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色鮮やかな白ワイン [音楽のこと]

5月の「ワンコイン市民コンサート」は『永ノ尾文江+鈴木華重子 ベートーヴェン・ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会:その3』。ルードヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770年12月16日頃 - 1827年3月26日)が遺したヴァイオリン・ソナタ全10曲を3回に分けたツィクルスの最終回。そして、「ワンコイン市民コンサートシリーズ 第40回公演」は三周年記念公演でもあるという。
見逃せないピアノとヴァイオリンのデュオ。聞き逃せないツィクルスのフィナーレ。大阪大学豊中キャンパス内大阪大学会館へ向かいましょう。

 

ルードヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770年12月16日頃 - 1827年3月26日)が書き残したピアノとヴァイオリンのためのソナタは全10曲。それを三回に分けたツィクルスの最終回。
10曲を、年代順や作品番号順ではなく、"色合い"で分類しようというシリーズで、第1回が『弾けるシャンパン(→記事参照)』、第2回が『味わい深き赤ワイン(→記事参照)』、そして今回が『色鮮やかな白ワイン』。なぜワインに拘るかというと、永ノ尾文江さん(Vn.)と鈴木華重子さん(Pf.)、お二方とも酒豪級・・・だそうで。

"弾けるシャンパン"として選ばれたのが、

第1番 ニ長調 作品12-1 (1798年)

第4番 イ短調 作品23 (1801年)

第8番 ト長調 作品30-3 (1803年)

第7番 ハ短調 作品30-2 (1803年)

"味わい深き赤ワイン"にセレクトされたのは、

第6番 イ長調 作品30-1 (1803年)

第3番 変ホ長調 作品12-3 (1798年)
第9番 イ長調 「クロイツェル」 作品47 (1803年)

そして今回の"色鮮やかな白ワイン"が、
第2番 イ長調 作品12-2  (1798年)

第5番 ヘ長調 「春」 作品24 (1801年)

第10番 ト長調 作品96 (1812年)

最初の第1番から第3番までが1798年、ベートーヴェンが28歳の頃の作品で、三曲セットで師アントニオ・サリエリに献呈されている。二十代後半から耳の聞こえが悪くなり、この頃には難聴がかなり進んでいたとされている。

続く第4番第5番は1801年、31歳の頃。第4番は初めての"短調ソナタ"で、前作までの溌剌とした若さとは一変し、以降の作風に通じる激しさを秘めた印象。第5番はそれとはまた裏腹に、幸福感に満ちた明るく快活な曲調。

そして、第6番から第9番までは1803年、33歳の頃。一気に4曲も仕上げているが、6〜8番は3曲まとめてロシア皇帝アレクサンドル・パヴロヴィチ・ロマノフ(アレクサンドル1世)に献呈された『アレキサンダー・ソナタ』セット。第9番は、『クロイツィル・ソナタ』として知られる『ほとんど協奏曲のように、相競って演奏されるヴァイオリン助奏つきのピアノ・ソナタ』で、ヴァイオリニスト、ルドルフ・クロイツェルに捧げられた。

第5番第6番の間、相前後する期間に例の『ハイリゲンシュタットの遺書』が認められている。難聴が進み、思い悩んだ末に、自ら命を滅することを考えたとされる頃。その精神的危機を乗り越えて作られた『アレキサンダー』と『クロイツィル』。先人の影響下を脱し、過去の自己さえ否定し、より独自の作風へと転換した頃の力作。

少し間をおいて、第10番が作曲されたのが1812年、ルードヴィヒ不惑の(?)42歳。ルドルフ・ヨハネス・ヨーゼフ・ライナー・フォン・エスターライヒ(長過ぎィ!!)大公に献呈された穏やかながら歓喜に満ちた作品。

ざっくり分けて、1〜3番が最初期、4〜9番が転換期、10番が円熟期といったところか。

今日の『白ワイン』は最初期と転換期と円熟期からそれぞれ1曲ずつ。一番最初に書かれたヴァイオリン・ソナタと一番最後のそれと、真ん中の節目の1曲。まさに、ツィクルスをギュッと濃縮したような演目となっている。

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今日のプログラムは先着30名だけサイン入り。

例によって、開場と同時にバルコニー席最前列のセンターに陣取る。ステージには1920年製Bösendorfer252が弾き手の登壇を待っている。その背後の大きなスクリーンには古い絵画が投影されていて、「オーストリア皇帝の前でベーゼンドルファーを弾くフランツ・リスト」とキャプションされている。

リストの曲も用意されている?

耳の不自由なベートーヴェンがリストの演奏会に赴いて、その演奏を"聴いた"というエピソードも残っているし、そのへんのお話しでもされるのかしらン? ・・・と想像を逞しくしているうちに、夜勤明けの土曜日、開演を待つ間に微睡みが忍び寄ってくる。

危うく睡魔にとり憑かれそうになったところに二人のミューズ、鈴木華重子さんと永ノ尾文江さんがご登場。いつにも増して艶やかなお衣装は"白ワイン"というよりも"色鮮やかなカクテル"。一方がトロピカルなオレンジグリーンなら、他方は目の覚めるようなターコイズブルー。ステージが一気に華やいで、さァ、コンサートの開演!!

1曲目の「第2番」はベートーヴェンが一番最初に書いたヴァイオリン・ソナタ。『シャンパン』を連想しそうな快活な第1楽章と、スイートでセンチメンタルな第2楽章、愛らしく楽しげな第3楽章。甘口でフレッシュな"新酒"の味わい。
ちょっと甘すぎるけど、嫌いじゃないです、はい。
続く2曲目、「第5番」は言わずもがなの『スプリング・ソナタ』で、万人受けしそうな中庸の風味。当時遺書を書こうかと思い悩んだとされるルードヴィヒが何故こんなに甘美で恍惚感のある美しい楽曲が書けたのかがナゾではあるが、「不滅の恋人」が数え切れないほどにいた(?)のだもの、その昂揚感がこの曲を『』に仕上げた・・・のかも。primaveraというよりfiorireやね。

前半を終えて、15分の中休み。

いつもはなにかしらアカデミックなテーマが提示される「ワンコイン市民コンサート」 で、今日はなにが用意されているのかと思ったら、そーいう小難しいことは置いといて、突然のクエスチョンズ&アンサーズ。オーディエンスからの質問にお応えするとかで、開演前にプログラムと一緒に小さな紙片が配られていた。それが休憩中に回収されて、後半は質疑応答から。

質問は主に、3回のシリーズの間にご出産された文江さんの体調の変化とそれに伴う楽器演奏の変容についてだったり、使われているヴァイオリンについてだったり。

女ならぬ身のワタシには妊娠や出産のことは分からないのだけれど、今日の演奏を聴いて感じたのは明らかに前2回と異なる軽やかさと伸びやかさ。
プログラム終了後にご本人も、3回目にして楽器がホールに馴染んできて音作りもすんなり済んでしまったと仰っておられたが、今日は終始リラックスされておられたように感じた。
『シャンパン』と『赤ワイン』では、攻めるピアノと受けて立つヴァイオリン、丁々発止とまでは言わないけれど、それなりの緊張感も感じられたのが、今日は和やかなムードを伴って自由闊達に歌うヴァイオリンが印象的だった。
お腹に赤ちゃんがいるのと出産を終えた後では身体の軽さ、しなやかさも違う・・・のやろうね。
ワタシらは、食べ過ぎでお腹が苦しいか、腹ペコで動けないしか分からないけれど・・・(笑)。

それは後半の「第10番」でも同じ。円熟味の感じられる深みとともに、軽やかな口当たりと喉越しの良さを醸し出した傑作の一品。研ぎ澄まされた大吟醸・・・だと日本酒になってしまう!?

そんな最後のヴァイオリン・ソナタを文江さんが携える1735年製Michel Angelo Toppaniが伸び伸びと歌い上げる。出産後、解放されたのは赤ちゃんだけでなく、ママも自由に解き放たれた・・・!?

華重子さんが弾く1920年製Bösendorferとのハーモニー、コンビネーションも鮮やかで、このままずっと聴いていたいような名残惜しさを感じた。
アンコールはシャルル・グノーアヴェ・マリア」、愛を込めて、涙を添えて。

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永ノ尾文江さん(Vn.・左)と鈴木華重子さん(Pf.・右)、終演後、ホワイエにて。

3回に渡った『ベートーヴェン・ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会』。これでお開きになるのは惜しいような、次のシリーズも用意して頂きたいような。ベートーヴェンに拘らず、ヴァイオリンとピアノのためのコンピレーションをシリーズ化してもらいましょ。なんなら、文江さんのCD「f -ef-」を生演奏で。

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永ノ尾文江さんのCD「f -ef」は絶賛発売中!! Pf.は華重子さん。

そのCD、「ワンコイン市民コンサートシリーズ三周年記念公演での来場者プレゼントとなったのだが、抽選かと思ったら、過去3年間40回の公演に対して多くリピートされた来場者20名に贈呈されるとのことで、気が付いたらワタシの名前も呼ばれてたァ!!

おまけに、バルコニー席から押っ取り刀でステージまで駆けつけたら、実行委員長の萩原先生がこのブログをご覧になっていらっしゃるとかで、自称「非公認広報担当」はこのたび「公認広報担当」となりました(パチパチ8888!!)。"非"に非ず!? 喜んでいいのかしらン!?

密かにこっそり、あれこれ好き勝手にレヴューさせて頂いてたのが、今後は迂闊なことは書けませんよ、はい。

というわけで、次回6月公演は20日()14:30開場15:00開演で「橋本京子ピアノリサイタルピアノの内的世界』」。

プログラムは、

シューベルト「4つの即興曲 D935」

寺嶋陸也「12の前奏曲集より ~ no. 1,2,3,4,5,9.」

ドビュッシー「前奏曲集 Book II 7-12」


が予定されています。詳しくは公式ホームページをご覧くださいな・・・っと。ワタシもTwitterFacebookでも広報活動中(笑)。

CDは『シャンパン』の時に購入させて頂いてiTunesやiPhoneですでに愛聴させて頂いているし、プレゼントより公認化より、再来年にうちの息子さんを阪大理学部にこっそり入学させてやって欲しい・・・って訳にはいきませんわな。


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コメント 2

moto_tip_sp

公認広報宣伝部長就任おめでとうございます。
見る人は見ているのですね。やっぱり中身も整っているので、評価されたのでしょうね。
40回通い続けるjojoさんもすごいですね。

体の調子が悪い時は、無理に自転車乗らずとも、音楽聴くのもいいですね。

でも何回も行って、子供が阪大行けるのなら、私も通おうかな(^^;;
by moto_tip_sp (2015-05-24 10:01) 

JUN1026

モトさん、コメントありがとうございます。
色々書き散らかしていると、何方が何処でご覧になられているか、まったく分かりませんな(笑)。やはり、迂闊なことは書けません。

公認はされましたが、部長にはなっておりません。ほんの末席の構成員でしょう。
それに流石に40回の皆勤は無理で、仕事の入った土曜日や他のイベントと重なって抜けている回もあります。今後は広報担当ですから、きちんと全部拝見しないといけないですね。

うちも息子を連れて行って、ここに通えるくらい勉強しろと洗脳しておかないといけません。今から通学に慣れさせておかないと・・・(笑)。
by JUN1026 (2015-05-25 00:03) 

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