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もう一つの選択(An Alternative Music Career) [音楽のこと]

本日の「ワンコイン市民コンサート」は、阪大ピアノの会との共催、大阪大学21世紀懐徳堂の協力で成し得た特別企画『阪大ピアノの会:もう一つの選択』。
阪大ピアノの会ってナニ? もう一つの選択とは・・・?

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第78回
を数える今回の「ワンコイン市民コンサート」。その壇上に集いしは5名の若きピアニスト。彼らが所属するのが「阪大ピアノの会」で、”大阪大学豊中キャンパスで活動している大阪大学唯一のピアノサークルです。初心者から上級者まで100人以上が所属し、普段は部室でピアノを練習したり遊んだり楽しく過ごしています。 主な活動は、それぞれ年2回の大学祭コンサートや定期演奏会で、他にも旧帝大合同コンサートや夏合宿など様々な活動をしています。またピアノや音楽に対する思いも部員それぞれ多種多様で日々非常に良い刺激をうけることができます。”と、そのホームページで紹介されています。

春秋の大学祭でコンサート・・・ってことは、ハタケ違いとはいえ、同じ大学祭でジャワ・ガムランの演奏をさせて頂いているワタシのライバルでもあるわけだな。

そのサークル部員100名余から選抜された精鋭5名が今日のプレイヤーで、彼らが自ら考えて選んだ楽曲が今日のプログラム。

一昨年、2016年のヴァレンタインデーに開催された「シリーズ第51回」は『7人のフレッシュアーティストが贈るバレンタインコンサート』と題された、初々しくも、花も恥じらう乙女たちのジョイント・リサイタル(→記事参照)でしたが、今回は父の日スペシャルな男女混合の五人囃子?

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会場はいつも通り、大阪大学豊中キャンパス大阪大学会館。開場14:30、開演15:00もいつもの通り。
開場なって、窓からの陽光が眩しいホールに入ると、ステージ上の1920年製Bösendorfer252はいつものように開演前のチューニング中。
いつも通りバルコニー席に陣取って階下を望めば、今日の出演者5名のご学友でしょうか、同サークルで一緒に練習しているお仲間なのか、いつも以上に若い方達が席を埋めて、初夏の日差しとも相まってなにやらキラキラ眩しく賑やかなコンサートになりそうな雰囲気。

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ワンコイン市民コンサート」では毎回、プログラムは出演者が好きな楽曲を好きなように(?)演奏することになっているのですが、今回は、”各人がピアノ曲の発展に貢献した作曲家一人を選び、その中から好きな曲を弾くことにしました。それぞれの作曲家の発展させた箇所を取り上げ、サブタイトルを以下のように定めております。”・・・とのことで、

ベートーヴェン:様式の中から垣間見られる物語
リスト:演奏技巧へのこだわりと、それによって見えてくる高度な音世界
ラヴェル:音世界の先に見える多彩な情景
ショパン:湧き上がる叙情性と聴衆への意識の狭間での葛藤
スクリャービン:ピアニズム、和声の限界の先に見える音響空間

・・・というのが今日のテーマ。いかにも阪大ピアノ・サークルの発表会って感じの表題?!

年代も様式も曲調も異なるようでありながら、関連し合い、呼応し合うようなテーマ、楽曲といったところでしょうか。

そうそう、肝心なご紹介が遅れました。本日の演奏者は、
森本恵一(MORIMOTO Keiichi)くん:大阪大学 文学部人文学科音楽学専攻
堀尾佑治(HORIO Yuji)くん:大阪大学大学院 基礎工学研究科博士前期課程 物質創成専攻物性物理工学領域
辻愛美(TSUJI Manami)さん:大阪大学 歯学部歯学科
金道賢(KIM Dohyun)くん:大阪大学 経済学部経済経営学科
西山早紀(NISHIYAMA Saki)さん:大阪大学薬学部(6年制)薬物治療学分野卒業 現所属:製薬会社 臨床開発本部
の5名で、西山さんが卒業生で、他の4名はそれぞれの学部学科でお勉強を続ける現役阪大生と阪大院生。

開演を告げるベルが鳴って、最初に彼らの曽祖父世代なヴィンテージ・ピアノと対峙するのは、文学部人文学科音楽学専攻で、〈1975年に至る芸術感の変化 - ジョン・ラターの”グローリア”作曲を通じて -〉を専門とする森本恵一くん。
演目は、ルードヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲「ピアノ・ソナタ 第23番 へ短調 作品57 『熱情』 」。いきなり熱々のアパッショナータで会場を温めようという作戦??
熾火のように燃え上がるのは、不屈の執念、それとも滾る恋心?

二番手は、大学院 基礎工学研究科博士前期課程 物質創成専攻物性物理工学領域で〈セレン化鉄物性:計算科学的アプローチ〉を考究する堀尾佑治くん。
演目は、フランツ・リスト作曲「2つの伝説 S.175」より『第2曲 波の上を渡るパオラの聖フランチェスコ 』と、「超絶技巧練習曲 S.139」より『第4番 マゼッパ
複雑なアルゴリズムが齎す、音で構築されたヴァーチャル・リアルティ?

前半の最後、三番手は辻愛美さん。彼女は、歯学部歯学科に在籍し、〈歯科学〉がご専門。
演目は、モーリス・ラヴェル作曲「水の戯れ」、「夜のガスパール」より『第1曲 オンディーヌ』、組曲「」より『第4曲 道化師の朝の歌』の3曲。
音の雫が水色のベール、あるいは深紺色の帷となって、しっとりと包み込んでくれるよう。嗚呼、儚くも美麗なる水精よ!!

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3名の演奏が終わったところで、インターミッション。
15分の休憩明けは、「今日の演奏者に突撃インタビュー」のコーナー(笑)。阪大ピアノの会について、それぞれが専門とするお勉強のこと、卒業間近い方もおられて就活状況まで。
ワンコイン市民コンサート実行委員会代表の荻原先生から、ピアノの練習も大切ですが勉学も怠らないようにと父の日らしい親心? 教育者としてのご忠告?! そりゃあ、謹聴するしかないわね。

一同がバックステージに下がって、改めて登場するのは四番手の金道賢くん。彼は経済学部経済経営学科に在籍し、企業から要請を受けて〈経営戦略、ビジネスイノベーションの理論構築〉に取り組んでいる、韓国からの留学生。
演目は、フレデリック・フランソワ・ショパン作曲「ノクターン 第8番 変ニ長調 作品27-2」と「華麗な変奏曲 変ロ長調 作品12」。
詩情溢れる旋律はBösendorferを至宝の歌声で唄わせる。

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5人のトリを飾るのは、薬学部薬物治療学分野をご卒業されて、某製薬会社の臨床開発本部に勤務されている西山早紀さん。彼女は、在学中の2012年12月に開催された「シリーズ第8回」で単独リサイタルも経験されて、現在も、製薬会社を有給休暇のうえイタリアへピアノ留学、さらには薬学博士課程へ復学しようかという、二足のワラジどころか三足のパンプスを履き分けている才媛、才女。
演目は、アレクサンドル・スクリャービン作曲「24の前奏曲 作品11」より『第1番 ハ長調』、『第4番 ホ短調』、『第6番 ロ短調』、『第10番 嬰ハ短調』、『第11番 ロ長調』、『第17番 変イ長調』、「8つの練習曲 作品42」より『第5番 嬰ハ短調』、「ピアノ・ソナタ 第9番 作品68 『黒ミサ』」。『黒ミサ』に至っては、構成が難しいからと、スクリーンを使っての解説までご担当されて、ちょっとオネーサンらしいところを見せつけ、魅せつけ。

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左から順に、森本恵一くん、堀尾佑治くん、辻愛美さん、金道賢くん、西山早紀さん。

5名が多くの議論を重ね、各々が長い時間を掛けて練磨した今日のプログラム。ベテラン・ピアニストとは比ぶべくもない? ・・・部分もあるかも知れませんが、それぞれが熟考し、今日に備えて練達に励んだであろう演奏は、最初に掲げたテーマを十分に表現していたと感じました。
先にあげた「フレッシュ・ヴァレンタイン」の7人の乙女たちが"チョコレートがけのイチゴ"ならば、今日の5人は"阪大という樽の中で発酵を待つフレッシュ・ワイン"・・・といったところでしょうか。ン!? 未成年は・・・居ませんね。

もう一つの選択An Alternative Music Career.

音楽を愛し、音楽を学びながらも、音楽大学を選ばず、普通大学に進学し、将来の職能を習得しようとする学生さんたち。二足の草鞋・・・、スニーカーなのか、それとも、ローファー、パンプス、ハイヒール。器用に履き分けてながら、時には靴擦れしちゃったり、躓いちゃったりすることもある、あったかも知れませんが、ピアノも諦めず、学業を疎かにすることもなく、二つの頂き、その両方を制覇しようと挑む学生さんたち。

今回の「ワンコイン市民コンサート」は、音楽大学に行こうか、普通大学に進学しようかと悩んでいる高校生や中学生に報せてあげたいようなイベントでした。大阪大学にはこんな素敵もないオニィサンやオネェサン、素晴らしい先輩がいることを教えてあげたくなりますねェ。
ワタクシこと「ワンコイン市民コンサート」の広報担当ではありますが、(今回だけは?)大阪大学ならびに「阪大ピアノの会」も是非にとPRしておきたいと思います。
そうそう、阪大には「ピアノの会」だけではなく、ジャワ・ガムランをこよなく愛するグループもあって、こちらは入学願書不要、入試もなくて、授業料無料なワークショップ「日曜ガムラン」として広く一般の方々にも門戸を開いているので、是非ぜひ!!
そして、阪大生でなくても、豊中市民でなくても、気軽にワンコインでコンサートを楽しめちゃうのが「ワンコイン市民コンサート」。こちらは以下のラインナップがズラリと控えておりますので、是非ゼヒぜひ!!!!

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07月15日(日):辻本玲 チェロリサイタル 全無伴奏曲プログラム
『無伴奏チェロの魅力:隠された音たち』とサブタイトルされた辻本玲さんのリサイタルは、チェロ独奏だけでなく、バロック期の重要なファクターである通奏低音に着目し、その役割と、その間合に隠された音を探り出そうというプログラム。特別共演は市 寛也さんで、第二部はチェロ2台の構成となります。

08月19日(日):岩井美子+今峰由香 ピアノ連弾リサイタル
実力派ピアニストが二人、一台のピアノに寄り添い奏でる、シューベルトとモーツァルトの連弾曲。4手ピアノ、quatre mainsはどんなハーモニーを聴かせてくれるのでしょう。お二方の手に依って、Bösendorferはどんな歌声を響かせるのでしょう。

09月16日(日):武久源造 「ピアノの発見 第4章」
武久源造さんが語るバッハ・ファミリーの大河ドラマも第4章を数え、今回は『ウィーンとロンドン、ピアノ二都物語』を副題に、パパ・バッハの息子たちの活躍ぶりを。
武久さんは毎回、ご自身所蔵の旧い形式の鍵盤楽器を持参されての公演なのですが、今回は共演に山川節子さんを迎え、お二人が秘蔵する(?)スクエア・ピアノ2台を持ち込んでのコンサート。

10月14日(日):フェリックス・トリオ:ピアノ、ヴァイオリン、チェロのトリオ:メンデルスゾーン、ラヴェルピアノ三重奏曲
若い演奏家三名は、フェリックス・メンデルスゾーンことヤーコプ・ルートヴィヒ・フェーリクス・メンデルスゾーン・バルトルディをこよなく愛するピアニスト、ヴァイオリニストとチェリスト。そのトリオが演奏するのは、メンデルスゾーンの「ピアノ三重奏曲 第2番 ハ短調 作品66」とラヴェルのピアノ・トリオ。

さらには、
11月18日(日):加藤幸子ピアノリサイタル モーリス・ラヴェル作品を中心に
12月16日(日):田中正也ピアノリサイタル「作曲家の懐具合」(仮題)
と続きます。

それでは、次回まで、何れも様がたも、御免候へ。

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荻原哲

いや〜広報部長!素晴らしいレポートありがとうございます。「今日の5人は"阪大という樽の中で発酵を待つフレッシュ・ワイン"」。そうですね、自分の力で発酵しちゃってますね。過発酵して個性的すぎる場面もありましたが、それとて、「そんな弾き方しちゃダメ」という教育を受けていない、のびのびとした音楽性を感じました。
by 荻原哲 (2018-07-06 00:44) 

荻原哲

書き忘れました。5人の演奏をYoutubeに公開しました。https://www.youtube.com/playlist?list=PLY9UYnX__V37T9565PKviHbnpulSQOLlG
by 荻原哲 (2018-07-06 00:48) 

JUN1026

萩原先生、コメントありがとうございます。
過発酵ですか?! 樽からの要素より自身が待つ個性が強過ぎて、それぞれが別々の味わいを醸したのでしょうね。商品としての価値はどうか分かりませんが、画一的でコンテスタント的な演奏よりよほど個性的で面白いとも感じました。
by JUN1026 (2018-07-07 00:06) 

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