京産大スタッフ(学生さん?)から紹介を受けてご登壇される講師は面打ち(能面師)の大月光勲さんで、今回のテーマは「能面は不思議」。
名物とされる古面をスクリーンに提示しながら、そのフシギを解き明かしていこうという筋書き。
大月さんは自らの個展を国内・海外で開く傍ら、パリのミュージアムやアフリカ、アジア、南北アメリカに仮面を探ねられたとのことで、それらと比べ能面が如何に特徴的であるかを語り、「能面の不思議=表情の変化」を主眼に、その特徴、それがどのように生まれたのかを解き明かす。

一部には瞬間表情で変化の乏しいものもあるが、能面の代表となる「小面」などは一見無表情にも見える中間表情からほんの微かな動きで感情の機微を表すように作られる。
「能面の不思議=表情の変化」は「テル・クモル」、上向き加減を「照ラス」といいそうすることで笑っているように見えて、面を伏せると「曇ラス」で泣いているようにも見える・・・ように工夫されている。
そのために、端正に見える相貌は、意外に複雑な起伏を備え、額は張り出し、僅かに窪んだ眼窩に上瞼はぷっくらと膨れて、対する下瞼は極控えめ、上唇と下唇も同様の関係で、半開きでおちょぼ口に見える唇の幅とやや大ぶりの鼻翼の幅はほぼ同じ。頬は上側が張り出して下にいくほど横に広がりつつ後ろに退き、顎ははっきりと存在を主張する。
下を向くと、額と上瞼、高い鼻、上唇が影を作って暗い表情となり、上を向くと一転して明るい表情に変わる。角度によって、眼や口が動いているようにも見える。動きを伴う仕掛けではなく、陰影だけで変化を齎す。
そうした働きは筋肉の連動であると大月さんは仰言る。滑らかに見える相貌には表情筋まで表現されている・・・とのこと。表面だけを写しても能面として機能しないということなのでしょう。
そこは面打ちの腕の冴え。下手では名物に迫るような出来映えに至らないが、上手にきっちり打ってしまってもそうはならず、最上級の上手は下手に見える・・・というのが、難しさであり面白さである・・・らしい。ヘタウマ??
左右対称でもなく、上下の動きに加えて横の動きでも表情が異なって見えるのは、能舞台の構成に関係したものか。
完成時の出来映えは100%ではなく約八割方に留め、残りの二割は演者に委ねるようにするのだとか。面(おもて)だけで完成してしまうと、かえって演技がしづらいのかもしれません。能は面を活かすように演じられ、あたかも面が演じるように見せるのが能であって、面に生命を吹き込み、そこに込められた本質を引き出すのがシテ方の役割りということなのでしょう。

現代の人間国宝が作られた新面から室町期の古面、「式三番」の翁や田楽能、猿楽能で用いられた面から連なる能楽の歴史、完成期とされる世阿弥の時代から名手とされた面打ちの作品、太閤秀吉が愛蔵していた「天下三面」に超有名な「ヲモカゲ・孫次郎」などなどの名物に施された工夫などなど次から次に紹介されて、講義を拝聴、ついていくのが精一杯でノートを取るのも忘れそう(事前にレジュメは頂戴しているのですが)。
長い歴史に裏打ちされているとはいえ能面はあまりに奥深く、能は意義深い芸能。2時間の講義では理解に届かないでしょうが、概略というにはしっかりと充実した内容で満喫、愉しませていただきました。


おまけ
むすびわざ館には旧いMercedes Benz 170が展示されていて、古面に負けず貴重品。旧車好きとしてはちょっと食指が動いたり・・・。
まァ、ここまで古いと実用向きではないでしょうから、もう少し新しいW113とかW114辺りを終いのクルマと出来れば良いでしょうね。
ゼッタイお赦しが出ないでしょうが・・・。

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