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秋によせて 〜 月光伝説 [音楽のこと]

以前のブログ『たーぱぱ徘徊記』の記事を加筆修正のうえ転載しました。
「月」を題材にした楽曲について。ドビュッシーやらベートーヴェンやら、なぜかセーラームーンやら。

 

 

長く続いた酷暑が徐々に影を潜め、いよいよ秋が静かに忍び寄って来た気配。春の訪れ、夏の到来は、どちらも唐突な印象がありますが、秋は密やかに忍びやかに近づいて来るように感じられます。

秋といえば、食慾、スポーツ、行楽、読書とアウトドア派もインドア派も楽しめる季節。
そして秋といえば名月、観月、星月夜。中秋の名月は旧暦の八月十五日ですが、大阪では新暦九月はまだまだ残暑厳しく、今年は特に熱帯夜が続いたりで月を眺めるよりエアコンが恋しかったりで室内でお団子を頂くこととなりました。

ようやく朝晩には風を冷たく感じるようにもなり、帰り道に月を眺める余裕が出て来た感はありますが、都心部の四角く切り取られた空、ビルの影に見え隠れする月では風情も情緒も薄れがち。ましてや、通勤は地下鉄で、となると、灼熱の太陽を避けるには好都合ですが、月を見上げることは出来ません。

となると、月への想いは音楽で。

他の天体、たとえば太陽やそれに連なる惑星たち、もっと遠いところの星々はあまり多く扱われていませんが、それに引き換え、古今東西、一番身近な天体である月を題材にした楽曲は数々あって、何れも名曲揃い。そしてどれもがロマンティックだったりします。
月から発せられる霊気に当たると気が狂うとも言われます。Lunaticというとちょっとアブナいイメージもあるようですが、秋の宵、月明かりの下、人恋しく狂おしくなってしまうということなのでしょうね。物狂おしい秋月夜。

luna.jpg


月の光」で真っ先に思い出されるのは、クロード・ドビュッシー(Claude Achille Debussy 1862年8月22日 - 1918年3月25日)の「ベルガマスク組曲 (Suite bergamasque) L.75」の『第3曲』。
気だるいような、曖昧な音の重なりが柔らかい月光の揺らぎめいて非常に美しい楽曲。ピアノらしい旋律でありながら音数を削ぎ落とし余韻を印象づけて、嫋やかに遍く照らす月の光を表現しているのが耳に心地いい。
ドビュッシーが偏愛したフランス象徴派の詩人ポール・ヴェルレーヌ(Paul Marie Verlaine 1844年3月30日 - 1896年1月8日)の詩集「艶なる宴(Fêtes galantes)」に収められた詩『月の光(Clair de lune)』から翻案された、あまりに切なく美しい曲。よほどこの詩人の作に惹かれたようで、他にも30曲以上作曲しています。
ベルガマスク」とは、ヴェルレーヌの「月の光」の一節、"Que vont charmant masques et bergamasques(現われたる艶やかな仮面喜劇者たちとベルガモの踊り子たちは)"から引用された、"ベルガモ風の"ということであるらしい。
ヴェルレーヌの「艶なる宴」は、「雅びの宴(fêtes galantes)の画家」と呼ばれた、18世紀フランス・ロココ様式の画家アントワーヌ・ヴァトー(Antoine Watteau 1684年10月10日 - 1721年7月18日)の絵に触発されて綴られたのだそうだ。その艶然とした美しさに惹かれた詩人。そして、その端正な詩に囚われた作曲家。百年余に渡るフランス芸術の連鎖。絵画から詩作、そして音楽へ。なかんずく、絵画的な、映像的な音楽を想望したドビュッシーにはいいテキストだったのでしょうね。

より映像的な楽曲となると・・・。

同じドビュッシーの「前奏曲集 第2巻 (Préludes pour piano Deuxième Livre) L.123」に収められた『第7曲 月の光が降り注ぐテラス(La terrasse des audiences du clair de lune : Lent)』もやはり印象的。月の霊気が雫となって舞い落ちてくるのが見えるよう。こちらの表題にそれほどの意味は込められていないそうですが・・・。
映像 第2集 (Images 2e série) L.111」から『第2曲 荒れた寺にかかる月』。原題は『Et la lune descend sur le temple qui fut』なのだけど、『そして月は廃寺に落ちる』とも訳されるのがフランス語の難しいところ?
まァ、この2曲は『月の光』よりさらにドビュッシーの個性が際立って、消えてしまいそうな溶けてしまいそうな、曖昧模糊とした印象の中に淡い光と微かな影とが織りなす精緻なコントラスト。いずれにせよ、幻想的というか幽玄な曲ですこと。時折り顔を出す不協和が、まるで背中をそっと撫でられたような、ゾクリとするものを感じさせてくれます。
太陽が作る影とは異なる月の光に因る淡い影は実体を伴っているようないないような。そんな"イメージ"を音にしたドビュッシーの作品。悠久の夢幻に引き込まれそうな感覚を覚えます。

ドビュッシーよりひと足早くヴェルレーヌの詩に惹かれ、それを元に歌曲を作曲したのがガブリエル・フォーレ(Gabriel Urbain Fauré 1845年5月12日 - 1924年11月4日)。
月の光」も真っ先に取り上げて、それ以降しばらくヴェルレーヌ三昧、どっぷりハマってしまったようで数多くの歌曲を残しています。
歌曲集「2つの歌」作品46の『第2曲』。1887年に作られているので、同じフランスにいるドビュッシーは聴いたであろうし、参考にもしたはず。どちらも甲乙つけ難い麗しげな佳曲。ドビュッシーがあえて歌曲にしなかったのはフォーレを意識してのことだったのでしょうか。そうそう、フォーレの弟子でもあるモーリス・ラヴェル(Joseph-Maurice Ravel 1875年3月7日 - 1937年12月28日)もヴェルレーヌの詩集「艶なる宴(Fêtes galantes)」を取り上げていますね。

フランス系の作曲家は、月に魅了されたというより、ヴェルレーヌに惹かれたようですね。ではこのお方は?

ピアノで月光となると、ルードヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの「ピアノソナタ 第14番 嬰ハ短調幻想曲風に作品27-2 (Klaviersonate Nr. 14 cis-moll "Quasi una Fantasia")」は外せません。通称「月光ソナタ」ですね。ベートーヴェンの三大ピアノソナタのうちの1曲。残念ながらこちらの通り名はベートーヴェン先生亡き後に付けられたので、先生が本当に月を題材に書かれたのかどうかは不明。それでもやはり第1楽章で繰り返される三連符は月の光を連想させるように思えます。
第2楽章で変調をきたし、第3楽章はもしかしたら月の霊気に当てられてlunaticとなった様を表しているのかもしれません。満月の光で変身したシュヴァルツヴァルト(黒い森)の狼男!? そんな訳はないわな。

フォーレドビュッシー楽聖さまの「月光ソナタ」を参考にしたんでしょうか?

ドビュッシーの「月の光」が♭5つの変ニ長調(Des-Dur)、ベートーヴェンの「月光」が♯4つの嬰ハ短調(Cis-Moll)。長短の違いこそあれ、どちらも変ニ(D♭)=嬰ハ(C♯)を主音とするのは偶然か? 月といえば、この音・・・なのか?? あッ、フォーレは違いますね。

日本で名月といえば秋を連想してしまいますが、欧州在住のベートーヴェンフォーレドビュッシーがどの季節に着想を得て、いつ作り上げたのか。ちょっと気になりますね。
イメージ的に、楽聖さまの「月光」は真夏の狂おしい満月、フォーレドビュッシー(というかヴェルレーヌ)の「月の光」はもの寂しげな晩秋の欠けた月。誰もお月見団子は・・・食べてはれへん!?

「ピアノ×月×lunatic」繋がりで、懐かしいところは、Gazebo(ガゼボ)の楽曲「lunatic(ルナティック)」とそれに松任谷由実による日本語詞をつけたカバー曲で小林麻美さんが唄った「月影のパラノイア」。同じGazeboの「I like Chopin」もユーミンによる日本語詞をつけて「雨音はショパンの調べ」というタイトルで小林麻美さんがカバーしています。このカバー2曲を含めたPV集がビデオとして販売されていたのですが、これがなかなかセクシーでよろしい。未だに密かに愛蔵しています。


ジャズのスタンダード・ナンバーなら「Moonlight Serenade」か、「Fly Me to the Moon」、「Its Only A Paper Moon」、「Blue Moon」に「Moon River」。どれも、ドビュッシーベートーヴェンに比べて、はるかにストレートで分かりやすい。

まさに月華繚乱。他にも月絡みはいっぱいあるのですが、また改めて・・・。



そうそう、うちのおチビ君(いまや身長174㎝やけど)は「月の光といえば『ムーンライト伝説』」だそうで、幼稚園に入るまでは「大きくなったらセーラームーンになる」と言ってママを困らせ、パパを笑わせてくれていました。
あんたは男の子や、っちゅうねん!! 月に変わってお仕置き・・・したいのはコッチやっちゅうねん!!

とらちゃん.jpg

マーキュリーヴィーナスがお気に入り(笑)。にしても、この頃は可愛かったことよ。

昭和のアイドル歌謡の王道をしっかり踏襲した意外に名曲だとは思うけど、パパはセーラーマーキュリー派(笑)。
そういやぁ、アイドルとして「夢はマジョリカ・セニョリータ(ムーンライト伝説の元歌)」を歌っていたの頃の中谷美紀は可愛かったよなァ(しみじみ)。


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