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une chanteuse de 80 ans. (わたしのシャンソン) [音楽のこと]

常日頃、血中仏蘭西人濃度128%などと言いつつ、クロード・ドビュッシーを始めとするフランス近代音楽を盲愛するワタシ。
音楽は全ての芸術、学問の到達点で、その窓口でもある(!!と名言風?!)』・・・と考え、音楽から地理、地勢を知り、音楽から歴史を学び、音楽の中に数学を見出して、音楽から詩情、物語を感じ取る。それに関連するフランス美術も鑑賞すれば、読めないなりにフランス文学を紐解いてみたりもする。・・・というと、勉強家のようですが、地理や歴史、数学、文学を直接的に学ぶのが面倒臭いと考えてしまう横着者。音楽を深く理解するために、他はほんのツマミ食い。
映画もハリウッド製よりエスプリ溢れるおフランス製がいい。

フランスの音楽。その長い歴史は、西暦1200年前後のノートルダム楽派まで引っ張り出すと難しくなるが、ルネサンス~バロック期にあっても、いわゆるバロック音楽とはひと味違うフランス古典音楽、それから前述のドビュッシー(近代)も通り越して、フレンチ・ポップフレンチ・ロック。どの時代を切り取っても、とってもトレビア~ンで、その濃厚でいてしつこくない風味は格別。

そのフランス風味の楽曲の中でも、広く知られるのがいわゆる「シャンソン(chanson)」。
本来はフランス語で「歌」を意味するから、フランス国歌La Marseillaise』(ワタシは何故かこれを聴くと泣けてしまう)だって、ミッシェル・ポルナレフヴァネッサ・パラディだろうと、時代やジャンル、様式に関わらず歌曲であれば「シャンソン」となってしまうが、一般常識的にはフランス語で歌われる歌謡曲が「シャンソン」と認識される。それらのうち多くは、英訳されたり日本語化されたり、スタンダード・ナンバーとして定着もしているし、カバーされつつ世界中で歌い継がれてもいます。

ワタシはどちらかというと、スタンダード化された楽曲より、フレンチ・ポップ()、ことにフレンチロリータに惹かれるのです・・・といって、ロリータ・コンプレックスではありません・・・が、このところ、そのスタンダードな「シャンソン」をよく聴くことになってしまいました。

というのも、50数年ぶりに独身女性(“独居老人”というとすごく怒るので)となった母が80歳を前にして「シャンソン」を習い始めたからで。

長く続いた父の介護から解放されて気楽にはなったものの、寂しさと手持ち無沙汰から今まで嫌がっていた老人会(年寄りばかりが集うその名称が気に入らないらしい)に顔を出してみたり、カルチャー・スクールを覘いてみたりするうちに、どんなご縁かシャンソン教室に通うことにしたそうな。
シャンソンといったところで、本格的なものではなく、定番化された仏蘭西歌謡曲、それも日本語で歌うようなので、習い事というレベルでもなく、ほんの気晴らし程度なのでしょうが、本人はいたって本気(マジ)!!
なんでシャンソンなん?! ・・・というツッコミ無用。ワタシの血中仏蘭西人濃度が高いのだから、母も限りなく仏蘭西人なのでしょう、多分。日本語やけど・・・。

年寄り扱いされるのが嫌いで、息子たち(ワタシと弟)やその嫁に面倒看てもらうなんて真っ平御免という、ちょっと鉄火な昭和のオンナ。

何しろ、ご近所の児童公園に連日昼日中屯ろし、そこの花壇にゴミや吸い殻を捨てる若いヤンキー5~6人をホウキ一本で追い散らすかと思えば、父亡きあと自宅に掛かってきた還付金詐欺の電話を気合一声で撃退してしまう、怖いもの知らずの猛者(猛女)。老いて益々盛ん・・・とまでは言わないけれど、衰え知らず・・・なのでしょう。
警察に通報し、市役所(区役所)に連絡した後に、ワタシに「いやァン、怖かったわァ」と電話を掛けてくるところが可愛くはあるのだが・・・。

で、そんな、年寄り扱いされたくなくて、ちょっと鉄火肌の肝っ玉バァサン(あッ、叱られるわ!!)カァサン、シャンソンで愛を歌うというわけで。
80歳にしてシャンソン歌手デビュー? まァ、ワタクシの国ではァ、「Impossible n'est pas français.(不可能という語はフランス語にはない)」と言いますから。

しかし、流石に寄る年波(うッ、しばかれるわ!!)、歌詞やメロディがなかなか覚えられないのだとか。
で、ワタシに助太刀致せとのご下命。お教室で恥をかかない程度に自宅で練習したいそうで・・・。

読み易く分かりやすい歌詞付きメロディ譜を作ってプリントアウトすればよろしいのでしょうか?
聴き取り易くて歌いやすいカラオケをDAWで作ればよいのでしょうか?
と思ったら、横について歌唱指導・・・まではいかないにしても、伴奏しながらアドヴァイスしろとの仰せ。とにかく歌詞やメロディを外してないかチェックしてくれろとのご用命。まァ、コンピュータやカラオケ機はサポートにはなっても、助言まではしてくれない。

電話やネット回線を通じてのガイダンスというわけにもいかないので、都度実家まで帰ることになる。
実家といっても、クルマでわずかに30分。なんなら、自転車でだって帰れてしまう距離。

通りすがりのマドモアゼルであろうと、顔馴染みのマダムだろうと、女性とあれば手助けしたい。ご依頼となれば、否応無く引き受ける。それが母の教えでもあって、ましてや、その母からの言入れとあっては断れない。
彼女が助言しろと仰言るその深意は、無沙汰をしないで、時々は帰って来て相手をして欲しい・・・のではないかとも思うが、はっきりそう言わないのは、奥床しいところなのか、気丈なせいか。まァ、ワタシにも仕事があって家庭も持って、ワタシにはワタシの生活があることに気遣ってくださるのでしょう。ソンタクってヤツですか。
外せないイベントがある時はともかく、身体が空けば実家に向かう。

で、肝心のシャンソンなのであるが・・・。

お教室で頂いてくる簡単なメロディ譜を元にピアノ伴奏用のスコアを作るに当たって参考となる音源をiTunes(Apple Music)やらYouTubeで物色するも、なにせ”語るように唄う、唄うように語る”、”一編の短いドラマ”と言われるシャンソン。歌い手、演奏家によって節回しもアレンジメントも種々多様。新進シャンソン歌手総出演新春シャンソンショー (しんしんシャンソンかしゅそうしゅつえんしんしゅんシャンソンショー)状態?? 舌を噛んじゃいそうですな。
あまり複雑にすると、母には難し過ぎることになる。ごくシンプルにしたいと思いつつ、根が凝り性なものでついついやり過ぎてしまったり・・・。

シャンソンといえば、エディット・ピアフイヴ・モンタンなどなど。日本語でなら、金子由香利越路吹雪を参考にしないといけないのかしら。と色々と聴いているうちに、ワタシの方がシャンソンに染まってしまったりして。もとよりフランス近代音楽が好きで、映画の中のフレンチロリータを多く観て、なんならワタシがフランス語で歌えそう?!

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ワタシにとって一番の「シャンソン」は、1963年公開、ジャック・ドゥミ監督作品の映画『シェルブールの雨傘(Les Parapluies de Cherbourg)』で歌われるその主題歌。映画も100回以上観てしまうほどに昔からハマっているのですが、ずっとカトリーヌ・ドヌーヴが自身で歌っているのかと勘違いしていたら、実は吹き替え。歌唱はダニエル・リカーリ。作曲は映画音楽の巨匠ミシェル・ルグラン
いわゆる「シャンソン」の部類に入るかは微妙ですが、フランス語で歌われるフランスの歌曲なのだから、文句なく「シャンソン」。その歌詞の中では、"De notre amour écoute la chanson"と歌われてもいますし。
スタンダード・ナンバーとなって、英語版は「I Will Wait for You」。ワタシのiPhoneには、フランス語版「Les Parapluies de Cherbourg」と英語版「I Will Wait for You」と日本語版やインストゥルメンタル版「シェルブールの雨傘」が合計27曲もプレイリストとして並んで(特に雨降りの日には)日々愛聴。
が、これは母のお役には立たないようで・・・。

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で、最近、あれこれと物色するうち、母そっちのけでハマっちゃっているのが、『BARBARA』というアルバム。ピアニストのアレクサンドル・タロー(Alexandre Tharaud)が手掛けた、シャンソン歌手バルバラ(Barbara)へのトリビュート。

1930年生まれのバルバラは半ば伝説的なシャンソン歌手で、シンガー・ピアニスト&ソングライター。宣伝活動を一切行わずして、そのコンサートや公演のチケットが発売と同時にソールドアウト。生きながらにして「神話」と喚ばれたのだとか。惜しまれつつも、1997年に病いから、67年の生涯に幕を下ろした。
若い頃のワタシは、(未だにそうなのだけど)「歌曲(?!)」と言えば、ハードロックと初期のヘヴィーメタルを主食として育ってきたから、残念ながら生きた彼女は知らない。
今聴いてみると、圧倒的な歌唱力というわけでもなく、ナイチンゲールを思わせるような歌声というわけでもないのだけれど、なんとも味のある唄いっぷりで、聴くうちに引き込まれていくような、これぞ「シャンソン」といった印象。

一方のタローさんは、1968年生まれで、今を時めくピアニスト。パリ音楽院に学んだクラシック演奏家。フランス系楽曲に止まらず、ドイツ三大B(バッハ、ベートーヴェン、ブラームス)も演奏すれば、モーツァルト、ショパンやラフマニノフもお手の物。ソロだけではなく、オーケストラとの共演も多く、世界中のホールで演奏活動を行いつつ、数多くの音盤をリリース。
それだけでは収まらず、ミヒャエル・ハネケ監督・脚本による2012年公開の映画『Amour(愛、アムール)』では、主人公の老夫婦のお弟子さん役(ご本人役?)を演じ、映画の中でもチャラっとベートーヴェンを弾いて観せ、そのサウンドトラック(ス)も手掛ける。
「ジャズ・エイジ」、「狂気の時代(années folles)」とも呼ばれた1920年代の、多くのアヴァンギャルドが集ったパリのキャバレーをモティーフにしたコンサートを企画するかと思えば、次はシャンソンバルバラへのトリビュート・アルバム。



タロー
さんはピアニストですから、ご自身が歌うわけではありません。バルバラ没後20年を経て作られたそのアルバムは、多くのゲスト(20数名と2組?)を招いて、2枚組25曲、そのほとんどがバルバラの手になる作品で、そのほとんどをタローさんがアレンジメント。
1枚目は、シャンソンらしく(?)、シンガーとピアノ、それに曲によって、ヴァイオリンやチェロ、ギター、クラリネット、アコーディオンなどが色を添える。フレンチ・ロックのグループも加われば、弦楽四重奏団も加勢して、ゴージャスでもあり、バラエティ豊かな、豪華盛り合わせ。
2枚目は、インストゥルメンタル化したアレンジメントで、タローさんのピアノを始めて、バルバラのバックバンドにも在籍していたというアコーディオンとクラリネットが歌心溢れる演奏を聴かせてくれる。
ジョン・ロードをにーさんと呼ぶワタシは畑違いで、その多くのアーティストを存じ上げないのだけれど、計15名も集められたシンガーのうち何名かは見知った名前。ジェーン・バーキンに、ジュリエット・ビノシュヴァネッサ・パラディ。それぞれ世代を代表するフレンチロリータ(!!)が名を連ね、それだけでも一聴の価値あり。
それぞれがバルバラのモノマネにならず、それぞれの個性と持ち味を披露しているのがいい感じで、ジュリエット・ビノシュは歌唱ではなく、歌詞の朗読。ピアノとヴァイオリンを伴奏として、歌詞を囁く。”語るように唄う、唄うように語る”、”一編の短いドラマ”な「シャンソン」ではあるけれど、その表情豊かな囁きはフランス映画を観ているような錯覚を呼ぶ。
バルバラが自作し歌ったシャンソンですが、男声陣も参加して、ロック・グループのラジオ・エルヴィスがタイトなビートを弾けば、アルビン・デ・ラ・シモンジャン=ルイ・オベールが渋みを効かせ、俳優・演出家のギヨーム・ガリエンヌが飄々と歌う。
目立つのはシンガーだけではなく、音数をぐっと控えたタローさんのピアノが歌伴のお手本のようなら、在りし日のバルバラを思わせるような演奏はアコーディオンとクラリネット。ヴァイオリンやチェロもツボを得た表現。
ここに集められたアーティストがそれぞれ、今もバルバラを愛しているのだと感じさせるようなアルバムに仕上がっています。
タローさんのお気に入りはバルバラが作った「Pierre」? ティム・ダップに歌わせてもいるのだけれど、1枚目の一曲目と最後(17曲目)はピアノ・ソロで、各々「Prelude(プレリュード・前奏曲)」、「Postlude(ポストリュード・終奏曲)」としてアルバムを纏めている。となると、全てを器楽曲化し、タローさんのピアノも歌う、2枚目の9曲はまるっとボーナス・トラック?
トリビュートと言いながら、「シャンソン」とそれをアレンジメントした器楽曲が聴けて、多くのゲストがそれぞれの個性を競って、ヴァラエティ豊かでお得感の高いアルバム。

母にお勧めしたところ、「違う」と鮸膠も無い。やはり、「La vie en rose(バラ色の人生)」だとか「Sous le ciel de Paris(パリの空)」、「L’Hymne à l'amour(愛の賛歌)」の定番どころですか。以前このブログでも取り上げた「Les Feuilles Mortes(枯葉)」はギリセーフでしょうか(→記事参照)。

まァ、なんにせよ、老齢(あッ!!!!)になってからぽっかり空いた大きな穴を埋めるものが見つかれば重畳。埋めることが出来れば喜ばしいこと。多少なりとも協力しないと・・・。
80歳のchanteuse。来年の「母の日」には、「デビューするからドレスを買って♡」ってなことには・・・まさかなるまい。それじゃあ、バルバラじゃなく、ババアですから(あッ!!!!)。もしも、そうなったら、ワタシは"あれくさんどる・じろー(Alexandre Ghiraud)"とでも名乗って、伴奏デビューしちゃいましょうか、ね。

マザコンでロリコン(?!)が露呈してしまいそうですが、母の日に寄せて・・・。

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Satoshi Ogihara

お母様、素敵な方ですね!

by Satoshi Ogihara (2018-06-16 14:45) 

JUN1026

萩原先生、コメントありがとうございます。
はい、何しろ、私の母ですから・・・(笑)。
by JUN1026 (2018-06-19 21:39) 

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