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暗殺のオペラ [散歩・散走]

今日から九月で、今日は「二百十日」。
「立春」から起算して210日目の雑節で、台風が多い、あるいは風が強い日と言われ、その通りに、超大型の台風21号が近づきつつあって、まだ風はない代わりに秋雨前線が雨を齎らす。
暦の上では秋とはいえ残暑も厳しく、なかなかに自転車日和とならず、そろそろシビレが切れてきたところに雨、台風。
来週からは秋の恒例行事「大阪クラシック」も催されるし、その後にはワタシにとって久し振りの自転車イベントとなる(であろう)「御堂筋サイクルピクニック」も控え、もちろん月に一度のお楽しみ、「ワンコイン市民コンサート」もあれば、「日曜ガムラン」はいよいよ「まちかね祭への道2018」へと発展する。
ポタリングどころか、遊ぶヒマあらしまへんがな!?
えッ、全部お遊び・・・ですか?

今日、1日は「ファーストデー」とか「映画の日」とか呼ばれる、映画がお得に観られるサービスデー。
本当の「映画の日」は、日本で最初の映画が1896年に神戸で一般公開されたことに因んで、12月1日。それから広がって毎月1日は「映画の日」だったり、「ファーストデー」だったり。
で、そんな日に雨だからと籠っているのも勿体無い話し。
で、今日もテアトル梅田まで。

Strategia del ragno.jpg

今日鑑賞するのは、ベルナルド・ベルトルッチ監督作品「暗殺のオペラ(Strategia del ragno)」。
1970年公開(日本公開は1979年8月)のイタリア映画で、今回上映されるのはそのデジタル・リマスター版。

フランスのシネマでもなければ、音楽映画でもないのだけれど、タイトルに「オペラ」とあって、イタリアの田舎町のオペラハウスが重要な舞台となり、全編通じてジュゼッペ・ヴェルディの『リゴレット(Rigoletto)』からの楽曲が引用されて、アルノルト・シェーンベルクの作品やカンツォーネが効果的に用いられていたりするので、強引に音楽映画と認定してしまいましょう。
リゴレット』の原作は、フランス史の実話に基づく、フランス・ロマン主義の詩人、小説家のヴィクトル=マリー・ユーゴー作『逸楽の王(Le Roi s'amuse)』ですし・・・。

同じ年に公開された「暗殺の森(Il conformista)」とともにベルトルッチ監督の出世作となったこの映画は、アルゼンチン出身の作家、ホルヘ・ルイス・ボルヘスの短編小説「裏切り者と英雄のテーマ(ema del traidor y del héroe/Theme of the Traitor and the Hero)」を原作とするが、そちらはわずか8ページ程度の掌編で、アイルランドの謀反人にして英雄とその孫のお話しであるのに対して、映画版となる「暗殺のオペラ」は、舞台をイタリアの片田舎に移し、反ファシズムの英雄として暗殺された父とその死の真相を探ろうとする息子のお話し。

脚本がベルナルド・ベルトルッチマリル・パロリーニエドゥアルド・デ・グレゴリオ。イタリアらしい色彩感と官能性を現す映像美はヴィットリオ・ストラーロフランコ・ディ・ジャコモの手腕に依る。
主演は、ジュリオ・ブロージアリダ・ヴァリ

夏のある日、片田舎の小さな駅にひとりの男が降り立つ。彼の名はアトス・マニャーニ(ジュリオ・ブロージ)。謎めいた美貌の女性、ドライファ(アリダ・ヴァリ)の招きで、父の死の真相を探るべくやって来た。

その、ハム作りが盛んで、パルチザンが多く潜んだ土地・・・恐らく、エミリア=ロマーニャ州パルマ近郊のどこか・・・は、中世の名残りを色濃くとどめた(架空の)小都市で、彼の父はここでレジスタンスの闘士として活躍し、広場には“ファシストに殺されたアトス・マニャーニ”と刻まれた胸像が置かれて、街の通りや青年文化会館にまでその名を留める。30年前に暗殺された父の名も、アトス・マニャーニ。反ファシズムの英雄。
父もアトス、息子もアトスでややこしい。ホテルの大将も謎の女性ドライファも息子を一目見るなり、父に生き写しだという。まァ、ジュリオ・ブロージの二役なのだから、ソックリどころか同一人物。
父アトスは、街の劇場で『リゴレット』を鑑賞中に銃撃に遭い命を絶ったのだという。
息子アトスドライファに会い、父の死の真相を探ってくれと依頼されるが、30年も前のことで、ましてや顔を見たことさえない父にはさほど関心を寄せない。すぐにミラノに帰るというが・・・。何しに来たん?

暗殺のオペラ」の原題は「Strategia del ragno」で、英題は「The Spider’s Stratagem」。直訳すると、「蜘蛛の計略」。誰が蜘蛛で、どんな計略が謀られたのか。
リゴレット(Rigoletto)』は、イタリア・オペラを代表するマエストロ、ヴェルディの、自身が最高傑作だと言う代表作のひとつで、享楽を尽くす公爵と彼に仕える醜い道化と美貌の娘が登場し、呪いが渦巻く復讐劇。この時が止まったような田舎町も父アトスの呪いの中にあるかのようで・・・。
オペラの中ではモンテローネ伯爵とリゴレット、二人の呪いが錯綜し、美貌の娘が翻弄されちゃうのですが、さてこの映画では・・・。誰がマントヴァ公爵で、誰が殺し屋スパラフチーレとなるのでしょう。

ドライファに話しを聞いた夜、息子アトスは納屋に閉じ込められちゃったり、顔面にパンチをもらってノックダウンしたり、”みんな友達”だという、年寄りばかりが暮らすこの街の住人は何れもどこか怪しげで、蜘蛛の絲が絡むのか、彼は帰るに帰れず、蜘蛛の網の中心へと引きずり込まれていく。
翌日もドライファを訪ね、かつて父の同志だったという三人の男、ハム屋の大将、映画館主、小学校教師とも会見し、事件の経緯を訊ねると、ムッソリーニがこの街のオペラハウスの落成式の日に杮落としの『リゴレット』を観るために来訪、それをチャンスとして暗殺する綿密な計画を練るが、何者かの密告に因ってその謀りごとが露呈し、ファシストの手に拠って父アトスが暗殺されたとのこと。オペラの中の"身代わり"に符合するかのよう。それは、30年前、1936年6月15日の出来事。
ジプシー占い師による死の予言。封の切られていない、暗殺を予告する匿名の手紙。走り去るオートバイ。
ジュリアス・シーザーの故事や『マクベス』の魔女、『オセロ』まで引用されて、ミステリー性が高まるが、何故4人しか知らないはずの暗殺計画が漏れて、父アトスだけが報復のように、『リゴレット』の『呪いの歌』に乗じて殺されたのか。偶然の一致。示し合わせたかのような証言。1936年と現在(1970年)を行きつ戻りつ、何れが虚構で、どちらが現実なのか。

息子アトスと父の同志三人に、かつての宿敵ファシストが同席、酒を酌み交わし談笑するテーブルにライオンの生首が供されたと思ったら、父アトスドライファのテーブルに変わって、ベルトルッチのメソッドに翻弄されつつ、引き込まれていきそうで・・・。

息子アトスはその真相を暴くかのように、父アトスの墓標を破壊。
息子アトスは、かつての宿敵ファシストの親玉で街の実力者とも劇場で対峙し、詰問するが自分は殺人犯ではないと彼は言う。何者かに先を越されたというが・・・。
真実を語っているのは誰か。

息子の行動を見張るかのように付き纏うハム屋。真相に近づきすぎた息子は、彼のフィアット・チンクエチェントで人気の少ない林の中に連行されて・・・。そこに居たのは父の同志三人。父殺しの真犯人が誰であったか知れてしまう。
しかし、「謀略の蜘蛛」の正体は意外にも・・・。
30年を経たオペラハウスで、同じ『リゴレット』上演時に語られる真相。

その正体、これ以上ネタバラシはしませんが、よく練られた脚本で、低予算だと思われるのに隙なく出来たいい映画だと思います。流石に多少の古めかしさは感じますが、このミステリーにはその時代感がマッチしているようにも感じます。

「蜘蛛の計略」ときて、謎めいた女性の登場。この女性、ドライファは原作には無くて、ベルトルッチの創作。父の本妻=息子の母はファシストを恐れて遠く離れて子供と産んだというのに、愛人は「ファシストを恐れる理由はない」と街に止まるし、今以て女の身ひとつでリッチな生活。どう考えても怪しさでは筆頭でしょ。
ミラノの新聞で見つけた息子アトスがかつての愛人に生き写しで、それを召喚、ジャケットを脱がして背中から抱きしめ、19歳の姪がいるからその子を引き取り貴方も一緒にここで暮らそうと妖しく誘惑までするものだから、ついつい”女郎蜘蛛”かと深読みしちゃったのですが・・・。何せ、『女は気まぐれ(La donna è mobile)』、その乳房から愛は呑めない。
なんなら、金田一耕助とか明智小五郎とか、京極堂こと中禅寺秋彦が出て来て、「貴方が女郎蜘蛛だったのですね」とドライファを指差すのかと思っちゃうような展開・・・かと思いきや・・・。

真相はもっと複雑で、想像を絶するドンデン返し。被害者である英雄その人が実は密告者で、謀りごとの張本人・・・だったのですね(バラしちゃった!!)。
彼が裏切り者となると、この街が死んでしまう。死してなお、英雄が英雄としての名を留めるために画策されたその計画、演出がまさにオペラのようで・・・(それはバラしません)。

オペラ。30年前の父アトスの時も、現代の息子アトスの時も、その劇場に掛かるのは・・・偶然の一致か・・・『リゴレット』。低予算なんでしょうね。桟敷にエキストラはいっぱい並ぶのに、音楽や台詞は聴けるのに、舞台は一度も映像に乗らず、道化のリゴレットもマントヴァ公爵もジルダも観れません。
まァ、タイトルに「オペラ」と付いているのは日本版だけ・・・ですしねェ。「オペラ」抜きでも見応え十分です。

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