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БOЛЬШOЙ / Bolshoy [散歩・散走]

梅雨明けからいきなりの盛夏は、暑いを通り越して、肌が焼けるようで焦げるようで、小麦色どころか炭化してしまいそうなほど。日の出とともに殺人的な陽射しがギラギラと射して・・・肌を刺して、これではポタリングどころか外出もままならない。こういうときは、エア・コンディショナーの効いた映画館がよろしい。
で、今日はテアトル梅田で『ボリショイ・バレエ 2人のスワン(БOЛЬШOЙBolshoy)』を鑑賞致します(以下、ネタバレ注意)。

ロシア国立ボリショイ・バレエ・アカデミーで頂点を目指す2人の少女の青春ドラマ・・・と、何やら昭和の少女漫画のような雰囲気を醸しつつ、貧しい炭鉱町出身で伸びやかな身体と才能を持つユリアと、金持ちの家に生まれ美しく気高い容姿を持つカリーナ、正反対の2人は過酷なレッスンに耐え、恋とバレエで競い合う・・・という内容はほぼ完璧に少女漫画?

ワタクシ、フランス映画ばっか観ているようで、フランス映画しか観ないという訳ではありません。台詞があまり聞き取れなくて字幕がないと理解出来ないから、日本映画こそ観ない(観れない)ものの、美しいバレエがテーマとあればロシアの映画も吝かではありません。

2人のスワン.jpg

冒頭、薄暗いリハーサル・ルームで入念に身体を解す独りのバレエ・ダンサー。彼女の名は、ユリア・オルシャンスカヤ。本番に臨むに当たって、アカデミーでの懐かしき日々を思い出す。



ボリショイ・バレエ・アカデミー
の入学テスト会場。そこに犇めく子女に割って入るのは独りの風変りな女の子。他の少年少女がこの日のためにレッスンを重ね、蝶よ花よと過保護に育てられている(ように見える)のに対して、そのちょっと変わった女の子は着の身着のまま。彼女をここへ連れてきたのもアル中の、ちょっと・・・かなり胡散臭げな中年男性。
その男・・・ウラジミール・ポトツキは、かつては才能溢れるバレエ・ダンサー。酒に溺れ、身を持ち崩し、今は炭鉱町の安酒場でそこのダンサーたちに振り付けを教えている。
彼に誘われモスクワまでやってきたのは、その炭鉱町の駅前広場で踊りを披露しながらスリの片棒を担ぐ、補導歴3回の少女。母やまだ幼い妹弟に別れも告げず、家出同然にモスクワまで来た。
ポトツキは、現役時代のパートナーで今はアカデミーの講師となっているガリーナ・ミハローヴナに少女を引き合わせ、半ば強引にテストを受けさせる。

入学願書とか必要ないのかしら? 容姿を見て、踊らせてみるだけで入学が許可されるものなのかしら? ・・・とも思っちゃうが、そこは少女漫画(?)、細かい手続きは端折ってしまう。

その少女・・・ユリア・オルシャンスカヤのダンスはあまりに独創的。ぴょんぴょん跳ねるかと思ったら床を転がり、面接官に向かって戯けた顔を見せつける。正式なレッスンは受けていないのだから当然といえば当然で、他の面接官が眉を顰める中、かつての伝説的プリマ、ガリーナだけがその類まれなる跳躍力と表現力、しなやかさを見抜き、独断的に入学を許可。国立のアカデミー・・・ですよねぇ・・・? いよいよ少女漫画。

同じ会場で試験に臨むのは、すでに婚約者が数人いるような、超良家の超お嬢様、カリーナ・クルニコヴァ・・・とその他大勢。
シチュエーションからすると、イジメや妬み、嫉みからドロドロした展開かと思いきや、そこが昭和の漫画じゃないところ。寮での暮らしも和気藹々と和やかで、バレエ用語が分からずガリーナの指示を理解出来ないユリアを他の少女たちがフォローし、ユリアカリーナとともに頭角を現わす。

アカデミーではダンサーの体調管理が大事、大きくなり過ぎないようにと、プリマ候補の二人にはお粥(?)のみ。ユリアはそれが耐えられず、眼の前にあった食べ残しのチョコ・バーに手を延ばしてしまい、ガリーナに自覚が足りないと叱責されてしまう。

しかし、ガリーナはよほどユリアがお気に召したのか、アカデミー内の自室の掃除や身の回りの世話をさせ、自身が現役時代パリ公演で「オデット」を演じた際に身に付けていたサファイアとダイアで出来た高価なイアリングをユリアに与えてしまう。これが事件の発端。
かつての名プリマでアカデミーの鬼講師であっても寄る年波には勝てず、ガリーナは時折り記憶を失くしてしまう。それをユリアに知られ、アカデミー関係者には内緒にするようにと口止めをし、ユリアはそれを守り通すのだが、自ら与えたことを忘れて、大事なイアリングが失くなった、盗まれたと大騒ぎ。ユリアと同室の女の子が、そのイアリングはユリアが持っているとチクって・・・。それが進級試験の日。
身体が大きくなり過ぎた、未熟で進級に相応しくないと、脱落する者もある中、盗難事件は沙汰止みとなって、ユリアも無事に進級、上級クラスへ。

アカデミーでのレッスンや暮らし、そのシーンの合間には入学前のユリアの貧しい生活ぶり。スリによる補導、ポトツキとの出逢い、そして炭鉱町の貧しい少女と華やかなボリショイ・バレエとの会遇・・・。いよいよ昭和少女漫画ですなァ。美内すずえの未完の長編漫画を彷彿する。あッ、ボリショイだったら、山岸涼子の「アラベスク」か!? うん、キライじゃあない。

8年間のアカデミー生活で、2人の少女は美しいプリマとして成長。卒業公演でどちらが「オーロラ」を演じるか。類い稀れなる二つの才能が花開く時。
アカデミーには女の子だけではなく、もちろん男の子もいて、卒業公演での「デジレ王子」役はほぼ決まり。ユリアカリーナのどちらが相手役になるか。そこには恋愛感情もあったり、無かったり。カリーナは王子役の青年に心引かれつつも、私の処女はバレエに捧げたときっぱり決意表明。気高く、何より美しい。卒業公演に全てを賭ける。一方、ユリアはそこまで真摯じゃない?
彼女を強引に入学させて、ここまで引っ張ってきたガリーナは当然卒業公演での主役はユリアと独り決め。生徒一同はどちらが「オーロラ」かとトトカルチョ。
そこへ現れるのはカリーナの母。ガリーナに面会し、それとなく配役を探ろうとするが、記憶が曖昧になるガリーナユリアカリーナを勘違いし、「オーロラ」はユリアと母に告げてしまう。
超お金持ちなカリーナ・ママは、ポルシェ911カブリオレでユリアを誘い出すと、主役の座を譲れと買収工作。

卒業公演前に一週間のリフレッシュ休暇が与えられ、ユリアは炭鉱町へと帰るが、久しぶりの我が家は、父が蒸発し、一層貧しい暮らしぶり。母と幼い妹弟たちの生活は、水とキャベツだけのボルシチ、まともなパンが買えず食べ残しのパンを貰ってきて、それを日々の糧としている。母は、お前だけモスクワで綺麗な生活をしてと、ユリアを詰る。
モスクワへの帰路。ユリアは列車の中で知り合った見ず知らずの青年と一夜を過ごし、目覚めると卒業公演リハーサルの日。配役発表が迫るホールへ急がないといけないが・・・。
他の講師や生徒たちがジリジリと苛立つ中、ガリーナユリアの到着を待てという。
雨の中を駆けてずぶ濡れ、衣装も身につけないユリアの登場に講師たちの不満爆発。記憶障害も知られてしまったガリーナのゴリ推しももう限界。それでもユリアを「オーロラ」にしたいガリーナは政治的根回しで強行突破。

そして卒業公演当日。『眠れる森の美女』の幕が切って落とされるというその時、ユリアの姿は舞台に無く、大金を母宛てに送金し、かつて伝説のプリマ、ガリーナ・ミハローヴナだけが成し得たという、屋上から隣りの建物までの180度開脚ジャンプに挑む。

ここまでがいわば、前半、第一部。

アカデミーを修了し、ボリショイ・バレエ団の美しい新進プリマ・バレリーナとなったカリーナ・クルニコヴァ。近く予定される「アントワーヌ・デュバル客演公演『白鳥の湖』」で「オデット」を務めるにあたっての記者会見が催され、コール・ド・バレエ、3番目の白鳥になるユリア・オルシャンスカヤもその隣りにいる。
そこを抜け出し、酒瓶を一本くすねて黄昏るユリアに近づくのは、パリから来演するデュバル。2人で会見をエスケープして夜の街へ。
まだ少女であったユリアがバレエ・ダンサーになることを夢に見たのは社会見学で訪れたボリショイ劇場でのこと。
独りはぐれたユリアは絢爛な劇場内を彷徨い、舞台袖へ。そこから見えるステージには美しく踊るプリマと華やかな舞台装置。そして出番を待つデュバルの背中。
彼と踊ることを夢見て、アカデミーに入学したのだったが・・・。

その客演フランス人ダンサーは、女癖がよろしくないようで、端役の女の子全員と寝るような男。ユリアは「オデット」の代役に抜擢される。それを詰るカリーナ
リハーサル。センターで踊るカリーナと、同じ衣装を着けてその影のように傍らで舞うユリア

そして、本番。
脚が痛いと出演を辞退するカリーナ。卒業公演での「オーロラ」は母の買収工作に依ることを知っていたのか、どうなんだか・・・。
一方、女癖のよろしくないフランス人ダンサー。かつて同じ劇場で背中を押してくれた少女がいたこと、彼女に勇気付けられ今日あることをユリアに打ち明ける。
伝説のプリマ、ガリーナ・ミハローヴナから譲られたイアリングを身に着け、ユリア・オルシャンスカヤが「オデット」としてボリショイのステージに舞う。

ね?! 分かりやすい、少女漫画・・・でしょ。なんか、「ガラスの仮面」の最終話を先に観ちゃったような気になってしまう。ロシア語は全然理解出来ないンだけど、それすら気にならない。
昭和の漫画ほどドロドロしたところもなく、基本ワルいヒトはひとりも出てこない。強いて言えば、お金で少女の未来を買ったカリーナのママでしょうか。それも我が子を思えばこそ。
女癖のよろしくないフランス人バレエ・ダンサーは・・・、まァ、それは大目に見て頂きたい。

邦題は『2人のスワン』と対決ムードを煽るが、原題はシンプルに『БOЛЬШOЙ(ボリショイ)』で、2人の女の子が、足を引っ張り合ったりいがみ合ったりすることなく、それぞれがそれぞれに切磋琢磨するお話し。だから観ていて気持ちいいのかも。強いて言えば、卒業公演の借りを客演公演で返すってどうなのよってところですか。まァ、それだけカリーナユリアの実力を認めているということなのでしょう。母のしたことに負い目を感じて・・・だったら哀し過ぎる。泣けちゃう。

出来れば、ねェ。出来れば、もう少し公演時の画が欲しかったかなァ。「2人のスワン」という割りには「オデット」の出番は少なくて、期待を持たせた「オーロラ」も無いに等しい。
一番の見せ場はユリアカリーナがフェッテを競い合うシーン?!
もしかしたら、踊れないんじゃね・・・な疑惑。
しかし、主演の2人。主役ユリアを演じるのは、リトアニア出身でスウェーデンやフランスの国際コンテストで優勝後、 ポーランド国立バレエ団を拠点に活躍中の現役ダンサー、マルガリータ・シモノヴァ(Margarita Simonova)。
ライバルのカリーナを演じるのは、実際にボリショイ・アカデミーを優秀な成績で卒業後、ロシア・ナショナル・バレエ劇場で「白鳥の湖」を始め古典的演目すべてに出演したアンナ・イサエヴァ(Anna Isaeva)。
アカデミーでレッスンに励む子役たちもそれなりにバレエを経験する少年少女なのでしょう。
元パリ・オペラ座のエトワールで、パリ・オペラ座と並ぶ世界3大バレエ団の英国ロイヤル・バレエ団やボリショイ・バレエ団で活躍した史上最高のバレエ・ダンサー、ニコラ・ル・リッシュ(Nicolas Le Riche)がアントワーヌ・デュバルとして客演(?)しているのだし、70名もダンサーを集めたのだから、せめて『王子とオデットのグラン・アダージョ』なり『オデットのソロ』、『コール・ド・バレエ』くらい観せろや、ゴラァとも思うが、チャイコフスキーが聴きたければ、「白鳥の湖」が観たければボリショイ劇場にお越しくださいということなのでしょう。

2人の」と言いながら、これはウラジミール・ポトツキガリーナ・ミハローヴナに見出されたユリア・オルシャンスカヤのシンデレラ・ストーリー。ボリショイにはこんなに夢が詰まっているんだよ的な、ロシアン・ドリーム。
2人のスワン」を外して、「ボリショイ・バレエ」だけでも十分楽しめること請け合い。
でも、どちらかと言われたら、ひたむきさを内に秘めた、その奥床しさで、カリーナ・クルニコヴァに10,000ロシア・ルーブル!!
永く封印してきたワタシの中のバレエ・ブームが再燃しそうです。


そう言えば、ピョートル・チャイコフスキー作曲「白鳥の湖」は、クロード・ドビュッシーがピアノ連弾に改めているのでしたな。

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