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人は人をどう表現してきたか ~ ルーヴル美術館展 [散歩・散走]

フランス芸術を巡る知的冒険。
今日は遠路、フランス・パリのルーヴル美術館を訪ねます。

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・・・と言いたいところなのですが、諸般の事情からそうもいかず、大阪市天王寺区の天王寺公園内に在る大阪市立美術館で開催中の『ルーヴル美術館展 肖像芸術 - 人は人をどう表現してきたか』で、その課題に取り組みたいと思います。

ルーヴル美術館は、パリ中心部1区セーヌ川右岸に在るフランスの国立美術館。
元を正せば、12世紀にフランス王フィリップ2世が要塞として建設したルーヴル城で、幾度となく増改築を繰り返し、フランソワ1世以降ルーヴル宮殿となり、ルイ14世ヴェルサイユ宮殿に移すまで、王宮として用いられた由緒ある建築物。
王宮としての役目を終えた時から古代彫刻などの王室美術品コレクションの収蔵、展示場所となり、フランス革命後に正式に美術館としてオープン。現代は「パリのセーヌ河岸」の一部として、ユネスコ世界遺産にも登録される。

収蔵品の多くは歴代王室のコレクションに加え、皇帝ナポレオン1世がヨーロッパ、アフリカへと覇権を広げる中、諸国からパクって収奪してきた物が多く、現在の収蔵品は380,000点を超える。
それらは、「古代エジプト美術部門」、「古代オリエント美術部門」、「古代ギリシア・エトルリア・ローマ美術部門」、「イスラム美術部門」、「彫刻部門」、「工芸品部門」、「絵画部門」、「素描・版画部門」と分類されているが、総面積60,600㎡の館内に展示されているのは35,000点。僅か10%足らずにとどまって、それ以外は修復中であったり、鑑定中であったり、バックヤードに眠ったまま。
先史時代から19世紀ごろまでに製作されたものが多く、ワタシが好む近代~現代の作品は殆どない。そういった作品は、製作者からパトロネージュ、あるいはオークションを経て、個人蔵であったり、4区の総合文化施設「ポンピドゥー・センター」内の国立近代美術館(MNAM・旧リュクサンブール美術館)やパリ市立近代美術館など、他の美術館へ齎されている。

では何故、近現代好みのワタシがルーヴル所蔵品を観に行くか?
19世紀末~20世紀にかけての近現代の芸術家、分けてもパリ・コミューンモンマルトルモンパルナスに屯ろした彼らも足繁くルーヴルに通い、古典芸術からその技法を学んだという。これらの肖像も繁々と鑑賞し、その表情を参考にした・・・かも知れず・・・。
近代を知るには、まず古典を理解しなければ・・・っと。温故知新ってヤツですか。

で、ルーヴルで肖像となると、数多ある中、イタリアはヴィンチ村のレオナルドさん描くところの「謎めいた微笑を湛えた女性のバスト・ショット」が超々々有名で、フランソワ1世がお買い上げとなって、フランスの国有財産となったその肖像画は恐らく超々々高価値なのでしょうが、高価値故に門外不出、今回来日を果たせず。
これが来ちゃうと、他の美術品は霞んで「モナ・リザ展」になっちゃいますから?! それこそ、大ニュースで超混雑を招いちゃう。
また、ルーヴルで肖像となると、数多ある中、古代ギリシアで制作されて、エーゲ海・ミロス島で発見された、アンティオキアのアレクサンドロス作と考えられる、彫刻の女性像。両腕を欠いてもなお美しいとされる大理石製のヴィーナス像。
これが来ちゃうと、他の美術品は霞んで「ミロのヴィーナス展」になっちゃいますから?! それこそ、大ニュースで超混雑を招いちゃう。
その、ミステリアス・スマイルを浮かべた女性像や神秘的な女神像を省いても、ルーヴルにはポートレイトはてんこ盛りありますよっとご紹介されるのが今回のエキシビション。

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会場となる天王寺公園大阪市立美術館
ここらはかつて茶臼山古墳であったらしい。埋葬者こそ不明ながら、『日本書紀』にも「廃陵」と記された、大阪市内でも最大級の前方後円墳で、戦国時代にはその上に城郭が築かれ「大塚城」となり、大坂冬の陣では徳川家康の陣城、夏の陣では真田信繁(幸村)の陣城となり、「天王寺口の戦い」の戦さ場となったところ。
近代になり、住友財閥創業者一族の本邸が築かれ、その後、美術館建設を目的として、日本庭園「慶沢園」共々、大阪市に寄贈されたもの。1936(昭和11)年オープン。

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では、今回『ルーヴルが誇る肖像芸術』としてはるばる日本に運ばれたのは何かというと・・・。
アントワーヌ=ジャン・グロ描くところの「アルコレ橋のボナパルト(1796年11月17日)」やパオロ・ヴェロネーゼことパオロ・カリアーリ女性の肖像」、通称「美しきナーニ(ラ・ヴェッラ・ナーニ)」、エリザベート・ルイーズ・ヴィジェ・ル・ブランエカチェリーナ・ヴァシリエヴナ・スカヴロンスキー伯爵夫人の肖像」などの絵画作品、古代エジプト期のミイラを飾ったマスクや古代ローマ時代の墓碑に添えられたレリーフ、各時代の建物に飾られていたであろう大理石像、タバコ入れを飾ったミニアチュールにコインや指輪などなど、上記の全8部門から選りすぐられた大小の作品約110点。

会期は、2018年9月22日(土)~2019年01月14日(祝)と長く、慌てることもなかったですが、まァ、行ける時に行っておかないと先の予定がはなはだ未確定。
09h30開館を勘違いして10h00着。既に入場者が列を成す。券売所も混んでいるが、事前にチケットは買ってある。

館内は、『プロローグ マスク - 肖像の起源』から始まって、以下、『第1章 記憶のための肖像』、『第2章 権力の顔』、『第3章 コードとモード』、『エピローグ アルチンボルド - 肖像の遊びと内容』に分けられ、その中もさらに細かいセクションに区切られる。

プロローグ マスク - 肖像の起源(Prologue:The Mask, an Origin of Portrait)』には僅かに2品。「棺に由来するマスク」と「女性の肖像」。どちらもエジプトで出土した棺に添えられてあったもの。
新王国時代(前1570頃-前1070頃)のマスクは故人の容貌に似せたものではなく、今度生まれ変わるならこんな顔がいいと理想化・様式化された顔。
1〜3世紀頃になると、写実性・肖似性が重視され、故人の顔立ちを写したものになったとのこと。
3000年前から、ちょっと”盛ってた”というのが面白い。
理想化・様式化」と「写実性・肖似性」、同じエジプトで制作されながら、対極的な表現をなす2つのマスクが示す2つの方向性。それがこの後に続く展示品にも受け継がれ・・・。

第1章 記憶のための肖像(The Portrait ‒ Souvenir)』は、
1a 自身の像を神に捧げる - 信心の証しとしての肖像(Offering One’s Image to the Gods: Portrait as a Testimony of Devotion)』、
1b 古代の葬礼肖像 - 故人の在りし日の面影を止める(Ancient Funerary Portraits: Keeping the Image of the Deceased Alive)』、
1c 近代の葬礼肖像 - 高貴さと英雄性(Modern Funerary Portraits: Nobility and Heroism)』、
と3つのセクションに別れて、ここに並ぶのは「人の存在を記憶する」ために作られた、主に大理石などの彫刻作品。
古代地中海世界には、祈願が成就したときの返礼、あるいは信心の証しとして、神々や英雄など信仰の対象に、自身の像を奉納する習慣があったそうで、エジプト王朝古代ギリシア古代シリア古代ローマなど周辺列国から出土した像やレリーフ、モザイク画など。
写実的に作られた墓標のレリーフもあれば、狩りの女神ディアナヘラクレスエロスを擬した姿に彫られた大理石像もあるのだけれど、”盛って”いたり、コスプレっぽくなっていながら、それが”ウソ”にならないようにか一層リアルで細密。衣装の襞、襟飾りのレースまで石とは見えないほど精緻に彫られた、まさに芸術品。
唯一の絵画は、ジャック=ルイ・ダヴィッドと工房作『マラーの死』。
フランス革命の重要人物ジャン=ポール・マラーが対立するジロンド派の女性、暗殺の天使シャルロット・コルデーことマリー=アンヌ・シャルロット・コルデー・ダルモンによって刺殺された事件を描いたもの。マラー革命の殉教者に仕立てるために描かれた、『記憶』は記憶なのだけど、政治利用のためのちょっと作為が入ってるのね。

第2章 権力の顔(Faces of Power)』は、
2a 男性の権力者─伝統の力(Men of Power: The Force of Tradition)』、
2b 権威ある女性(Women of Majesty)』、
2c 精神の権威 - 詩人、文筆家、哲学者(Powers of the Mind: Poets, Writers and Philosophers)』からなり、
ラムセス2世バビロニア王メリシパク2世ハンムラビ王アメンへテプ3世アレクサンドロス大王ミトリダテス6世エウパトルティベリウス帝カラカラ帝ハドリアヌス帝アンリ2世ルイ15世リシュリュー公爵ルイ・フランソワ・アルマン・デュ・プレシザクセン選定侯ヨハン不変公神聖ローマ皇帝カール5世(スペイン国王カルロス1世)、アンリ3世フランスとナヴァールの王妃マリー・ド・メディシスルイ14世ルイ16世王妃ケネメト・ネフェル・ヘジェト・ウレトクレオパトラ2世またはクレオパトラ3世スペイン王妃マリアナ・デ・アウストリアと、歴史の教科書で見知った、時の権力者、お歴々のお顔がずらりと勢揃い。オールスターラインナップの様相。
ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングルフランス王太子、オルレアン公フェルディナン=フィリップ・ド・ブルボン=オルレアンの肖像」が一番新しいものでしょうか。猫の目のように、コロコロと政変が続いたから、その辺りの歴史は少しややこしい。
そして、一番威張っている(?!)のが皇帝ナポレオン・ボナパルト。将軍時代の、いかにも「エロイカ」なヒーロー風から戴冠式でのちょいとローマ風を気取った絢爛豪華な装束まで、自己顕示欲の現れなのか、かなり盛大に”盛られた”お姿が並ぶこと。デスマスクが安らかで何よりで。
♫バラは バラは 気高く咲いィてェ〜♫な頃のフランス王妃マリー=アントワネットの胸像もあって、それも優しく見えるようにちょっと”盛られて”いるらしい。池田理代子先生もビックリですな。
文化人代表は、古代ギリシア時代の詩人像からホメロスアリストテレスヴォルテールことフランソワ=マリー・アルエに古代風の衣服をまとったジャン=ジャック・ルソージャン・ド・ラ・フォンテーヌオノレ・ド・バルザック、et cetera。こちらは写実的・・・か?

第3章 コードとモード(Codes and Modes)』とは、何やら音楽的なのかしらン?
3a 男性の肖像 - 伝統と刷新(Conformism and Singularities in Masculinity)』、
3b 女性の肖像 - 伝統と刷新(Conformism and Singularities in Femininity)』、
3c 子供と家族(The Child and Family)』
とお風呂屋さんみたく分けられているが、社会の近代化に伴って台頭してきたブルジョア階級のリッチな商人や銀行家、さらに下の階級に広がったモデル層。
それらを、肖像表現のコード(決まった表現の仕方・表現上のルール)を踏襲しながら、各時代や地域、社会特有のモード(流行)を織り交ぜて描き出した作品群。15世紀から18世紀、そこにいたであろう、伯爵、貴族、そして市井の人々。
レンブラント・ハルメンソーン・ファン・レインが妻と娘をモデルに描いた「ヴィーナスとキューピッド」も愛らしいけれど、やはり、パオロ・ヴェロネーゼことパオロ・カリアーリ女性の肖像、(通称)美しきナーニ(La Bella Nani)」、エリザベート・ルイーズ・ヴィジェ・ル・ブランエカチェリーナ・ヴァシリエヴナ・スカヴロンスキー伯爵夫人の肖像」、その麗しいこと。今の基準でいくとちょっとポッチャリではあるのだけれど、うちのマダムと較べると・・・(以下自粛)。
3d 自己に向き合う芸術家(The Artist Faced with Himself)』として、フランツ・クサファー・メッサーシュミット性格表現の頭像」、ジャン=バティスト・グルーズ自画像」、ジョゼフ・デュクルー嘲笑の表現をした自画像」が並ぶ。

そして、『エピローグ アルチンボルド - 肖像の遊びと内容』には、16世紀後半に活躍した奇才の画家、ジュゼッペ・アルチンボルドの「四季」連作から、『』と『』の2点。
肖像画に重ねられた静物画。季節の寓意と同時に、多種多様な植物を散りばめることで、森羅万象を掌握するかのような強大な権力を隠喩する。「写実性・肖似性」から離れた、変則的な「理想化・様式化」。

第2章 権力の顔(Faces of Power)』の合間には『幕間劇Ⅰ 持ち運ばれ、拡散する肖像─古代の硬貨から17世紀ムガル朝インドのミニアチュールまで(Interlude I / Mobility and Diffusion of Portrait: From Ancient Coins to the 17th Century Mughal Miniatures)』としてコインや指輪、装飾品などの小物が並び、『幕間劇Ⅱ 持ち運ばれ、拡散する肖像─フランス国王ルイ18世のミニアチュール・コレクション(Interlude II / Mobility and Diffusion of Portrait: The Collection of Miniatures of King Louis XVIII)』として嗅ぎ煙草入れの蓋を飾ったミニアチュール・・・歴代王族や貴族、偉人の肖像画が展示されて、それも小さいながらに、精密で見応えたっぷり。

古いもの、超旧いものが多くて、好みの近代~現代との繋がりは希薄なようでいて、表現方法や技法は連綿と今に続いているのが感じられました。それがどう継承されて、どう変化、分化、多様化していったのかは改めて考えてみようと思います。

今になっての『肖像展』、ルーヴルが誇る似顔絵・似姿展(?)の意図は・・・と考える。
今はスマートフォンやiPhoneを使っての自分撮り(自撮り、セルフィー、Selfie)が全盛。それも専用のアプリケーション・ソフトウェアで"盛る"のが大流行り。ひと昔前は「プリクラ」などのプリントシール機とかもありました。InstagramやLINEなどSNSを通じて、インターネット上に「理想化・様式化」された「自画像」が溢れ返る時代。3000年前から皆んな"盛っちゃって"たんですよ、ナポレオンマリー=アントワネットでさえ"盛り盛り"、美しきナーニエカチェリーナ夫人は・・・?
自撮りの時代の肖像展。撮り方を考えろよ、"盛り"方に拘れよ・・・ということでもないでしょうが、表情の作り方、心象表現の参考にしてね・・・ってことなのかしらン?!
ワタシもそろそろ、権威、威厳を示す顔つきを見習わないといけませんな。

今回の展示品。多くはフランス国外で制作されて、ルーヴルへと運ばれたもの。純粋にフランス芸術と呼べるものは少なく、フランス所有芸術。それも、その殆どが教会や諸外国からパクって収奪して、就中、古代の棺や墓標から剥がして来たものもあって、畏敬の念は? 罰が当たるんじゃね?! とも思っちゃうのですが、異なる神を信じ、異なる宗教のもとにあっては、そんなことはお構い無し。フランスの威光と繁栄がそんなものは跳ね除けちゃう・・・とでも言いたいのでしょう。それ自体が『権力の顔(Faces of Power)』と威張っているみたいで、笑っちゃいそう。
人は人をどう表現してきたか』というより、「人をどう扱って来たか、他民族や他宗教をどうもてなしたか」と別の問題が発生しそう?!
しかし、まァ、楽しませて頂きましたし、眼の保養にはなりました。これらの作品がフランス近代芸術にどう影響、作用したかは追々考えようと思います。

で、ルーヴル・・・LOUVREにはLO・V・E、LOVE、愛があるんだってさ。マジですか?!

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ひと通り観終えて、逆行するには混雑し過ぎ、再入場は許されないらしい。
外へ出てみると、今日も夏日のような陽気で、ついでに「慶沢園」を拝見しようかという気さえ失せてしまう。
天王寺公園では「オクトーバーフェスト」が開催されて、こちらもそれなりの人出。昼ビールもそそられはするが・・・。外は暑過ぎる!!!!

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梅田
まで戻って、新阪急ホテル地下のパブ・ラウンジBeatsで限定カレー・ランチ。「W玉子カレー 牛カツと茸をのせて」。
カレーピラフに混ぜ合わせた玉子を半熟状に仕上げ温度玉子をのせました。柔らかく煮込んだ黒毛和牛を揚げた牛カツ、玉葱や茸、三つ葉もトッピング。トロッとまろやかなご飯が美味しい新感覚カレー”で、ジャーサラダコーヒーまたは紅茶付きのセットメニュー。
玉子で和えられた、ちょっとカレー炒飯みたいなカレーピラフに温泉卵。衣はサクサクで、身は柔らかな牛カツが添えられて、ポットに別添えされたカレーは定番の欧風。
悪くはないけど、定番の「焼きドライカレー」の方が好きかも。

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