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愛か、あるいは? ~ 松尾久美ピアノリサイタル [音楽のこと]

今日も阪大豊中キャンパスへ通学・・・なのですが・・・。

今日は久しぶりに、「ワンコイン市民コンサート」とジャワ・ガムランのワークショップ「日曜ガムラン」がダブルブッキング。一方は14:30開場で15:00開演。もう一方は14:00から開催。同じキャンパス内とはいえ、分身の術を会得していない身としては掛け持ちは無理っぽい。音楽は、聴くのもいいが、自ら演るのも楽しくて、まさに身を裂かれる思いながら、公認広報の任を全うしなくては(?!)・・・ということで、コンサートの会場となる大阪大学会館へ向かいます。

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で、本日の「ワンコイン市民コンサートシリーズ第71回」は『松尾久美ピアノリサイタル〈全改編曲プログラム〉』。
現在ロンドンを拠点にソロ・室内楽の演奏活動を行うピアニスト松尾久美さんが、〈作曲者と改編者の間にあるのは愛か、あるいは?〉をテーマにご披露くださるAll Transcription Program・・・全改編曲演奏会。

ここでいうトランスクリプションとは、ある楽器または楽器群のために書かれた楽曲を、異なる楽器または楽器群での演奏用に編曲すること。いわゆるアレンジメントのことで、本日演奏されるのは、
フランツ・リスト 『パガニーニによる大練習曲』全曲
ヨハネス・ブラームス 『左手のためのシャコンヌ
セルゲイ・ラフマニノフ 『コレルリの主題による変奏曲 作品42
の三題。
原曲はそれぞれ、
ニコロ・パガニーニ 『24の奇想曲』と『ヴァイオリン協奏曲 第2番
ヨハン・ゼバスティアン・バッハ 「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」より『パルティータ 第2番 ニ短調 BWV1004
アルカンジェロ・コレルリ 「ヴァイオリン、ヴィオローネ、チェンバロのための12のソナタ 作品5」より『第12曲 ラ・フォリア
であって、つまりはヴァイオリンのための楽曲をピアノ独奏に改めたのが今日の演目。
パガニーニ×リストJ.S.バッハ×ブラームスコレルリ×ラフマニノフ、2倍お得なプログラム?!

それぞれの作曲者、パガニーニJ.S.バッハコレルリの思いと、その改編者、リストブラームスラフマニノフの想い。それが混ざり合って融合した結果がこれらの傑作。作曲者と改編者を繋ぐものは、愛や憧れであったのか、それとも・・・。最後の”?”が気になりますね。敬慕や賛美でなければなんなのでしょう。

それを演奏されるのは、
これまでにさまざまな国際コンクールで受賞、国内外のオーケストラと多数共演、英BBCラジオ3、BBCテレビ4に出演。近年では2014年にカーネギーホールデビュー、2015年にルイジアナ交響楽団とベートーヴェン「皇帝」のツアーを行った他、2016年にCon Brio Recordingsより初のソロCDをリリース。アンサンブル「音坊主」のメンバーとして毎年東京でも演奏活動を行うピアニスト、松尾久美さんで、もちろん、本日用いられるのは大阪大学会館常設の1920年製Bösendorfer252

開場が14:30、開演が15:00。
カーテンを開け放った窓からホールに差し込む小春日の、柔らかな日差しが開演を知らせるベルの音で震える。その綺羅綺羅した光に包まれて黒く光るベーゼンドルファー。ステージに登場した久美さんはピアノに同化するような黒いドレス。

第1部はフランツ・リスト(Liszt Ferenc 1811年10月22日 - 1886年07月31日)「パガニーニによる大練習曲(Grandes études de Paganini, S. 141)」を全曲。
”大”練習曲」だとか「”ground” étude」だとか、かなりご大層なのだけど、元はニコロ・パガニーニ(Niccolò Paganini 1782年10月27日 - 1840年05月27日)が作曲した「24の奇想曲」と「ヴァイオリン協奏曲 第2番」からの抜粋で、6曲からなる練習曲集。初版が1838年に作られ、それは「パガニーニによる超絶技巧練習曲(Études d'exécution transcendante d'après Paganini) S.140」と呼ばれ、1851年に出版された改訂版は「パガニーニによる大練習曲(Grandes Études de Paganini) S.141」と呼び分けられる。
人気の『ラ・カンパネッラ』が含まれるから昨今演奏される機会が多いのは改訂版で、本家パガニーニのヴァイオリン版、「ヴァイオリン協奏曲 第2番 第3楽章」のロンド『ラ・カンパネッラ(La Campanella)』」よりリスト版ピアノ独奏曲『ラ・カンパネッラ』をやたらに聴くような・・・。

演奏会のたびに失神する女性・・・多くは仕込みのヤラセだったらしいが・・・までいたという元祖ヴィジュアル系ピアニスト?! この曲を聴くたび、そんなリストのドヤ顔が眼に浮かぶようでちょっと退いてしまうが、ヴァイオリンの美しい調べをトレースしつつ、いかにもピアニスティックに仕上げた手腕は流石という他ないような。

ドヤ顔こそなさらず、力みのない端正な演奏を聴かせてくれる久美さん。それを受け止めるBösendorferの、今日の声音はいつも以上に色と香りまで感じさせてくれるようで・・・。窓からの日差しと相まって、紅葉と黄葉を粉砕しブレンドしたような、あるいはイチョウのコバルトイエローを映したような艶やかな楽音。それは何故か甘やかな香りまで感じさせて、演奏が始まった途端、ホールが一気に華やいだように思えたのはワタシだけでしょうか。「練習曲」と呼ぶにはあまりにも難易度が高くて、感情移入する要素がそれほど多くないはずなのに、何か強い吸引力、惹き寄せられるような心持ち。

作曲者の思いと改編者の想いに演奏者の感情で三乗、それらがBösendorfer252に憑依するのですから、いつも以上に良く響く?!

休憩を挟んで第2部。
ヨハネス・ブラームス(Johannes Brahms 1833年05月07日 - 1897年04月03日)編曲による「ピアノのための5つの練習曲」より『左手のためのシャコンヌ』。
ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(Johann Sebastian Bach 1685年03月31日  - 1750年07月28日)作曲「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」から『パルティータ 第2番 ニ短調 BWV1004』を選んで、左手だけの演奏としたもの。リストがこれでもかと絢爛豪華にしたのとは対照的に、無伴奏ヴァイオリンを、音域こそ1オクターヴ下げはしたものの、ほぼほぼ忠実にトレース。
端然とした美しさを秘める原曲に惹かれて、2手(両手)ピアノ版や管弦楽版などのアレンジメントが存在するが、ブラームス版はあえて左手一本でピアノという珍しいパターン。無伴奏弦楽器のための楽曲なんて左手一本で十分だぜェ・・・と考えた訳ではなく、右手を痛めたクララ・シューマンのために書いたとされる作品。
この場合、〈作曲者と改編者の間にあるのは愛か〉というより、〈改編者と演奏者の間にある愛〉・・・なのでしょう。「ロマンスがありあまる」的なゲスい感情は・・・。
クララへの想いはともかく、まァ、どちらかというと、不器用で引っ込み思案だったのでしょうか。もっと自身の才能や感情を加えても良さそうなものを、この楽曲を含む「ピアノのための5つの練習曲」にしてみても、それぞれの原曲作曲者に遠慮があるように思えて。まァ、その辺がブラームスらしいのでしょうが・・・。
演奏者、久美さんは、この楽曲をブラームスのピアノ曲として演奏されておられたのでしょうか。その向こうに透けるパパ・バッハのヴァイオリン独奏まで意識されておられたのでしょうか。それとも、これを演奏したクララ・シューマンの心情を映していたのでしょうか。

プログラム最後は、アルカンジェロ・コレルリ(Arcangelo Corelli 1653年02月17日 - 1713年01月08日)作の「トリオ・ソナタ」をセルゲイ・ラフマニノフ(Sergei Vasil'evich Rachmaninov 1873年04月01日 - 1943年03月28日)がピアノ用変奏曲とした「ラ・フォリア」。
その原典はイベリア半島のポルトガルやスペイン発祥の舞踊音楽。それがイタリアやフランス、オーストリアで大流行し、洗練されたサロン・ミュージックとなって、トリオ・ソナタに仕立てられたコレルリ作のそれはパパ・バッハにまで影響を与えたとか。
フォリア(foria)」とは、「狂気」を意味し、狂おしく踊る様。帰る郷を奪われ、新しい土地に馴染めず、作曲のモチベーションを失い、コンサート・ピアニストとなっていた亡命作曲家のファナティックな感情にフィットしちゃったんでしょうなァ。コレルリの端正な主題が少々ヒステリックな20のヴァリエーションとなったこの作品。コレルリ感は薄いのですが、主題から徐々に変容していくヴァリエーションに、ラフマニノフの感情が視えるような演奏でした。

二倍お得な(?)改編曲集。存分に楽しませて頂きました。何れもピアノ独奏として完成しているから、原曲を知らなくても楽しめるのですが、オリジナルを知るとそれこそ楽しさ二倍。聴き比べられたら、四倍になる?

さて、次回は、12月16日(土)。『峯島望美ソプラノリサイタル<女の恋といのち>』。
ピアノ伴奏に竹久源蔵さんを迎え、峯島望美さんが女ごころを歌い上げるひとりオペラ。過去数回古楽器を持ち込まれた武久さんが弾く1920年製Bösendorfer。こちらも楽しみ♡

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