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(奇跡の)メロディー ~ 「オーケストラ・クラス」 [散歩・散走]

酷暑、猛暑に圧されて、休日の外出は主に映画館や美術館・・・とカレー屋さんで、ポタリングはお花見から途絶えたきり。これじゃあ「シネマとアートとカレーの日々」で、「主にポタ・ネタ」が空音となりそう。ようやく朝夕には秋の気配も近づいて、そろそろ自転車ネタを挙げないと・・・と思いながらも、今日も映画館通いで・・・。


今日もテアトル梅田。「オーケストラ・クラス(La mélodie)」を鑑賞致します(以下、ネタバレ注意)。

Ochestra.jpg

挫折したバイオリニストと夢を見つけた子どもたち パリの空に奇跡のメロディが響きだす”、 “人生も音楽も、こんなにも素晴らしい。”とのコピーがついた、音楽学園ドラマ。
音楽に触れる機会の少ない子供たちに無料で楽器を贈呈(貸与?)し、プロの音楽家が指導に当たり、その面白さ、素晴らしさを教えようという試み・・・フランスで2,000人以上が体験した実在の音楽教育プロジェクト「Démos(デモス)」。それにインスピレーションを受けて、リスペクト。
『コーラス』、『幸せはシャンソニア劇場から』のニコラ・モヴェルネがプロデュース、今作が2作目となるアルジェリア出身のラシド・ハミが監督に当たり、脚本もギィ・ローランと共同執筆。

実際の「Démos(デモス・Dispositif d’éducation musicale et orchestrale à vocation sociale・社会的オーケストラ教育装置?)」はイル=ド=フランスが主催し、2010年に開始されて、2015年からは新たにオープンしたパリの文化機関であるフィルハーモニー・ド・パリを拠点に、「芸術の都」の未来を担う子供たちを育てようというプロジェクト。
今では、パリだけに留まらず、文化教育が十分でない地方自治体とも連携し、全国展開されている・・・とのこと。
音楽学校や民間のお教室では、ソリスト希望者やコンテスタントばかりになっちゃって、有能なオーケストラ団員が育たないのでしょうかねェ。

映画の方は、パリ19区に在る小学校が舞台。6年生には音楽クラスが用意されて、そこにヴァイオリン講師として招かれるのがシモン・ダウド(カド・メラッド)。
経歴は詳らかに語られないが、演奏家としてもプライベートでも行き詰まっているようで、弦楽四重奏団のセカンド・ヴァイオリンの席が空くのを待ちつつ、奥さんとは別居中で、15歳になる娘とも疎遠。子供たちとどう接していいか分からないままに、生活のために音楽教師として赴任する。
子供たちにメンデルスゾーンの「ヴァイオリン協奏曲 ホ短調」のさわりを聴かせていたので、ソリストもされておられたのでしょうか。
カルテットが演奏していたのはアマデウス・モーツァルトの「ディヴェルティメント ニ長調 K. 136 (125a)」。

クラスの子供たちはというと、その土地柄か、多くはアフリカ系やインド系移民の子。子供同士でもコミュニケーションに難ありで、おまけにヤンチャ盛り。ダウド先生、赴任初日から「(禿頭が)セクシー」と揶揄われてタジタジ。
クラシック音楽を聴いたことがあるか、作曲家を知っているかと問われて、アマデウス・ベートーヴェンだとかセリーヌ・ディオンと応える始末。
ヴァイオリンの構え方も分からず、匂いを嗅いでみたり、弓でチャンバラを始めたり、先が思いやられること。

このクラスの担任は、ブラヒミ先生(サミール・ゲスミ)。彼は生粋の教育者で、子供たちと一緒にヴァイオリンを学ぶことで、彼らと心を通わせたいと望んでいる。
音楽家と教育者。その意見のすれ違いもあって、その教室は始終停電にもなり、暗雲が立ち込めるような・・・。

その音楽クラスには大きな使命があって、1年後には教育の成果・・・卒業公演(?)として、フィルハーモニー・ド・パリのステージで「シェヘラザード」を演奏しないといけない。
未経験の子供たちが、たった一年のレッスンで、リムスキー=コルサコフの交響組曲を演奏?! 夢を通り越して、無謀とさえ思えるような・・・。
色んな意味で、子供向きか? ・・・とも思うが、まァ、「千夜一夜物語アラビアンナイト」が下敷き、夜伽話はおとぎ話、ファンタジックな夢物語として語り継がれているのでOKなのでしょう。まァ、決まっちゃってるんだから仕方ない。
難曲が指定されて、始める前から、前途多難と感じるダウド先生。

先行きが不安ながらもレッスンが続けられる教室。その窓を外から覗き込むひとつの影。アーノルド(アルフレッド・ルネリー)君。音楽、ヴァイオリンには興味津々なのだが、とってもシャイで引っ込み思案。
彼もアフリカ系で、物心ついた時から父を知らずに育ち、16歳の姉はほとんど家に寄り付かず(画面には一切登場なし)、ほぼほぼ母と二人暮らし。
覗いているだけでは飽き足らず、誰もいない教室に潜入し、ヴァイオリンを手に取ったところをヤンチャなガキ大将のサミール(ザカリア・タイエビ・ラザン)君に見つかり泥棒呼ばわり。その窮地はブラヒミ先生に救われて、音楽をやりたいのか、教室に入りたいのかと尋ねられるとコクリと首肯。身体は大きいが、気は小さい。
先生から手渡されたヴァイオリンを手に帰宅するなり、今時のお子さん、コンピュータを起動すると、YouTubeをお手本にみんなから遅れた分を挽回すべく孤独なレッスン。粗末な共同住宅でお隣りからクレーム。その屋上を練習場とする。
YouTubeだけじゃあ不安なのか、携帯電話でクラスメイトのヤエル(シレル・ナタフ)ちゃんに個人レッスンを依頼。二人で、屋上での自主トレーニングが始まる。
好きこそ物の上手なれ。彼はメキメキ頭角を現して、ダウド先生からソロの大役を任される。
面影すら知らない父に逢いたいと泣いてみたり、学校帰りに立ち寄ったダウド先生とママンが仲良く楽しそうにしているのにヤキモチ妬いちゃうような多感な一面もある男の子。
一方、彼に淡い恋心を抱くヤエルちゃん。子供は子供なりに心中は複雑なのでしょう。

小学校でのお話しですから、他にも子役が大勢。音楽ドラマですが、誰もが未経験のようで、映画の中で本当にヴァイオリンを学び、音楽に親しんでいく。だから、クラスの中は緊張感とリアリティが満ちているのでしょう。女の子たちは瞳を輝かせて真剣な表情なのだけど、ヤンチャなガキ大将はふざけ合ったり暴れたり。
あまりに和を乱すサミール君に堪りかねたダウド先生、彼を突き飛ばしてしまう。幾ら何でもまだ幼い教え子に手を挙げちゃあいけません。
サミール君は練習に来なくなり、モンスターと化した父親が学校に乱入して一悶着。
オーケストラは何より和と協調性が大切・・・ですが、ひとり欠けちゃったらどうしようもない。ましてや、相手はまだ子供。音楽は楽しい・・・ってことをまず教えなきゃ。ヴァイオリニスト・ダウドさんが音楽教師として目覚める瞬間。
サミール君の家を訪ね、練習に参加するよう諭します。彼は彼なりに自宅で練習していたようで、本当に彼が必要なのかと不安がる両親。ここでダウドさん、請われてJ.S.バッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番 ニ短調 BWV1004」より『第5曲 シャコンヌ』を披露。それが胸を打ったのか、ガキ大将の眼に涙。モンスター化していた父親も善人に戻る。

真の音楽教師となったダウドさん。子供たちに表現力をつけさせようと、「ヴァイオリンで”嵐”を描写してみなさい」と練習方法を変えてみる。思い思いの”嵐”が起こる。『第一楽章 海とシンドバッドの船』には海のテーマ、船のテーマが出てくるから。
子供への接し方を子供たちから学んだのか、暫くぶりに娘さんにも逢いに行って一緒に食事を摂って、蟠りも消え溝は埋まるが、別居中の奥さんとは・・・?

子供たちは子供たちなりに心を通わせ合って、ようやくひとつの目的に向かって努力しようと大同団結。アーノルド君を先生にして、朝は登校前、夕方は下校後、みんなが屋上に集まって自主特訓。ソロを担うアーノルド君は寝食を忘れてママンに叱られるほど。

そうそう、ニコライ・アンドレイェヴィチ・リムスキー=コルサコフ作曲の交響組曲「シェヘラザード(Шехераза́да)」は、壮大な説話集から翻案された雄壮な交響組曲。ヴァイオリン・パートだけでは成立しない。他のパートは他の小学校なり、他のクラスの受け持ち。
合同練習が行われることになったのですが、その出来栄えたるや・・・。指揮者の先生は顔を歪め、付き添ったダウド先生もブラヒミ先生も顔色を失うほど。絶句!!!!

おまけに、ダウドさんにヴァイオリニストとしてのお声掛かり、ツアーに出るかもしれない。教育者としてより演奏家でありたい様子。彼は彼なりに葛藤の中にある。
老朽化した教室は電気トラブルで使えなくなり、練習さえ立ち行かなくなってしまう。
子供たちのため立ち上がるのは父兄の方々。サミール君の父親は工場を練習場として提供すると申し出て、父兄総出で改修作業。床を綺麗に掃き清め、壁を補修し、ペンキを塗って、小さなステージまで拵えてしまう。先生方、子供達、父兄を交えて、みんなが公演の成功を祈る。
目標はフィルハーモニー・ド・パリでのスタンディング・オベーション・・・ですって?!

シェヘラザード」のヴァイオリン・ソロの大役に当たるアーノルド君にヤエルちゃんはブレスレットを贈り、ダウド先生は娘さんが使っていたヴァイオリンを手渡す。安いヴァイオリンじゃあ、ソロに相応しい音が出ませんわな。

そして、いよいよ大舞台、フィルハーモニー・ド・パリでの演奏会。父兄たちが見守る中、子供たちの演奏が始まる。
ステージに通じる廊下に、緊張した顔が並び、鼓動の合奏が聴こえそう。さて、そのパフォーマンスは・・・?
フレンチ・ドリームは、アラビアン・ドリーム?! もしかして、ロシアン・ドリームになるの?
子供たちの夢、一年間の努力が結実するとき。指揮者の先生が驚くほどのソロを聴かせるアーノルドくん。そして・・・。
ワタシも思わず、テアトル梅田でスタンディング・オベーションしちゃいそうになりました。

フランス映画ですが、主演はハゲアタマのアラフィフ男性と小学生たちですから、子供同士の淡い恋愛感情どまりで、エロいラヴシーンはありません。
音楽映画ですが、初心者のレッスン中心ですから、タイトルにあるような美しいメロディはそれほど聴かれません。
派手さはないけれど、大きな感動までは得られない・・・かも知れないけれど、ココロの底がほっこり暖かくなるような映画。たまにはこういうのもいいでしょう。
そうそう、この映画のサウンドトラックスを担当しているのは、ブリュノ・クレ。先達て観た「EVA」も同じ。こういうクールなサウンドが割りと好みです。
リムスキー=コルサコフシェヘラザード」にパパ・バッハシャコンヌ」、アマデウス・モーツァルトディヴェルティメント」、メンデルスゾーンヴァイオリン・コンチェルト」・・・フランスの楽曲が一個も使われていないのね。まァ、いいけど。

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