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5つの「声」 [音楽のこと]

感動のうちに大団円を迎えた「大植英次プロデュース『大阪クラシック~街にあふれる音楽~』」。その余韻も冷めぬうち、一晩明けた今日は「ワンコイン市民コンサート」。月に一度のお楽しみで、第32回を数える今回のプログラムは『木管五重奏団 "5 STIMMEN” コンサート』となっている。

 

例によって、阪急電車宝塚線石橋駅で下車して、待兼山を登って、大阪大学豊中キャンパス内に建つ大阪大学会館を目指す。
まだ夏の余韻を十分に含む陽射しの下、待兼山の森の中では半翅目だか直翅目だかが神経質な鳴き声を立てているが、今月はそれすら愛おしく感じられる。キャンパスの何れかから下手ッ糞なホルンが聴こえてくるが、それさえ今は愛らしく思える。上質のクラシック音楽に満たされて癒された耳は多少のノイズにもかくも寛容。でも、やっぱ五月蝿いよッ!!

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さて、本日のプログラムは、木管五重奏団 5 STIMMENのコンサート。
5 stimmen ~ fünf stimmen ~ フュンフ・シュティメン ~とは独逸語で、"五つの「声」"を意味するとかで、出口かよ子(フルート&ピッコロ)、松本剛(オーボエ)、河野泰幸(クラリネット)、淡島宏枝(ファゴット)、中村一男(ホルン)の五名で結成されたアンサンブル・ユニット。

世に「木管五重奏曲」は幾つかあるのだけれど、"木管"といいながらホルンが入っていたり、形態も発音方法も異なる五本の管楽器のアンサンブルに、以前から若干の違和感を感じていたワタシ。そのへんのナゾが解明されるかしらン?!

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コンサートは14:30開場、15:00開演。いつものようにバルコニー席のセンターから見下ろすステージは、同館自慢のBösendorfer1920は片付けられて、5脚の椅子が並べられて、ベルが鳴るのを待っている。
予定時刻となって、壇上に登場した五名のメンバー。MC担当はオーボエの松本さんらしく、まずはメンバー紹介から。
本日の演目は、前後半の2部に別れて、前半は管弦楽を木管五重奏
トランスクリプションした楽曲たち、後半には木管五重奏曲が用意されている。時代も場所も離れた、バラエティーに富んだ構成となる6曲。
最初の曲は
ジュゼッペ・フォルトゥニーノ・フランチェスコ・ヴェルディ作曲歌劇「運命の力」より序曲。重厚な管弦楽が軽快で柔らかな木管五重奏となって、眠気を誘うような癒しを施すような優しいハーモニーと化している。

一曲目が終って、ワンコイン市民コンサートシリーズ実行委員会の荻原先生が登壇されて、質疑応答と解説の時間。
フルートは木管? ホルンは金属製ではないのか? なぜ五重奏なのか?
スライド投影と実奏を交えながら、五本の管楽器の音域の違いや発音方法の解説をされるのが、場所柄アカデミックなところ。
ワタシが抱いていた疑問の数々を代わって尋ねてくれるような・・・。
現場ではそれぞれが別々に答えられていたのだけれど、要約すると、それは音楽の歴史、楽器の歴史に関わって、所謂「木管五重奏」は19世紀頃に確立したそうで、それより旧い時代は今より楽器の種類も乏しく、現在のように洗練されたものではなかった。もっともプリミティヴでエモーショナルな楽器である管楽器は、石笛や角笛、木笛などから始まって、確かな音程を模索して木管楽器へと発展し、それがより大きな音、安定した音程、広い音域を求めて金属製へと推移した。金属加工技術が向上し、それらの要求が満たされ、管弦楽に彩りを添えるべく、巨大な金管楽器が発明されたのはうんとあとの時代。
管楽器は、一番旧くて、一番新しい楽器。
弦楽重奏は大きさこそ違え、同じヴァイオリン族とまれにコントラバスが加えられて構成される。こちらは時代を経ても、構成も形態もほとんど変わらない、最初からほぼ完成された音楽であった。対する木管重奏は当初、シンプルな構成の管楽重奏から始まり、管楽器のヴァリエーションが増えるに従って、木管楽器と金管楽器に別れる中で、最初に作られた管楽重奏曲に倣って、ホルンを残したままのアンサンブルとなってしまった。弦楽重奏や金管重奏との対比として「木管重奏」と呼ばれるようになった・・・ということ。
もっとかいつまんで言うと、W.A.モーツァルトらが活躍した古典派前期までは管楽器と呼ばれるものはほぼ木製で五種類程度しかなかった。管楽重奏は"木管(楽器を主体とした管楽)重奏"であった・・・っと。
音域だけが異なって、音色や奏法に大きな違いの無い、ハーモニーしやすい弦楽重奏と違って、形態も奏法も音色も音域も違う管楽器をあえてアンサンブルにしてしまう面白さが受けたのかもしれない。
調べてみると、金管楽器の一部、とくにトロンボーンは"神聖な楽器"とされ、当初、宗教音楽に使用され、世俗的な交響曲などでは使用を自重していたそうな。それを交響曲に使ったのは、かのL.V.ベートーヴェン、交響曲第5番の第4楽章が最初であったそうな。
楽器の歴史ということでいうと、我らがピアノも長い時間を掛けて改良された楽器で、当初チェンバロやハープシコード等、音域の狭い、小さな撥弦楽器があったものが、金属製のフレームを得て、広い音域と大きな音量を持つ打弦楽器となった。オーケストラ全部より広い音域、オーケストラと対峙出来るほどの音量を持つ楽器の王様に出世したのだな。
フルートは、木管楽器に属しているのに、いまや殆ど金属製。サクソフォンも、金属製なのに、分類上は木管楽器。
だから、厳密に言うと、旧い楽曲を演奏するのにモダンな楽器を用いるのはちょっと違う・・・はずなのだが・・・。

とまれ!! 難しいことはどーでもよろしい。今やオンガクは電子技術を得てIC(集積回路)の中で生まれる。PCやMac、なんならiPhoneやiPadだけでお手軽簡単にオンガク出来る時代。ヒトの息遣い、指使いで演奏される"生音"が聴くことが出来るのは、考えようによってはとても贅沢、アコースティックな音色に触れられるだけでも貴重、それがアンサンブルで聴けるのだから、ややこしいことは考えずに至福の時を楽しむべき!?

というわけで2曲目はジョルジュ・ビゼーカルメン幻想曲オペラ『カルメン』から美味しいとこどりファンタジア。
続いて、リチャード・ロジャースサウンド・オブ・ミュージック・メドレー。これも旨い盛り合わせ。
で、前半終了。
後半は木管五重奏のために作られた曲。
ダリウス・ミヨー組曲『ルネ王の暖炉』作品205。中世のプロバンスを背景にした、貴族の優雅なヴァカンスが眼に浮かぶような作品。
ポール・タファネル木管五重奏曲 ト短調。5つの音色が絡み合って、特徴的なハーモニーを見せる。
デネス・アゲイ/5つのやさしいダンス。踊り出しそうに軽快な舞踊組曲。

発音方法が異なる5つの楽器。演奏者は合わせるのが大変だろうと想像されるが、弦楽五重奏と違って、ひとつひとつの音色が異なるから、ハーモニーも表情豊かとなって、聴いていて面白い。飽きずに聴けて、なにより親しみやすいのは、ヒトの息遣いに一番近い楽器たちだからでしょうか。

楽しいコンサートでした。

そうそう、ナゾといえば、ユニット名。「5 Schall ~ 5つの"音"」とせずに、「5 Stimmen ~ 5つの"声"」としたのは、そうした息遣いを聴かせようとの思惑でしょうか。それとも、多義的な"Stimmen"の別の意味を含めてということでしょうか。

ワンコイン市民コンサート」、来月は『永ノ尾文江+鈴木華重子 ベートーベン・ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会・その1 "弾けるシャンパン"』。全10曲作られたVnソナタを、年代順ではなく、色合いに因って、三回に分けるチクルスの第1回目。
10月は『第1番 ニ長調 (作品12, No.1)』、『第4番 イ短調 (作品23)』、『第8番 ト長調 (作品30, No.3)』、『第7番 ハ短調 (作品30, No.2)』の4曲。
第二回「味わい深き赤ワイン」は2015年02月21日、 第三回「色鮮やかな白ワイン」は2015年05月23日の予定となっている。
これも、もちろん、楽しみです。さて、シャンパンの意味するものとは・・・??

 


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コメント 4

moto_tip_sp

クラシック週間のトリはワンコインコンサートですね。ワンコインで楽しめるのはいいですね。
私もこの日は、石橋から二駅行ったところの川西に墓参りに行ってました。石橋近辺より、川西の方が、食べるところも多いので是非BD-1でカフェなどどうですか。
by moto_tip_sp (2014-09-17 08:12) 

JUN1026

モトさん、コメントありがとうございます。
今月は、若干聴き疲れするくらい、クラシック音楽に浸っていました。受け止めたオンガクをアタマの中で咀嚼して、理解するのに時間が掛かってしまいます(笑)。
川西辺りは散策したことがありませんね。機会があれば訪ねてみたいと思います。
by JUN1026 (2014-09-17 11:55) 

yosshu0715

ワインコインコンサート、いつもテーマも含めて興味深く拝見してますが、今回の演目は今まででも一番ポップで楽しそうな内容ですね!!(笑)

しかし本当にクラシックにどっぷりハマった一週間でしたね!!(笑)
ブログにまとめるだけでも大変・・・!!(笑)
これだけの内容なのに、写真が2枚しかない・・・!!(笑)

写真の点数でごまかす僕のブログとは大違い!!(笑)
by yosshu0715 (2014-09-22 18:08) 

JUN1026

ヨッシュさん、コメントありがとうございます。
今回はあまり耳馴染みの無い「木管五重奏」。特に前半は美味しいとこ取りのメドレーで、楽しませて頂きました。
音楽にしろ、映画にしろ、グルメにしろ、その他物品にしろ、レポートするのはたしかに大変ですね。理解して、咀嚼して、言葉を選んで、文章にする。他人様に読んで頂けるものに仕上がっているかどうか、いつも不安です。
理研の誰かさんみたいに「よかった♡」でまとめたいくらいです(笑)。
by JUN1026 (2014-09-23 15:25) 

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