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Curiosa ~ Les belles infidèles?! [散歩・散走]

本日のシネマは、R18+指定のフランス映画『Curiosa (不実な女と官能詩人)』。
R18+で大人向き・・・というか良い子は観ちゃダメな映画で、「不実」と「官能」という邦題に惹かれて、朝っぱらからエロ目線のエロ目的で鑑賞した・・・訳ではなく・・・??

登場人物が(ほぼ)全員、19世紀末から20世紀にかけて活躍した実在の、フランス近代文学関係者。
フランス近代芸術に関わるとなったら、面白く無い訳無くて、(虚実に関わらず)観ないわけにはいかないでしょ?

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このシネマに登場する「不実な女」ことマリーは、ジェラール・ドーヴィル(Gérard d'Houville)のペンネームで知られるマリー・デ・エレディア(Marie de Heredia 1875年12月20日 - 1963年02月06日)。フルネームがマリー・ルイーズ・アントワネット・デ・エレディア(Marie Louise Antoinette de Heredia)、革命時に断頭台の露と消えたオーストリア生まれのやんごとなきあのお方と、その女官長によく似た名前とはまた酔狂な。結婚後はマリー・ド・レニエ(Marie de Régnier)。父ホセ・マリアや夫アンリ、愛人ピエールの影響もあって、男名前でデヴュウすることになる小説家で「詩人」。
シネマの中では主にフォトグラファーとして振る舞う「官能詩人」ことピエールは、元はシャンパーニュ地方のブルジョア出身ながら疎開先のベルギー・ヘントで生まれ、母の死後フランスに還り、アンドレ・ジッドとはアルザス学院での同級生、パリ大学時代にポール・ヴァレリーと出逢い、のちにオスカー・ワイルドやクロード・ドビュッシーらとも親交を重ねることになる、象徴派詩人ピエール・ルイス(Pierre Louÿs 1870年12月10日-1925年06月04日)。
マリーの配偶者となるアンリは、ノルマンディーの高貴なお家柄出身の「(象徴派)詩人」で作家、アンリ・ド・レニエ(Henri de Régnier 1864年12月28日 - 1936年05月23日)。ステファヌ・マラルメ主催の「火曜会(mardis)」にも足繁く通い、そこでピエールと出逢い友情を育むことになり、マリーの父ホセ・マリアからも多大な影響を受けた人。
シネマの中ではかなり困窮し、持参金も持たせられずに、美貌の三人娘を半ば人身売買的に嫁がせてしまうマリーのパパン、ホセ・マリア・デ・エレディア(José-Maria de Heredia 1842年11月22日 - 1905年10月03日)はキューバ出身のスペイン人。若くしてフランスに学び、のちにフランス国籍を取得したパルナシオンの「詩人」で図書館司書監督。ムシュー・レニエの口添えがあって図書館司書の職を得られた・・・らしい。

原題の『Curiosa』は、映画の中では「煽情的」とルビが振られていたが、今風にいうと「エロい」といったニュアンス?! 上手くフィットする日本語が見つからないのだけれど、『不実な女と官能詩人』という邦題だと、マリーちゃんだけが”ゲス不倫(古い?)”な人かと思えて、ピエールがほぼ写真家として立ち回るから「官能詩人」が誰を指すのかちょっと曖昧。アンリでもなし、ましてやパパンではない。
ピエールに勧められるままに、内に秘めるべき想いを放埓な彼宛の手紙として綴り、それがのちのジェラール・ドーヴィル誕生に繋がる・・・とするなら、いっそ『不実な(女は)官能詩人』とした方が相応しい・・・ようなストーリーで・・・。

なまじ史実のジェラール・ドーヴィルことマリー・ド・レニエピエール・ルイスの名前だけを知っていると、この映画を観て衝撃を受けることになってしまうが、それぞれが浮名を流し、マリーが産んだ「不注意の果実」、ピエール(映画の中ではややこしいのでプティ・ピエールと呼ばれた)は夫アンリではなく愛人ピエールとの子供だと噂されているし、そのピエールピエールで2,500人もの女性を関係を持ったとか(羨ましいを通り越している?!)・・・。事実は小説より奇なりとはいうけれど、風聞とシネマのどっちが『Curiosa』・・・といった感想。

数多の女性と関係を持ったと言われるプレイボーイ(古い?)なピエールだから、映画の中でもエロいことばっかしているのだけれど、のちに義父となるホセ・マリア・デ・エレディア主催の詩会・・・こちらは「土曜会(Samedis)」に友人でもあるアンリとともに訪れたことから、このドロドロとしたメロドラマが始まっちゃう。
ピエール・ルイスといえば、クロード・ドビュッシーが楽曲に翻案した『ビリティスの歌(Les Chansons de Bilitis)』で知られるように古代ギリシアの奔放な性愛を歌った詩人。映画の惹句では「エロスの祭司」と呼ばれているが、本来はギリシア神話に登場するエロース(Ἔρως,Erōs)に準えてアダ名されたはずなのだけど、このシネマではもろにエロティック。もろエロ!! 只者では無いとは思っていたけれど、ケタ違いでしたな。
この数年後に、2,500人斬りの"猛者"はフランス文学に貢献したとして、レジオンドヌール勲章のシュバリエ(騎士)からオフィシエ(将校)に任じられるのだから、フランスは懐が深い・・・よねェ。

・・・はともかく、ピエールエレディア邸を訪ねた途端に、両手に華とばかりに、美人姉妹二人の腰に手を回しちゃうし、台所でマリーちゃんと二人きりになるや否や唇を奪おうと壁ドン態勢。でも、誘ったのはマリーの方?
アフリカ大陸(やギリシア、英国)など各地を遍歴するたびに多くの女性と関係を持ち、どうやらお尻フェチらしく、ア○ル・セ○クスに及び、それを写真に収めるだけでなく、セッ○ス日記なるものを綴って、アンリに見せつけたり、マリーが見つけるように仕向けたり。僕のお尻にも入れて欲しい・・・と、オスカー・ワイルドとの”親交”を匂わせたり・・・。
ベッドでマリーと抱き合いながら、もう一人女の子を呼んで三人で楽しもうと言ってみたり。
マリーとの情交がアンリにバレちゃってからは、恋敵を隣りの部屋へと招き入れて、あの時の声音を壁越しに聞かせちゃう。

アンリアンリで、なかなかの変態ぶり。
苗字に”(de)”が入る貴族のご出身で、多分かなりのお金持ち。
エレディア邸でピエール共々マリーちゃんを見染めて、抜け駆けしないと紳士協定を結びながらも我慢出来ずに金にものを言わせてマリーを買い取っちゃうし。
自分に懐かずピエールに靡く妻を押し倒して衣服を剥ぎ取ろうとしてみたり。
“妻を寝取られた詩人”というテーマに嵌っちゃって、ピエールに誘われるまま、壁越しに情交の音声に聞き耳を立ててみたり。
本当にマリーを愛していたのか、貴族としての体面なのか、詩作への想いなのか、友人の裏切りと妻の不貞を咎められない悲しさ。まァ、紳士協定を破って、それもお金の力でマリーを我が物にした、裏切ったのは自分の方という負い目もあるのでしょうか。
生まれてきた子供をピエールと名付けちゃうし、一番倒錯している人かもしれない。家柄が邪魔をして奔放に成り切れない人だったのかも。
ピエールは、シャンパーニュ地方のブルジョワ家庭とはいえ疎開先のベルギーで生まれ、パリに学んだのちは世界を渡り歩く。
マリーは、キューバ出身のスペイン人の娘。
二人がエトランジェであるのに対して、アンリはノルマンディーのボンボン育ち。お育ちの違いなんでしょうかね。

そうそう、マリーピエールだか、マリーアンリだかの間に生まれたのがピエール・ド・レニエ(Pierre de Régnier 1898年09月08日 - 1943年10月29日)。彼もまた「詩人」に成長するが、映画の中では産まれたばかりの赤ちゃんで、「プティ・ピエール(petit Pierre・小ちゃなピエール)または「ティグレ(tigre・虎ちゃん)」と呼ばれたのだけれど、「ぴえーる」と渾名されたワタシの息子も「とらちゃん」と呼ばれる・・・って、関係ないか?

不実な女マリーは、哀しい運命に弄ばれて、ある種自暴自棄・・・なのでしょう。
キューバからの移民である父の借金苦から、半ば強制的に玉の輿に載せられて、好きでもない男と連れ添いながらも、ピエールが放浪の旅から戻ったと知るやその部屋まで奔り自ら服を脱ごうとしちゃう、近代的で活動的で発展的な女性。
映画の中では、もう一人女の子を呼んで楽しもうというピエールの案を拒み、二人だけの逢瀬に喜びを見出す、アンリから見れば「不実」でもピエールから見れば「誠実」なオンナ。
ピエールを自宅に招いては、アンリの前で何食わぬ顔で平気で話せちゃうし、なかなかの面の皮。
そのくせ、ピエールがもう一人の女、ナイジェリア人のゾラ(Zohra Ben Brahim)を追ってアフリカへ行っちゃったら夫へは還らず、作家ジャン・ド・ティナン(Jean de Tinan 1874年01月19日 - 1898年11月18日)と関係を持ち、ピエールが帰ってきたら一度きりの過ちだからとジャンを突っぱねて彼を死に至らしめてしまう。
あッ、史実のジャンが若死にしたのは恋煩いからではなく、悪い酒のせい?! まさか、マリーに振られて自棄酒を煽った?
リアルなマリーがそうであったように、多くの男性と婀娜事を重ねるとともに女性とも交接し、ゾラともあんなことやこんな事をしてしまうし、娘夫婦の間に割り込む間男をよく思わない両親がならばと末娘ルイーズ(Louise)をピエールに持参金なしで嫁がせるとあろうことか姉妹二人とピエールでスリーサム、3Pですがな。姉と妹であんなことやこんなことを・・・。
逆毛を立てて髪を盛り上げ結い上げしている時は貞淑な貴婦人で、ピエール宅のベッドで髪を解いた時には魔性を秘めたファムファタール。げに恐ろしきはオンナの多面性。でも、よく考えてみたら、彼女はまだ二十歳そこそこなのよ。怖い、コワイ!!

メロドラマ的に、マリーアンリピエールの三角関係かと思うと、もう少し複雑。
次女マリーピエールに熱をあげる一方で長女エレーヌ(Hélène)は貴族のアンリに憧れる。ところが、次女目当ての結納金に両親の目が眩んだことからマリーアンリの元に嫁がされて長女は泣きの涙。アンリピエールの友情にもヒビが入り、望まぬ結婚を強いられたマリーは一年後に旅から戻ったピエールのところへと奔走し、そこにはゾラがいて・・・。マリーゾラ、女同士の愛憎があって、ジャンが割り込んでくるかと思うと、結局ルイーズまで参加。
ゾラゾラで、(ヌードモデルだから)惜しげも無く裸体を晒すかと思うと、巫山戯て写真を撮り合ううちに裸になったピエールのナニをナニしてしまうし、私の方が男の愛し方を知っているとマリーを挑発しながら、女同士での性戯をマリーに教示しちゃうし。
ルイーズは年齢的にも初々しげに見えるのだけど、お姉ちゃんに導かれながら、倒錯的な性愛にハマっていくことになる。
そうなると、影の薄いもう一人の姉妹、マリーから「咲かない薔薇」呼ばわりされる、長女エレーヌはどこでどういう結婚生活を送っているのかと心配になるのはワタシだけ? どこ行ったん? ・・・と思ってググってみたら、モーリス・マインドロン(Maurice Maindron)という小説家で考古学者、昆虫学者に嫁いだのち、文芸評論家ルネ・ドゥミッチ(René Doumic)と再婚。ずっと文学者の妻だったのね。
因みに、マリーは数々の浮名を流しつつも戸籍上はアンリと添い遂げて、ルイーズピエールと離婚し、オーギュスト・ギルバート・ド・ヴォワザン(Auguste Gilbert de Voisins)と再婚。今度は伯爵様なのだけど、やっぱり作家でエッセイスト、翻訳者。

観ようによっては・・・、
ピエールから見れば、紳士協定を破ってマリーをお金で買っちゃったアンリへの腹癒せ。愛しながらも、お金で買われたマリーをあたかも娼婦のように扱ってしまう。
アンリにとって、協定を反故にして手に入れたマリーは、友情の証しとしてピエールとの共有物、信奉するデ・エレディアと繋がるための縁の糸。
マリーは、両親や夫に「不実」はしても、自由でありたいと願いながら、困窮するデ・エレディア家のためにアンリと別れることは出来なくて・・・。
様々な思いが錯綜、多重的で多面的。


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マジックミラー越しの三姉妹は、左からマリー、ルイーズ、エレーヌ。この位置関係とそれぞれの貌つきが絶妙。


史実のジェラール・ドーヴィルことマリーピエール・ルイスを知らないと、マジックミラー越しの三姉妹のしどけない姿態から始まる、女性向けっぽい、ややソフトなアダルト・ヴィデオかと思っちゃう・・・かも知れないけれど、史実のマリーピエールはもっと破天荒で奔放だったのでしょう。
時代のせいもあって、男名前の仮名を名乗ったこともあって、フランス近代の女流芸術家はちょっと認知度が低い・・・ような気がするが、同じ時代に活躍したコレットことシドニー=ガブリエル・コレットも異性・同性の別なく華麗な恋愛遍歴を重ねているし、サラ・ベルナールやマリー・ローランサン、ココ・シャネルだって・・・。アンナ・ド・ノアイユことアンナ=エリザベート・ビベスコ・ド・ブランコヴァンことアンナ=エリザベート・ド・ノアイユ伯爵夫人も美しき女流詩人。みんな等しく、近代の象徴的女性たち。
高踏主義(Parnassianisme)」、「ロマン主義(Romantisme)」、「象徴主義(Symbolisme)」、さらには「印象主義(Impressionisme)」、et cetera、エトセトラ。様々なイズムが地層のように重なり合って、犇めきあって、隆起しては芸術の頂きとなる。その地層の中で生成・産出される美しい宝石が彼女たち。で、キラキラ輝くよう、多面的なカッティングが相応しいのでしょう。
高踏派(Parnasse)」の語源となったのは、ギリシア神話ではムーサたちが住むというパルナッソス山(Παρνασσός, mont Parnasse)。
そのモン・パルナスに暮らすムーサ(Μοῦσα, Musa)は、文芸(μουσικη; ムーシケー、ムシケ)の女神にして、英語、フランス語での呼称はミューズ(Muse)。美しき女神たちは3柱とも9姉妹とも数えられるが、その総称ミューズは音楽(仏語:Musique、英語:Music、獨語:Musik、伊語:Musica、羅語:Musica)や美術館、博物館(仏語:Musée、英語:Museum、獨語:Museum、伊語:Museo、羅語:Museum)の語源とも成り、マリーのように文化・芸術の中心にいて多くのアーティストに影響を与えた女性はそれに例えられる。


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レニエ邸での、アンリとマリーとピエール。マリーの左手にピエールの左手が重なって指輪を隠して・・・。


エロいアダルト向けシネマと思うと少々物足りなくもあるのだけれど、史実と照らし合わせながら、フランスらしいニュアンスまで読み解くとそれなりに楽しめちゃう映画。

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女性向けっぽいなァと思ったら、監督・脚本がルー・ジュネ(Lou Jeunet)。これが最初の劇場向け長編映画でしょうか。
共同脚本も女性のラファエル・ヴァルブルン=デプレチン(Raphaëlle Valbrune Desplechin)。
主演のマリー(Marie de Heredia)にはノエミ・メルラン(Noémie Merlant)、ピエール(Pierre Louÿs)にニールス・シュネデール(Niels Schneider)、アンリ(Henri de Régnier)がベンジャミン・ラバーン(Benjamin Lavernhe)。
その他に、ゾラ(Zohra Ben Brahim)がカメリア・ヨルダン(Camélia Jordana)、パパンとママン、デ・エレディア夫妻にスカリ・デルペイラット(Scali Delpeyrat)とアミラ・カザール(Amira Casar)、美しい三姉妹の長女エレーヌ(Hélène)がメロディー・リチャード(Mélodie Richard)、三女ルイーズ(Louise)がマチルド・ワーニエ(Mathilde Warnier)。

しかし、まァ、当分ドビュッシーの『ビリティス』を聴くたびに、マリー(ノエミ・メルラン)の白いお尻が脳裏をよぎっちゃう・・・ような。
そうそう、白いお尻と言えば、白い肌をした貴族の麗婦人に忖度して、暗い肌とチリチリの髪の毛をしたヌード・モデルをお国に追い返しちゃうって、ちょっと差別的にも思えるような・・・。
肌を晒す若い三姉妹やゾラより、お脱ぎにならない唯一の熟女、マダム・デ・エレディアが一番エロっぽく見えたのはワタシだけ? いやはや。

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