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続・大阪長屋でレクチュア・ガムラン [音楽のこと]

コロナ禍の外出自粛要請などの影響で様々な催しが延期や中止となる中、ワタシがオッカケしちゃってる変幻自在なガムラン・ユニットTidak apa-apaのレクチュア・ライヴも順延を余儀なくされて、当初の予定から一ヶ月余りも日にちが延びて仕切り直し、今日と明日の二日間、大阪市北区豊崎のgallery yolcha隣接のFLAT spaceで開催される運びとなったのですが・・・。


気象庁の発表を待たずして体感的には梅雨が明けちゃったような近畿地方。温度は盛夏のそれに迫り、朝から茹だるような暑さ。
早朝から悠長に鑑蓮会でお寺さんのお庭を散策なんかしていたから、頭の中はハードボイルドな固茹で玉子。ハスに癒されたはずが、大阪に出て来た頃にはもう半ば蕩けちゃったような。暑気中りか熱中症? ハスに感化されて、早起きした分お昼過ぎには散るさだめ?!

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噴き出す汗を拭きながら辿り着いたのは、細い路地の中ほど、登録有形文化財に指定されている吉田家住宅の一部、大正期に建てられた長屋の一角をリノベーションしたFLAT spaceという不思議な空間。
そこの2階を会場として催されるのは、「大阪長屋でゆったりジャワ芸能を知る vol.2」というジャワ・ガムランのレクチュア・ライヴ・イベント。「vol.2」とある通り、今年の2月に開催された同一企画の続編となるもので、6月開催のはずが諸々あって7月にスライド。
それを主催するメイン・パフォーマーズが、ジャワ・ガムランをこよなく愛する女性三名で構成される変幻自在なガムラン・ユニットTidak apa-apa
メンバーは近藤チャコさん、西田有里さん、松田仁美さんで、5年前にご縁があってお近づきになって以来、ジャワの伝統音楽を広めたいという以前にガムランを通じて喜び・愉しさを分かち合おうとする姿勢に共感しちゃって独りぼっちのグルーピーあるいはジェントルなストーカー?
ガムラン演奏で三人というのはかなり少ないのでしょうが、器楽演奏に加えて、歌っちゃうわ、時には踊っちゃおうかというメンバーで、まァ、オンナ三人寄ったらナントカ(自主規制)ですから十分にお賑やかで、そのうえこの上もなく華やか??
さらに前回同様、ジャワ舞踊ワヤン・クリ(影絵芝居)のご披露もあるとのことでそのためのゲスト・パフォーマーが参加することになっている。

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開場が14:00で、開演が14:30の予定。
少し早めに着いてみると、来場者の中には見知ったお顔もチラホラあって、ご挨拶もそこそこ、中に通されるとすでに艶やかな衣裳を身に着けたメンバーさんたちがお出迎え・・・なのはいいのだけれど、古い建屋はエア・コンディショナーの効きがよろしくないのか、開演前から熱気ムンムン!! 本番前から燃える闘魂?
会場となる2階も長屋のそれで六畳二間を開け放ったようなスペースで、演奏のためのガムラン楽器・・・鍵盤打楽器が4台ほどと太鼓があって、踊りのための場所も空けておかないといけないようで、オーディエンスがみんな入っちゃうとなかなかに「密」であることは否めない。おまけに、低い天井のすぐ上は炙られた屋根瓦なのでしょうか、1階よりも過酷なような・・・。

そんな中、予定通りに開演で、まずはプロジェクタを使って、社会科のお勉強から。
東西に細長く連なる大小の島々で構成されるインドネシア共和国の地図を見ながら地理から歴史、お話しがジャワ島に至ったところで音楽科にスイッチ。
スクリーンに投影されるのは現地で取材、撮影された画像や映像となって、伝統音楽であるガムランが今もそこで愛されて、事あるごとに舞踊や影絵芝居なども添えられて、日常に溶け込んでいる様子や晴れやかな結婚式での演奏風景にちょっと変わった厄落とし、儀礼的な行事の模様など。
儀礼の中で、祝詞や経文に代わって災禍を祓い落とすのはワヤン・クリ(影絵芝居)のお役目。それを盛り立てるのがガムラン音楽
ワヤンの後に厄落としの断髪を担うのは、お人形を操演していたダヤンと呼ばれる人形遣い。
様々な宗教文化が通り過ぎて行ったインドネシア・ジャワにあって、そうした因習は旧い王朝時代から変わらず引き継がれるガムランワヤンが引き取ることになっちゃったのでしょうね。

その影絵芝居がこの後上演されるのですが、その解説も予め前以て。
ワヤンで人気の演目は、古代インド叙事詩を原典とするお話しで、現地では夜を徹して演じられるのだとか。さすがにそのまま再現するわけにもいかず、うんとコンパクトな抜粋のダイジェスト版。
今日演じられるのは『マハーバーラタ』から「マエロコチョの庭」というエピソード。長大なサーガの、神々や王族が数多登場する中で起こる三角関係のもつれからの愛憎劇。ドロドロでゲスゲスなトライアングル・ラヴやったらワタシの得意分野やな。
フレンドリーな解説共々見聞きしていると、長屋2階のムンムンとした熱気がジャワにいるかのように感じられて、生々しい臨場感!?

現地レポートを交えたジャワ伝統芸能のレクチュアを終えて、プロジェクタなど機材が片付けられたら、客席(?)は一斉に左向けひだり!!
いかにも日本家屋な漆喰壁一面がバティック染めの布地で覆われ、そこだけ切り取ったらどこだか分かんない。
ジャワ舞踊をご披露くださるのはゲストの西岡美緒さんですが、彼女は控えて心緒をコンディショニング中で、変わって解説を加えるのはMCの有里さん。
ダンスも後に続くワヤンの内容に沿ったもので、そのエピソードに登場する戦士でもあるジュンクンマルデヨ王子の心情を描いた「クロノアルス・ジュンクンマルデヨ」という演目であるとのこと。
女戦士スリカンディとその師匠にして愛人のアルジュナ、二人の間に割って入ろう、美貌の王女を我が物にしたいと恋い焦がれるジュンクンマルデヨ。その悶々とした様子を表現する官能的な舞踊。
演じる踊り手は女性ですが、演じられるキャラクターは男性。タカラヅカのトップスター的な・・・?

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用意万端整ったところで、Tidak apa-apaの三人にゲストのナナンことアナント・ウィチャクソノさんを加えたガムラン・カルテットが演奏を始めて、お部屋のとっつきをお能で言うところの鏡の間として、トラディショナルで婉麗な出で立ちの踊り手が登場!!
しゃなりしゃなりと本舞台・・・といっても、長屋の2階のひと間なんですけどね・・・に出て来られて、客席に向かって蹲踞・・・といっても女性ですから膝を割れず、変則的な胡坐座りから。
ひととき此処はジャワの王宮、応急的な舞踏場。
ジュンクンマルデヨに扮しているとはいえ、そこはジャワ伝統の宮廷舞踊、凛々しさよりなよやかさが勝るようにも感じられて、伴奏の柔らかい楽音とも相まって、はんなりとした京言葉にも似た振り付け・・・というより所作で、足運びや手の動きは能や狂言よりは京舞に近しいようにも見えて寛雅にして繊麗。
踊りの方が美妙なら、それを盛り立てる伴奏も妙味な妙技。本来なら10台、20台と鳴るところが少数精鋭の四重奏、ひとつずつの音が際立って、踊りに合わせて嫋やかで、青銅製の鍵盤打楽器の木製台座から旧い床材に共鳴りして部屋一杯にアコースティック、耳だけでなくお尻に響いちゃうから文字通りin the groove、音に乗せられちゃう。
まァ、ねェ、重い青銅楽器がここで10台、20台と鳴っちゃったらそれこそ暴奏、床が抜けちゃうかも・・・??

流麗なジャワ舞踊は15分ほど。その後、美緒さんから演目について、振付けのご解説。
そのコレオグラフィーはちょっと視覚言語的なシーケンスの組み合わせで、karma(羯磨)の表現動作。能舞や京舞にも通じるような仕草は能作に近い所作。身・口・意の三業の、舞踊が身、楽音や歌が口、その二つがひとつになって思いが重なる芸能なのでしょう。

耳福、眼福となる踊りを「序の舞」としてワヤンに続けばいいのですが、ここでしばしの休憩。人形芝居の段取りもあり、何よりこの時節、歓喜より換気が大事。

客席は右向けミギで、前半にプロジェクタが映像を投影していたところが影絵芝居のスクリーン。
・・・ですが、今日は影ではなく、実体を観る人形芝居スタイル。
ユネスコ無形文化遺産にも指定され、一千年以上の歴史を持つワヤンには、演技、歌、音楽、演劇、文学、絵画、彫刻、彫刻、象徴的な芸術が含まれて、各種儀式やイベントごとなど事あるごとに上演される娯楽の集大成。
水牛の革を切り抜いて作られるそれは、昭然たる彩色が施されて影にしちゃうには勿体無いほど、アート作品とも言えるような出来映え。で今は、現地でも影より実体を観る形式がスタンダードになって来ているのだとか。
ご解説通り、演目は女戦士スリカンディと半神半人の色男アルジュナジュンクンマルデヨ王子があんなことやこんなこと、えッそんなことまでなことをしちゃう恋愛格闘冒険活劇!?

A long time ago in a galaxy far, far away…. (ジョン・ウィリアムズ作曲の「メイン・テーマ」を流して頂きたい)
インド版では男性から女性に性転換転生したとされるスリカンディはイケメンのアルジュナに惹かれ、彼に弓術を教わりながらいつしかフォーリン・ラヴ。
一方のアルジュナ、こちらも王家出身ながら実の父親はとある神様で、心身ともに健やかなればその心根も健やかで、美男子にして王子で阪神の選手半神の戦士。
ひと目盗み見たスリカンディの美しさに心奪われたジュンクンマルデヨはやがてはのぼせあがり、逆上のあまり思いあまって、美貌の王女を手に入れるためにその国を滅ぼしても構わぬと軍団を率いて攻め入ることに。
そんな強引な力技では女性は靡かない? 攻めくる軍勢を迎撃せんをパドメ・アミダラ・ネイベリースリカンディ自ら弓を取り、かくして戦いの火蓋が切って落とされ・・・。ナタリー・ポートマンもビックリやな。

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エピソードごとに数多のお人形さんが登場するが、クワトロ・バジーナことシャア・アズナブルが搭乗するモビルスーツみたいに金色に光り輝くのは(ほぼほぼ)神々や王家に連なる高貴な方々で、他人とは思えないような黒尽くしは(ほぼほぼ)魔物や道化。キャラクター固有の造形もあり、その時々で別々の役を演じるお人形もいて、キラキラしているのは大体二枚目系で、黒いのは滑稽な三枚目。
他にはグヌンガン(世界樹)と呼ばれる形代があって、リヴァーシブルに色付けされたそれは、時に炎や水を表し、宮廷などの設えともなるバックグラウンド的な代物。
数多の人形の操演に加え、全ての台詞とナレーションを担当するのはナナンさん、今日は日本語ヴァージョンで。人形の操作、セリフに加え、足まで使ってサウンド・エフェクト。
彼のキッカケ、動きに応じて変幻自在な劇伴を演奏するのはTidak apa-apaの三名(近藤チャコさん、西田有里さん、松田仁美さん)に、衣装を着替えた西岡美緒さん。

ストーリーは(ほぼほぼ)古代インドのサーガに沿いつつ、現代的な解釈や受けを狙った演出が加えられて、ダヤン(人形遣い)のアドリブも入るので、演じられる度にお話しは微妙に変化。
ジャワ現地では(ほぼほぼ)夜を徹して繰り広げられるそうで、宵の口はお子さまも理解出来るようなところから、深まるにつれ大人向きな色付けがあるのでしょうが、ナナンさんの場合は陽の高いうちから若干の性的表現を含みます(笑)。
まァ、今日はお子さんはみえてないし、日本語化するに当たってウケを狙うとなるとそうした演技も必要なのでしょう。
人形がクルリと宙に舞うかと思うと、放たれた矢はワタシの胸元まで飛んで来ちゃうし、生あるもののように縦横無尽、お人形さん同士であんなことやこんなことまでしちゃうのね。

室内の体感温度がグーンと高まるような大熱演は予定された受け持ち時間を大幅にオーヴァー。長大な叙事詩の数多の登場人物には細かい設定もあって、短くダイジェストというのも難しいのでしょう。まァ、お人形さん同士のあんなことやこんなことやちょける(戯ける)道化二人のやりとりは多少省いてもいいのでしょうが、それが面白いんだから仕方ない、よねェ。
十分に堪能させて頂いたようで、音楽も踊りもワヤンももっと観ていたいと思えてしまう不思議な魅力。夜を徹して演じられるのも分からなくないような。しかし、今日はもう熱気にあてられちゃったようで・・・。
次回は京都で3daysだとか。日程的には「大阪クラシック2021」や「ワンコイン市民コンサート」と重なりそうな気もしなくもないのですが、行かないわけにはいかないですね。

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