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L'Amant double [散歩・散走]

このところ聴きたい音楽イベントもなく、暑い中を汗水垂らして自転車を疾らせるほど行きたいところ・・・は無いわけでも無いが、それは自殺行為に近い。ポタリングは涼しくなってからのお楽しみとして、さて、暑い最中の休日の過ごし方というと・・・。

今日もテアトル梅田でシネマ。2017年・フランス・ベルギー製作のエロティック・サスペンス「2重螺旋の恋人(L'Amant double)」を鑑賞致します(以下、ネタバレ注意)。

2重螺旋の恋人.jpg

ジョイス・キャロル・オーツ
の短編小説「Lives of the Twins」を下敷きに、フランソワ・オゾンが監督と脚本を手掛け、それを大胆に翻案。マリーヌ・ヴァクトジェレミー・レニエが主演の心理サスペンス。
ワタシ的にはジャクリーン・ビセットが懐かしいのですが、その役どころは・・・明かせません(ネタバレ)。
邦題として「2重螺旋」と何やら謎めいた、暗号めいたタイトルが付けられているが、原題は単に「二人の恋人」で、英題(Double Lover)もそれに倣ったもの。しかし、その「Double」が曲者。
2重螺旋」あるいは「二人」が意味するものとは・・・。



私が愛した男は、何者なのか。容姿は同じで中身は正反対の、双子の男。2人は職業も同じ、精神分析医だった。”というのが、日本版に付けられたキャッチコピーで、”鬼才監督が仕掛ける、7つの罠を見破れ!”という指令(?)まで付く。
その7つの罠というのは、
[1の罠] 原因不明の腹痛
[2の罠] 正反対の双子
[3の罠] 外見の変化
[4の罠] グロテスクな美術館
[5の罠] 螺旋階段と猫のブローチ
[6の罠] 謎の隣人
[7の罠] 全てを知る家
で、それは”映画ファンへの挑戦状 “であるとのこと。エロティックは大好き・・・とはいえ、あまりグロいのは苦手なのだけど、挑戦となれば受けて立ちましょ。
タイトルとそのキーワードだけ見て何やら「ツイン・ピークス(Twin Peaks)」的なものを想像していたのですが・・・。

冒頭、何の前振りもなく、説明もないままにワンレングスの長い髪を短く切り詰める女性。「外見の変化」する彼女の名はクロエ(マリーヌ・ヴァクト)。
シーンが変わって、いきなり女性性器(の内部?)のクローズアップ。それが徐々に退いて、婦人科検診台の上で脚を広げる彼女と判り、その只ならぬ雰囲気に謎解きさえ失念してしまいそう。

クロエは「原因不明の腹痛」からモデルの仕事を辞めて、病院通い。そこで精神分析医を紹介されて、訪ねた先は「螺旋階段」が設けられたビルにあるポール・メイエル(ジェレミー・レニエ)の診察室。
そのセラピストは終始穏やかな表情のまま言葉数少なく、ただ彼女が話すのを聞くばかり。そうして何度か通ううちに彼女の心底・・・、に疎まれて育ったこと、人を愛せないこと、不感症かもしれないこと、時折り不思議な夢を見てしまうこと、”架空の姉エヴァ”のこと、その弱さから「原因不明の腹痛」を感じていること、et cetera・・・が語られるが・・・。
その一方的な会話が治療になっているのか、通院するうち多少は好転し、彼女は現代アートが並ぶミュージアムのパート学芸員の職を得て、「グロテスクな美術館」勤めとなる。
さらに通院したいと乞うクロエを感情的理由でポールは拒否。彼は彼女を愛してしまい、治療が続けられないという。それを受け入れるクロエ。二人は彼女の飼い猫ミロを伴って、一緒に暮らすべく新居へ引越し。同じフロアには「謎の隣人ローズ(ミリアム・ポワイエ)」が暮らす。
その引越しで、クロエポールの私物が入ったダンボール箱を開け、違う名義"ポール・ドロール"が記された古いパスポートを見つけてしまう。
さらには「グロテスクな美術館」からの帰宅途中に、ポール(と同じ顔をした男性)が他の女性と話しているのを見掛けてしまい、自分が一方的に身の上話しを語りはしたものの、ポールのことは何ひとつ知らないと気付き、彼を詰問するが軽く受け流されてしまう。
猜疑心から再び不調を感じるようになって、その男を見掛けた場所を訪れてみると、そこも「螺旋階段」が設えられたビルで、ポールの古いパスポートに書かれた名字と同じドロールという名を持つ精神分析医が居ることを知る。
ルイ・ドロール(ジェレミー・レニエ)の診察を受けるべく、アポイントを取って、再びそこを訪ねてみると、ルイポールと同じ顔。そして、同じ名前。双子の兄だという。
一方は温厚で穏やかな人柄で、もう一方は支配的で傲慢な「正反対の双子」。クロエは彼らの秘密を知ろうとするのだが・・・。

2重螺旋の恋人2.jpg

ミステリーを詳らかに語るのはご法度。あらすじはここまでとしますが、程よいサスペンスに、スリラー、軽ゥくホラーの要素が入って、ついついひき込まれるようなシネマとしておきましょう。一部、ひいてしまいそうな映像もあるので、心臓の弱い方は要注意!?
ワタシも昨年「急性胃腸炎」で意識を失くし救急搬送されてしまったりして、映画を観終えて、その「原因不明の腹痛」の「原因」を知って、思わずお腹を押さえていましたよ。怖すぎる!!
クロエも、「原因不明の腹痛」だけではなく、時折り意識が朦朧とするようで、ミュージアムで監視しているときでさえ、自身の意識がそこに展示された現代抽象絵画の中に混濁していくようで・・・。
昨日サム・フランシスを観たばかり。抽象絵画は何となく惹き込まれてしまうと感じたばかり。
そんなこんなで、この”クールビューティ系ヤンデレ?”なクロエに感情移入してしまうが、YSLやLVなどトップ・ブランドのモデルを勤めたマリーヌ・ヴァクトですから、その美しさ故に一層謎めいて見えて、彼女はフランソワ・オゾンの『17歳(Jeune et Jolie)』にも出演しているので、監督のお気に入りでもあり、気心が知れているのでしょう。虚構と現実を行き来する難しい役を演じ切っているように思えました。

もしかして、冒頭の髪を切るシーンは、『17歳』のイザベラがクロエに変身するところ?
一方、ジェレミー・レニエも、全く性格が正反対の双子という難役。穏やかなポールと傲慢なルイ、ちょっと『ジキル博士とハイド氏』を思わせるような演じ分け。彼もオゾン監督作品出演歴を持つ。

夢野久作の『ドグラ・マグラ』や怪人二十面相が登場しない、耽美な方の江戸川乱歩作品に近い雰囲気でしょうか。手塚治虫の『ブラック・ジャック』のエピソードを思い出すような、ピノコちゃんを彷彿する「アッチョンブリケ」な展開。

明かしてしまうと、前述の「7つの罠」の幾つかはミスリードするための、本当の「」。しかし、それ以外にも、「古いパスポート」を始め、「共食い双子」、「二人の情事を見詰める猫」、「猫の失踪と帰還」、「剥製の猫」、「ポルノショップとペニスパンツ(その使い方が・・・!!)」、「プロポーズのプレゼント(猫のブローチ)」、「クロエの妊娠(?)」、「今は寝たきりとなっている、自殺未遂の同級生サンドラ(ファニー・セイジ)と看護するその母親」、「引き出しの中の古い写真と小型拳銃」、「クロエ」、「寄生性双生児」、et cetera。ミステリアスなピースが幾つもあって、終盤に進むにつれ、それらが組み合わされることで見えてくる真実のパズル。嘘と虚構と現実のラビリンス。
クロエは本当に真実を語ってきたのか。ポールルイの関係は? 「怪物」なのは誰?
ピースが全部出揃って、パチリとハマって完成・・・となるはずなのだが、そのパズルは表裏一体。ストーリーは、「正反対の双子ポールルイの秘密を追いながら、「全てを知る家」へと辿り着き、と対面し、クロエの真実を暴いていく。その裏側に隠された秘密。そして・・・。

2重螺旋の恋人3.jpg

Lives of the Twins」・・・「L'Amant double」・・・「Double Lover」・・・「2重螺旋の恋人」・・・「2重螺旋」・・・「二人」・・・「2つの」・・・。そう言えば、「double」には「裏表の」という意味もありましたっけ。2つの物や事が同時に、裏表に重なって存在する。

映画は序盤、ポールの診察室でのクロエのモノローグで淡々と進むが、中盤ルイの登場でサスペンス感がぐんと跳ね上がって、さらに謎めいたサンドラとそのが現れる後半はホラー風味を加味したスリラー。そして、火を噴く拳銃。彼女のお腹が、お腹が、お腹が・・・、息を呑むような大どんでん返し。何気に、が大きく影響しているような・・・。と出産と胎児。
二人」、「2重螺旋」、あるいは「2つ」、「裏表」の真実が解き明かされる。

まァ、”エロティック”ではあるのでしょう、セックス・シーンも多いですし。もちろん、"18禁"ですし。
しかし、21世紀が明けて17年も経つと、それはドライでクール。今時の機能性下着みたいに通気性が良くてサラサラ? 汗ばんだような粘質感が無くて、納涼ホラーとしてはちょうどいい? そのエア・コンディショニングされた設定温度がちょっと低めでゾクッとしちゃう。

ワタシの場合、ストレスで胃腸が荒れて、それが大きく腫れ上がったようなのですが、今時「原因不明の腹痛」で通院すれば、すぐにエックス線撮影やら超音波検査、磁気共鳴画像診断、コンピュータ断層撮影、内視鏡検査されちゃうから「原因」は即座に見つかってしまうと思うのだが・・・。ワタシの場合、ガスが溜まっていると言われて、若くてカワイイ看護士に笑われちゃったんですけど、クロエの場合は・・・?
その「原因」が原因であろうクロエの心理変化が楳図かずお的なホラー?
嘘つきで妄想癖で、ヤンデレでヤキモチ焼きですか。お綺麗だけど、ちょっと付き合いにくそうですねぇ。だから、多少の浮気は見て見ぬ振りしないと。「悋気は女の七つ道具」というけれど、それで大体話しがややこしくなるのだから。「悋気は女の慎むところ、疝気は男の痛むところ」と言いながら、お腹が痛くなったのはクロエさん。「知らぬが仏」で、詮索しないのがイチバン。腹は探られたくない。そこはミステリアスなヒ・ミ・ツ。
だから「悋気は女の慎むところ」なのですよ、マダム。あれ、話しがシネマから逸れてきた? では、この辺で。

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荻原哲

見たくなった!
by 荻原哲 (2018-08-13 21:37) 

JUN1026

萩原先生、コメントありがとうございます。
フランス映画というとムズイと仰言る向きも多いのですが、これは面白い。
今時の映画なので、エロティックと言っても、ドライでクール、耽美な感触は希薄なのですが、文学的でもあります。
そう、これが小説ならもっと想像を誘って印象も変わるのでしょうが、映画としてもよく出来ていると感じました。オススメです。
by JUN1026 (2018-08-13 23:19) 

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