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箕面でワヤン [音楽のこと]

年の瀬、師走。
今月はお伺いしたい・・・訪ねる予定の音楽イベントが立て続けに4つもあって、まず本日はインドネシア・ジャワの伝統芸能(のスペシャル版?!)を拝見するため、箕面市立メイプルホールに向かいます。

先達て(11月03日)、大阪大学豊中キャンパスで催された大阪大学の秋季大学祭「まちかね祭」に研究室公開として演じられたジャワ・ガムラン・グループ「ダルマ・ブダヤ(Dharma Budaya)」の定期公演&ワークショップ。彼らが主催するガムランの体験教室「日曜ガムラン」の定連研究生(?)であるワタシも1曲だけ演奏に参加させて頂いたのですが、プログラムの最後に演じられたのがワヤン・クリ(影絵芝居)。

極彩色に彩られた牛革製の人形を使うワヤン・クリ(Wayang Kulit)。
ユネスコの「人類の口承及び無形遺産の傑作の宣言」を受けて無形文化遺産に登録されたインドネシアの伝統芸能。
元々は白いスクリーンを貼りその裏から光源を当てて影絵とするスタイルであったのが、最近ではリヴァース・ヴァージョン。光源側を客席に開示することで、艶やかで細密に細工された人形の動作を、それを操るダラン(人形遣い)のパフォーマンスとともに愉しんで貰おうという趣向に変わってきているのだとか。
人形の種類も豊富で、ヒトや神様、妖怪、森に暮らす動物まで象られ、その何れもが精緻で丹念な出来栄えで、動いていなくてもインスタ映え・・・するような・・・。栄え映えッ!!

先日の「まちかね祭」はお昼間の半分屋外で、スクリーンさえ取っ払ったスタイルで演じられ、そこで披露されたのが、豊穣神とも稲作の女神とも崇められるデウィ・スリ(Dewi Sri)のお話しで、時間の都合上15分ほどに纏められた荒事、戦闘シーンだけのダイジェスト。

ワヤン・クリは独りのダランが、多くの人形を操りながら、台詞やト書きに当たるナレーション、時に歌を添えたり、さらには足まで使って効果音などを演じるのですが、それを一層盛り上げるのが人形遣いの後ろに控えるガムラン・アンサンブルで、ファンタスティックな人形芝居をゴージャスに鼓吹する。
鼓吹・・・文字通り、太鼓や笛なのですが、ガムランで用いられるメインの楽器は、青銅で作られた鍵盤打楽器や銅鑼。中心でテンポ、リズムをコントロールするのは太鼓の役割り。それらが打ち出すヴァイブスに、装飾的に絃楽器や管楽器まで加わって、西洋音楽のオーケストラやバンドに引けはとらない劇伴効果を齎す。

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本日、箕面市立メイプルホールで披露されるのは「インドネシアの影絵芝居ワヤン公演『王女デウィ・スリの物語』」。
先日の「まちかね祭」での最終演目を予告編として、そのロング・ヴァージョン。
本来、ワヤンはインドネシアなどのお祭りに夜を徹して、日没から夜明けまで演じられるそうなのですが、さすがにそうもいかず、ロングといっても2時間程度。その分ギュギュッと濃縮版?

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開演は14h00となっているのですが、ワタシがメイプルホールに着いたのが10h00の数分前。
今日は、純粋にオーディエンスという訳ではなく、といってステージで演奏に加わるでもなくて、その中間(?)・・・でもないか。裏方的なお手伝い。
事前にチケットを入手していたのですが、人手が要り用とのことで、急遽臨時雇いのスタッフとして赴くことになった訳で。
お手伝いを買って出た時に、チカラ仕事、持ち重りする青銅製楽器の搬入やら設営、撤去や搬送まで想定していたのですが、搬入・設営は昨日行われたようで、ワタシがホールに入った時には、パフォーマーご一同は早々伝統的な衣装に着替え楽器が並ぶステージに勢揃い、影絵芝居に際して重要なライティング調整がなされていて、ゲネプロの直前。
ワタシの受け持ちは主にロビーやホール内での誘導やらホワイエでの受付業務になるとのこと。おっさんなのに受付ジョー?!
ともかく、他の臨時スタッフが揃うまでは、本番前の通し稽古、ゲネラールプローベを独占することに。

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今回の公演は、主催をマギカマメジカ、協力をダルマ・ブダヤとして、「まちかね祭」の時と同じ顔触れ。
プロタゴニスト、リード・キャラクターとして影絵芝居を演じるのがマギカマメジカ(アナント・ウィチャクソノ西田有里)のお二人で、彼らとガムランのアンサンブルを構成するのがダルマ・ブダヤの11人、明日香郁子板脇眞理子稲田直美川本明佳里近藤チャコ佐野香織棚橋慶恵林公子松田仁美松竹夏鈴山崎晃男(敬称略)。
ワタシがガムランにハマるキッカケを与えて下さった方々で、「日曜ガムラン」ではご指導頂いて、大学祭での定期演奏会に加えて頂き、かれこれ三年来のお付き合いとなって、今日は半ばご恩返しのご奉公?!
伝統のワヤン・クリ、演目も「デウィ・スリ」、歌唱こそジャワ語になるのですが、台詞やナレーションを完全日本語化し、劇伴の楽曲もダルマ・ブダヤ代表の山崎晃男さん作曲のオリジナルが使われて、他所では観られない、聴かれないスペシャル・ヴァージョン!!!!

プログラムとして、ワヤンのための前奏曲それとも序曲(?)、ガムラン演奏が2曲披露されて、それから影絵芝居があって、その後にアフターワヤンと題したトーク&レクチャーショーという構成。

伝統的なワヤンに向けた序開きは、ジャワ・トラディショナルな楽曲とダルマ・ブダヤのオリジナル曲。
Ladrang Bayemtur laras pelog patet lima(ラドラン バイエムトゥール ペロッ音階 リモ調)
Lenggang Kangkung(レンガン・カンクン)
無形文化遺産的影絵の世界に誘うガムラン・オーヴァーチュアは優しく柔らかく、時に激しく高まりつつ、キャパシティー300名のメイプルホールをディファレント・ワールドへと変容させる。

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ナナン
ことアナント・ウィチャクソノさんがダヤン(人形遣い)を務めるワヤン・クリ。ガムランに興味を持って、ワークショップに通い、そのうちオッカケ(?)になっちゃって、ワヤンの操演も何度拝見したことか。
(ハッキリ言って)日本語は確かに辿々々々しいのだけれど、キッチリ伝えよう、しっかり聴いて頂こうという思いがヒシヒシと感じられて、耳の悪いワタシでもストーリーは犇と理解出来る。面白さ、痛快さをガッツリ捕らえることが出来る。
リハーサルから本意気で、数十体の人形を操りながら、其々のキャラクターに合った声色での台詞やナレーション、唄まで入って、ナナンさんが全身を使ったパフォーマンスを演じれば、その一挙手一投足をトリガーとして後ろに控えるガムラン・アンサンブルがそのシーンに適した楽奏を為して一層にドラマティック。それが単にBGM(背景音楽)や劇伴、インシデンタル・ミュージック、付随音楽などといったレヴェルじゃないほど胸に響いてくる。
熱のこもったリハをかぶりつきで独り占めしちゃって、体感温度が5度ほど上がったような気がします。
今回は、全てがトラディショナルなジャワ・ガムランだけではなく、ダルマ・ブダヤのオリジナルも加えられた独自の演出。
日本語化されているとはいえ、王様や王女は格調高く、ヴィランに当たる鬼の風貌をした仇役は憎々しげに、道化に代わって登場する村人や家畜(ウシ、ヤギ)は滑稽に笑いを誘い、ツボにハマって、ダランの術中にはまって、ついつい時間やお役目を忘れちゃって・・・。

そうそう、今回はリヴァース・ヴァージョン。影絵芝居をスクリーンの裏側から公開する仕様となっているので、人形遣いも演奏者も全員が客席に背中を向けて、それもちょっと面白いところ。まァ、スポットライトが当たるお人形以外は闇に埋もれてはいるのですが・・・。

・・・と見入っていたらお手伝いであることを忘れてしまいそう。アカンがな!!

ゲネプロをほぼほぼまるっと見学しているうちに応援スタッフも集って、そこからが超慌ただしい時間帯。
来場されたお客様にお渡しするパンフレットの折り込み。受付用のテーブルや椅子のセッティング。中食のお弁当も10分ほどで平らげて、廊下でバティック・シャツに着替えるほどに短兵急。お茶したい、タバコが喫いたいなどと言ってる暇もないような気忙しいさ。
開場は13h30となっているのですが、お早い来場者方々が並ぶ前に準備を終えておかないといけない。
こんなことなら、ワタシ独りでも用意を進めておけばよかった・・・? と言っても、あとの祭り。
臨時のスタッフとはいえ6人もいて、その中には差配して下さる手慣れた方もいて、(多分)滞りなく用意も出来て、開場から開演まで混乱もなく、閉ざされた扉の向こうから上演前のMCも聴こえて来て、これでひと安心・・・という訳にもいかず・・・。

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ホワイエでの受付業務を解かれてホールに入り、客席のひとつを占めたのが開演から20分ほど過ぎて、前奏の2曲が終わり、丁度ワヤンが始まった頃合い。
影絵芝居を観るには客席のセンター付近がいいのですが、敢えて上手側の最前列。というのも、『王女デウィ・スリの物語』のあと、アフターワヤン・・・トーク&レクチャータイムが設けられていて、観客の方々もステージに上がって、スクリーンの向こう側、本来の影絵となる側を観て頂きながら解説を施すという段取りで、そこでのワタシの担当はステージに備えられた階段そばに控えての誘導係り。
2つある階段の、下手側を昇り、上手側を降りとした一方通行。ステージがそこそこ高くて、急な勾配の階段で、事故があってはいけないから、階段を降りられる小さなお子さんや年配の方には(場合によっては)お手をお貸ししようか、支えて差し上げようかと上手側にスタンバイ。ええ、フェミニストなオトコマエですから。若くて○○い女性に限りお姫様抱っこで・・・というのは、色々問題がありそうなので控えます。

ゲネプロでも殆ど観ちゃったのですが、改めて本番ヴァージョンの『王女デウィ・スリの物語』。そのストーリーは・・・、
プルウォチャリト国のスリ・モホ・プングン王は、美しく成長した王女デウィ・スリのために、結婚相手を探している。
しかし、デウィ・スリは数年前に姿を消した弟サドノを心配してそれどころではない。
そこへ突然やってきたのは禍々しい鬼の王プラスウォデウィ・スリを我が物にしようとするが拒絶され、怒りのあまり国ごと焼き滅ぼしてデウィ・スリを無理やり連れ去ろうとした。デウィ・スリは命からがら逃げ出し、とある村に身を隠すことになる。
不思議なことにデウィ・スリが逃げ込んだ村ではますます作物が豊かに実るのだった。
穏やかな村での生活がこのまま続くかと思われたが、やはり鬼から逃れることはできない。ついにデウィ・スリの隠れ家は鬼に見つかり豊かに実った作物もろとも破壊されてしまった。デウィ・スリの命運が尽きようとしたとき・・・。
不死の力を持つ鬼の王プラスウォが荒れ狂い、國ひとつを焼き尽くし、スリルとサスペンスに満ちた王女デウィ・スリの逃走劇は村人たちとの交流でひと時の安らぎを得て五穀を育むも、安堵のため息もつかぬ間に間近へと迫る鬼神の影。デウィ・スリの運命や如何に!?
神話中の登場人物たちは何れも神性を帯びて、不思議なチカラを持っている。プラスウォは炎を操り、僧形に変身し、デウィ・スリは豊穣を齎す。自然災害の脅威と豊かな実りへの希望を体現しているのでしょうか。それとも、フォースのダークサイドとライトサイド? May The Force Be With You!!
最後は神龍、ドラゴンまで登場して、殃いを退けてしまう。

本来は夜を徹して催されるワヤン。観客もずゥ~っとつきっきりで観ているわけにはいかないでしょうし、一本調子では演じる方も疲れたり飽きちゃったり(?)、随所にアドリブ的なシーンが加えられたりもするようなのですが、「ゴロゴロ」と呼ばれるちょっと息抜き、幕間劇的な時間帯が用意されていて、そこでの主役は道化の一族。中世ヨーロッパに居た宮廷道化師やサーカスに登場するピエロなどのクラウンみたいでもあって、客席に向かって話しかけたり問い掛けたり、巫山戯ているかと思うと教訓めいな言葉を投げかけたり、狂言回しみたいでもあり、伝統の影絵芝居にあってフリー・インプロヴィゼーション、即興的なカデンツァといったところでしょうか。

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アフターワヤンで紹介されるのは、アクロバティックな戦闘シーンでの迫真の演技と、その「ゴロゴロ」。
人形たちが縦横無尽、自在に回転してみせたり、光源側に近づいたりスクリーンに寄ることで影が小さくなったり大きくなったり、二次元的な作りのお人形が二次元的なスクリーンの中で三次元的に躍動するのが主に闘いの場。攻撃側あるいは優勢である方の影が肥大化するのでしょうか。影絵なのですが奥行きまで感じるような。
光源側で観ていても迫力十分なのですが、影絵になるとそれはファンタジックで、想像力を掻き立てる分最新のVFX映像より刺激的・・・かも?!


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これは以前、中津のライヴハウスで撮影したお人形


ワヤンに登場する道化師たちは黒い身体に白い貌、シニヨンに纏めた髪型(?)で、その中でも次男坊のペトルは細長いボディにより細長い手脚、ひとつ結びにしたヘアスタイルで・・・、彼がワタシに似ているって?? ワタシが彼に類似するって?! まァ、確かにだいたいいつも黒尽くめで長めの髪を束ねてはいるけれど・・・。

ステージに上がって影絵を拝見したいところですが、御役目大事。時折りチラチラと舞台上の演技を盗み見しながら、お客様の安全第一、階段に並ぶマダムたちに手を添えて。

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アフター・ワヤンでお開き。
お客様が退出された後は大急ぎで撤収作業。ホール内やホワイエ周辺のお片付けから持ち重りする青銅製の楽器をトラックに積み込んで、それに便乗したら大阪大学豊中キャンパスへ。楽器類を倉庫に収めたところでお役御免。
長いようで、終わってしまえばあっという間。ちっちゃなアクシデントも2〜3あったのですが、それはそれ、オーディエンスでなくパフォーマーでもない蝙蝠男の印象的な1日もこれにて幕引き。なかなかにエキサイティングな時間ではありました。

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