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雨音はショパンの調べ? [音楽のこと]

今日は月に一度のお楽しみである「ワンコイン市民コンサート」開催日。「第38回」となるそのプログラムは『ショパンとドビュッシー 「二つの重なり合う響き」』とタイトルされた「辰野翼ピアノリサイタル」。
フレデリック・フランソワ・ショパンクロード・ドビュッシーの関係とは?
そして、ドビュッシーの影響を受けたオリビィエ・メシアン武満徹に至る音楽の系譜とは?
200年に渡る長いヒストリーを紐解くために、さて、待兼山を登りましょ。

 

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大阪大学豊中キャンパス
にある大阪大学会館。そのホールが「ワンコイン市民コンサート」の会場で、開場が14:30、開演が15:00。予定通りの時間にいつもの"指定席"を占める。
ステージではチューニングを終えた1920年製Bösendorferが若いピアニストと対峙する時を待っている。
今日予定されている演目は、
ドビュッシー:「映像 第1集」より『水の反映』
ドビュッシー:「前奏曲集 第1集」より『Ⅴ.アナカプリの丘』、『Ⅶ.西風の見たもの』
メシアン:「幼子イエスに注ぐ20のまなざし」より『第15番 幼子イエスの口づけ』
武満 徹:『雨の樹素描Ⅱ ~オリヴィエ・メシアンの追憶に~』
ショパン:「12の練習曲 Op.10」より『第7番 ハ長調』、『第12番 ハ短調「革命」』
ショパン:「12の練習曲 Op.25」より『第10番 ロ短調』
ドビュッシー:「12の練習曲 第1部」より『第4番 6度音程のための」、『第11番 組み合わされたアルペジオのための』
ドビュッシー:「12の練習曲 第2部」より『第5番 オクターブのための』
ショパン:『幻想曲 ヘ短調 Op.49』
ショパン:「4つのマズルカ Op.33」より『第25番 ロ短調』
ショパン:「2つの夜想曲 Op.48」より『第13番 ハ短調』
と盛りだくさん。ちょっとしたコンピレーション・アルバムの様相。

開演に先立って、プログラム変更のアナウンス。後半の「マズルカ 第25番」が「ワルツ 第5番 変イ長調 作品42」に差し替えられるとのこと。何があったのでしょう。

チャイムが鳴って15:00。辰野翼さんが登壇。
前半は、文字通り映像的であまりに美しいドビュッシー作品からスタートして、ドビュッシーから多大な影響を受けたメシアン武満徹の作品と続く。
ステージ後方のスクリーンには"水"のイメージが投影されて、揺蕩うようなピアノ独奏を"映像"化。
やはりショパンの「24の前奏曲」に通じるようなドビュッシーの「プレリュード」。
若き日のドビュッシーはピアニストを志していたようで、音楽院時代にはショパンの楽曲を演奏して賞を得たりもしたらしい。作風は全然異なるよういてどこか通い合うものがある・・・のでしょう。一説によると、ドビュッシーショパンの孫弟子にあたるのだとか。そのドビュッシーをお手本としたメシアン。さらには、メシアンに憧れた武満。それぞれが、模倣に留まらず、それを完全消化して自身の作品に仕上げているところが素晴らしい。イミテーションではなく、それからインスピレーションを得ている・・・ということでしょうか。
咲き始めたばかりの花を散らす雨音はショパンの調べ? にしても、花散らしの雨が降る日に『Rain Tree Sketch』、ちょっとハマりすぎ?!

♪トゥルリラー トゥルリラー♪

で、本日のメインテーマ。ショパンドビュッシー、二人の作曲家によるそれぞれの「12の練習曲」、"2つの重なり合う響き"とはいかなるものか。

ワタシはどちらかというとショパンは嫌い・・・というか、苦手としてきた。W.A.モーツァルトとともに、ちょっと技巧的に過ぎると捉えていた。演奏テクニックを誇示するための、無駄な音が多いようにも感じられた。もちろんそれは偏見なのだけど、おそらく、このエチュードのせいなのだと思う。Étude・・・学習のための楽曲というにはあまりにも高い技量を要求するために毛嫌いしてしまった・・・のだと懐古する。練習曲と言いながら、あまりにムズイ、難しい、ムズ過ぎる。
この歳になって、それらを改めて聴いてみると、また違った側面も見えてきた。
研修用の作品というより、演奏家にとってはここまで研鑽のすえに培ったテクニックを発揮するためのひとつのバロメータであり、"練習曲"というより"披露曲"。そして、作曲家としてはより大きな作品を書くためのスタディ(習作)となるのではないか?!
・・・と思いついたのはドビュッシーエチュードから。
最晩年のドビュッシーは体調を崩したことや大戦を経たことで、どんな作品を書くべきか、何を書けばいいか判らないと悩んだのだという。それが、ショパンの楽譜を校訂する機会を得たことで自身の「12の練習曲」を書くに至った。おそらく、彼は"練習曲"としてではなく、音楽院時代の初心に帰って習作から始めよう、これまで積み重ねてきた作曲技法を分類・系統化してみようと考えて書いたのではないか・・・なんてことはないかな。
「ショパンの思い出(À la mémoire de Chopin) 」に献呈されているが、ショパンの作品を演奏していた頃の自身の過去を振り返ったセルフ・トリビュート、セルフ・コンピレーションなのではないか。ドビュッシーのことだもの、額面通りに受け取ってはいけない。ほんとは、「過去の追憶に(À la mémoire de moi-même)」としたかったのではないかしらン?!
他の作曲家が残した"(練習・研鑽のための)練習曲"とは一線を画すショパンの"(演奏会用)練習曲"に触発されたのは確かであろうが、ショパンが著した手法をさらにブラッシュアップしようとした、ドビュッシーらしさも盛り込まれた作品。ショパンドビュッシー、2つの重なり。
パリ国立高等音楽院に通う辰野翼さんは修士論文のテーマを「ショパンとドビュッシーの練習曲集にみる対比」としているそうで、 今日のコンサートでは、"「組み合わされたアルペジオのための」の対"としてショパンの『第12番 ハ短調』とドビュッシーの『第11番』、"「6度音程のための」の対"として『第7番 ハ長調』と『第4番』、"「オクターブのための」の対として『第10番 ロ短調』と『第5番』、それぞれコンペアしながらの演奏。こういう聴き方はあまりしないから、新鮮で面白いと感じた。
新進気鋭のピアニストの演奏も、溌剌とした、非常に若々しいそれで、力強ささえ感じた。

"ドビュッシー以前・ドビュッシー以後"と線引き出来るほど革新的であったクロード・ドビュッシー。文学や絵画から刺激を受けた印象派音楽はそれまでのクラシカルな楽曲とは異なる手法で生み出された。近代〜現代音楽の源泉となった作曲家は"ピアノの詩人"を凌駕して、それまでのものを過去へと追いやってしまった。
そんな彼に影響されたのがオリヴィエ・メシアン武満徹
コンテンポラリーなクラシカルは、クラシカルなクラシカル(??)と違って、調性感が希薄でどこか落ち着かなさが感じられるのが好みの分かれるところ・・・なのかしらン。
key(調)にまで理論的な意味付けを行った旧い音楽と違い、無調音楽は、和声理論の束縛から逃れているようでいて、その範疇から逸脱しているわけではない。その原石をより輝かせるにはどのようなカッティングを施せばいいか。切り口を変え、異なる角度を持たせることでより煌びやかな輝きを得ようとした、そんな音楽。刺激的なスパイスをひとつまみ加えることで味に緊張感を与えて風味を引き締める、そんな音楽。少なくとも今日演奏されたドビュッシーメシアン武満の作品はそんな音楽。

♪トゥルリラー トゥルリラー♪

15分の休憩を挟んで、後半は『幻想曲』から始まるショパン作品集。"詩人"とはいっても、文学的というよりやや散文的な音楽。彼以前のどちらかというと韻文的なそれまでの音楽とは違う、彼もまた革新の作曲家。演奏家としての技量に優れたせいか、即興的であるような。その危うさが魅力なのかもしれない。『ファンタジー』も『ノクターン』も『ワルツ』もショパンの代表曲で何度も耳にしているけれど、聴いているときは苦手意識が消失してうっとりしてしまうのだな。

アンコールはショパン:「12の練習曲 Op.10」より『第12番 ハ短調』を再演。
今日のコンサートは、ショパンドビュッシーのコントラストも楽しめて、さらにメシアン武満の作品が彩りを添えて、これでワンコインとはお得感満載!?

来月は25日(土)、大阪金管五重奏団(Osaka Brass Quintet)による金管五重奏の魅力全開(!!)なコンサートが予定されている。トランペット2本、ホルン、トロンボーン、チューバからなる金管楽器だけのアンサンブル。5人のうち3人が大阪フィルハーモニー交響楽団の首席奏者であるから息の合った演奏が聴けそうですな。


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yosshu0715

実はこの日、初めてワンコインコンサート行ってみようかなと思っていたんですよ・・・!!(笑)
ただお天気が悪かったんで、結局手元にあったチケットの期限もあり、グランフロントでティムバートン展を見ることになりました・・・!!(笑)

JoJoさんは聴覚、僕は視覚でゲイジュツを堪能したことになりますね!!(笑)

雨音はショパンの調べ・・・
懐かしい!!(笑)
by yosshu0715 (2015-03-31 16:15) 

JUN1026

ヨッシュさん、コメントありがとうございます。
音楽か映像か、週末はゲイジュツに浸りたいとも思いますが、やっぱり自転車で徘徊するのが一番(?)・・・ですね。
「I like Chopin(雨音はショパンの調べ)」、確かに懐かしい楽曲ですが、私は自分で歌詞を作って、未だに弾き語っていますよ(笑)。
by JUN1026 (2015-03-31 17:14) 

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