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Adult-oriented [日記・雑感]

現実の「ダイアモンドポイント」では夕陽は望めなかったのだが・・・。

 

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ここに来たいと言ったのは彼女の方だ。

コンクリート壁に四角く区切られた海はまるで砂金を振り撒いたかのように金色に輝いていた。細かい波頭のひとつひとつがきらきらと煌めいていた。この四角く区切られた小さな灰色の海が唯一色づく時間。

ここで夕日が見たいと言ったのは彼女の方だ。

波の音さえ聴こえない静かな夕刻。海に面した公園の一角で、彼女は防波堤の上に立ち、波頭の煌めきを数えていた。僕は白いタイルを敷き詰めたプロムナードに設えられたベンチに腰を下ろして、逆光の中に浮かぶ彼女のシルエットをトレースしていた。
赤く火照った太陽がこの世界の果てへと沈んでいくのにつれて、波に散りばめられていた砂金も水平線の向こう側へと掃き集められていく。濃いオレンジ色の光に包まれていた彼女の足元がモノトーンに変わっていく。
少し離れたところに立つ街燈が瞬いてから灯った。長く伸びた影が夕闇の中に溶け出してしまうと、彼女は、防波堤のステップを、足元を確かめるように静かに降りてきた。
日が沈むともう、少し寒くなって来たねと、彼女は僕のとなりに腰掛けて華奢な左手を僕の腰に回した。

君の温かさとマグノリアの香り。

「何を考えているのかしら」
彼女が僕の顔をじっと見詰める。
「日は海に没し、街は彩りを失い、モノクロームに変わりゆく・・・てね。今日が終わってしまうと思って・・・」
彼女の瞳は夕日を映したのか、茜色めいて見えた。僕の好きな瞳。
「夕日を見ながら今日を惜しむ人はセンチメンタリスト。今日の営みが思い出に変わってしまうのが悲しいンでしょ? でも、ご安心遊ばせ。今日はまだ・・・」
そう言うと彼女は、僕の右手を持ち上げて、そこにつけている時計の文字盤を覗き込んだ。
「今日は・・・、まだあと5時間もあるわ。もうお仕舞いにしちゃうの?」
彼女の口角が絶妙なカーブを描く。僕の好きな唇。
「それに、街はこれから目映いばかりのネオンに彩られていくのよ。お陽様の下での第1幕が終って、きらびやかなネオンが躍る第2幕が始まるの。夕暮れはそれまでの短い幕間、あるいは暗転。フィナーレまで楽しまなきゃ」


僕がセンチメンタリストなら、彼女はいつだってリアリストだ。
夕日を見たいと言い出したのは君の方。それに僕は・・・。

「もう楽しませてくれないの?」

「そう、今日はまだあと5時間もある。センチメンタルな夕暮れからロマンティックな夜に場面転換したいんだけど・・・」
僕は右手で彼女の髪をひと撫でしてから、その手を彼女の右肩にそっと乗せた。
「じゃあ、このままヒロインでいてくれるかい」
そう言って、彼女をハグしようと身体を捻った時、ふいにお腹が鳴った。僕の胃袋もあまりに現実的らしい。

「せっかくアダルト・オリエンテッドな台詞なのに。じゃあ、ロマンティックする前に、とりあえずディナーにしないと」
彼女は僕の腕を解いて、ベンチから立ち上がった。

シフォンの裾が、ふわりと、一瞬無重力状態になった。

彼女が僕に腕を差し出す。それに導かれて僕も立ち上がった時に、太陽は完全に姿を消して、第1幕のカーテンが引かれた。モノクロームな幕間(インターバル)。

「さぁ、ディナーとロマンティックな夜のシーンへ急ぎましょ」

僕に向けられた彼女の笑顔はいつだって天然色だ。

「で、今夜のディナーは何かしら?」
「トンコツラーメンなんて、どう!?」
「あまりロマンティックじゃあないわね」
彼女の笑い声が海辺の公園に響いた。第2幕の開幕を告げるベルのようだ。

(つづく・・・かなァ?)


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yosshu0715

豚骨ラーメンがチャーシュー付きで登場するなら、僕も第2幕にお伴します!!(笑)

久しぶりのJUNさんのブンガク!!(笑)
僕が自分んブログで同じことをしたら、皆さんの頭では「彼女」はポコさん☆で脳内再生されるのでしょうね・・・!!(笑)

読む方は辛いだろうなー!!(笑)
(笑いをこらえるのに)
by yosshu0715 (2012-10-17 02:55) 

moto_tip_sp

詩人か文学人かと思いましたよ(^^)
雨の日のために、家の中では文学人、外ではワイルドなライダー路線でいいかもしれませんね(^^;;

そこにある自転車がブロンプトンならもっと絵になるかも(^^;;
by moto_tip_sp (2012-10-17 07:41) 

JUN1026

ヨッシュさん、コメントありがとうございます。
私はラーメンは約2年食べていないんですが、お誘いならばお伴しましょう(笑)。
もちろん、ポコ☆さんもご一緒に。
by JUN1026 (2012-10-17 12:46) 

JUN1026

モトさん、コメントありがとうございます。
晴耕雨読ならぬ晴走雨著、いいかもしれませんね。昼間はライダー、夜はライター・・・ライダーでライター!!
すみません(笑)。
このストーリーはミニベロではなく、2台のイタリアン・ロードバイクだったりします。
by JUN1026 (2012-10-17 12:52) 

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