SSブログ

音楽は国境を越えて [音楽のこと]

8年目を迎えた「OCCA ワンコイン市民コンサート」。本日のプログラムは『デュオ・ヴェンタパーネ 音楽は国境を越えて 〈チェコと日本〉』。
日本でお生まれになった白石茉奈さんとチェコのご出身はマルティン・カルリーチェクさん。ヴァイオリンとピアノが繋ぐ、二つの国の不思議な関係。
さて、それは・・・。


2017年08月20日開催の「シリーズ第68回不思議の国のカロル・シマノフスキ』」以来、二度目のご出演となるDuo Ventapane(デュオ・ヴェンタパーネ)こと白石茉奈(Mana Shiraishi)さんとマルティン・カルリーチェク(Martin Karlíček)さん。
二度目なのですが、実は三度目のオンステージ。
というのも、カルリーチェクさんがソロ・ピアノをご披露された「シリーズ第56回祈り 超絶技巧を超えて リスト作曲「詩的で宗教的な調べ」全曲演奏会』」(2016年08月07日開催)に茉奈さんも通訳(?)としてご同伴されておられて、お二方とも大阪大学会館のステージは三度目(「マスタークラス」を含めると四度目?)。

チェコ、プラハ音楽アカデミーにて修士課程修了。その後オランダ、ユトレヒト音楽院を経て、カナダ、マギル大学にて修士課程、博士課程を修め、現在は演奏活動の傍ら同大学にてピアノ講師として後進の指導にあたっておられ、チェコの音楽の促進に力を入れているほか、定番の曲から現代曲までピアノ・ソロ、 室内楽ともに幅広いレパートリーを持つピアニスト・・・でもあるカルリーチェク博士は、「OCCA ワンコイン市民コンサート」でも通常公演以外に、二度に渡って「マスター・クラス」までご担当されておられます。

過去2回は・・・、
第56回」ではソロ・ピアノ、フランツ・リスト作曲の「詩的で宗教的な調べ(Harmonies poétiques et religieuses)S.173」を全曲通し、80分間ノー・インターヴァルの荒業?
第68回」は、ポーランドの作曲家の没後80年を記念した、オール・シマノフスキ・プログラム

そして、シマノフスキ・マニアック(?!)でヴァイオリン演奏をご披露くださったのは、白石茉奈さん。
彼女は、
桐朋女子高等学校音楽科、桐朋学園大学音楽学部、研究科在学中は江藤俊哉、徳永二男の各氏に師事。その後、マギル大学にてジョナサン・クロウ、マーク・フューアーの下、修士課程を修了。モントリオール大学にてローレンス・カヤレイの下、D.E.P.A.(Diplôme d'études professionnelles approfondies)を取得し、アパショナータ室内楽管弦楽団、マギル室内楽管弦楽団、アウリオルス四重奏団、クレオ・トリオ、デュオ・ヴェンタパーネのメンバー。ヨーロッパ、アジア、北アメリカ各地でソリスト、室内楽奏者として演奏活動をする傍ら、後進の指導にもあたっておられる。
デュオ・ヴェンタパーネは、2011年に行われたIBLA Grand Prizeにおいてスメタナ賞及びバルトーク賞を与えられ、2012年春、カーネギーホールなどアメリカ各地にて行われたツアーに出演した。近年の活動では、ポーランドの作曲家、K.シマノフスキのヴァイオリンとピアノのための全作品、「クライスラーの3つの顔」と題してF.クライスラーの多様な作品に焦点を当てた演奏会などを行っている。また、F.リストのヴァイオリンとピアノのための作品もレコーディングしている・・・ヴァイオリニスト。

どちらの公演もちょっと(かなり?)マニアックでしたが、今回はお二人の故郷からそれぞれ2曲ずつ持ち寄って、


伊福部昭(1914-2006):ヴァイオリンとピアノのためのソナタ
レオシュ・ヤナーチェク(1854-1928):ヴァイオリンとピアノのためのソナタ
----------- 休憩 / Intermission ----------
三善晃(1933-2013):ヴァイオリンとピアノのためのソナタ
ボフスラフ・マルティヌー(1890-1959):ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第1番


と、4曲全てがヴァイオリンとピアノのためのソナタ。
と、演奏される機会の少ない楽曲で、今回も少しマニアック?
で、今回は”「音楽は国境を越えて:チェコと日本」。これはどういうことを意味するのでしょうか?”と謎掛け付き。 単に、お二人のご関係をいうのでしょうか? それとも・・・。

IMG_2219.jpg

今朝早くに近隣で物騒な事件があって、まさか中止にならないでしょうねと危ぶまれたのですが、無事に開催。いつも通りに、14h30開場の15h00開演。

前半は伊福部昭(いふくべ あきら 1914年05月31日 - 2006年02月08日)とレオシュ・ヤナーチェク(Leoš Janáček 1854年07月03日 - 1928年08月12日)。
伊福部というと、今ちょうどハリウッド版の『ゴジラ』・・・、アッ、『Godzilla(ゴッズィーラ)』ですか・・・、が公開されていて、そこでも引用される「ゴジラのテーマ」など映画音楽の作曲家としても広く知られていますが、多彩な様式の音楽、それも相当数の楽曲を手掛けておられて、それらはかなりエスニックな、少々癖のある、個性的な作品揃い。
お生まれが北海道とあって、少年期に交流したアイヌの人々への共感、アイヌの言葉で語られるよもやま話を聞いて育ち、それが音楽の素地となっているのでしょう。
ヤナーチェクは、現在のチェコ東部、モラヴィア地方の出身。ロシアまで含めると、ヨーロッパの中央のさらにど真ん中、東西交易や文化の交差点のような位置にあって、かつての小さな王国はボヘミア王国に編入されたり、それとともに神聖ローマ帝国の支配を受けたり、ハプスブルク家に奪われてオーストリア公国に組み込まれたり、ロシアが侵攻してきたかと思うとドイツが攻め込んできたり、ナポレオン率いるフランス軍とも戦って、チェコスロバキアになったり、また分裂してみたり・・・。ヤナーチェクが生まれ育った頃はオーストリア帝国の支配下、そこから独立を果たしたチェコスロバキア共和国の一地方。
どちらも音楽的ルーツは複雑。

IMG_3559.jpg

楽曲解説は後半冒頭に譲るとのことで、前半は演奏に集中。
大阪大学会館常設の1920年製Bösendorfer Model250 Liszt Flügel(フランツ・リストの名を戴く、それが正式名称だそうです)には毎回驚かされるのですが、その柔らかで繊細な音色は演奏家と対話することで表情を変えて、時に輝かしく、時に華々しく、或いはしっとりとしめやかにも響いて、弾き手の心柄を映したテクスチュアをその都度纏うかのように感じられます。
カルリーチェクさんと対峙した時のそれは、明快でクリア。雑味が無いというのでしょうか。
迷いも躊躇いも無く、キッパリと、快刀乱麻を断つように、複雑な旋律も淀みなく流れながら音のひと粒ずつも崩れることなく聴き取れるようで、少々癖の強い伊福部ヤナーチェクさえ端正に響くような。
それに寄り添う茉奈さんのヴァイオリンも負けず劣らず明瞭で、大きなピアノに引けを取らずに豊かに響く。
お二方は、時折り眼と眼で語り合いながら、絶妙のコンビネーション。バランスがとてもいい感じ。

IMG_3560.jpg
IMG_3561.jpg
IMG_3562.jpg

15分のインターミッションを挟んで、後半はインタヴュウと楽曲解説から。
チェコと日本の音楽について。日本の作曲家のどこに魅力を感じるか。そして、相通じるノスタルジーとは?
伊福部昭に触れながら、さすがに「ゴジラ」は出てきませんね。いいんですけど。
チェコ代表として名前が挙げられるのは、アントニーン・レオポルト・ドヴォルザーク(Antonín Leopold Dvořák 1841年09月08日 - 1904年05月01日)、ベドルジハ・スメタナ(Bedřich Smetana 1824年03月02日 - 1884年05月12日)、そして、レオシュ・ヤナーチェク
新しい世界(くに)やワーグナーに憧れつつも、スメタナブラームスに師事し、自らの民族性を現した『スラヴ舞曲集(Slovanské tance)』をもって国民楽派の一派、ボヘミア学派に連なることになるのは、北ボヘミア出身のドヴォルザーク
オーストリア=ハンガリー帝国の支配下にある時代にチェコの独立を願い、民族主義思想を音楽で表現したのがスメタナわが祖国(Má Vlast)』。
元々多民族、多言語だった小さな国々は大国に飲み込まれるたびに公用語が変わり、その民族性さえ封じられたヤナーチェク
日本にしても、幕藩制でそれぞれに地方色が色濃くあったものが維新の名の下に統一、方言から「標準語」化、さらに敗戦後に公用語が英語に変わることは無かったが、戦後教育の中で「標準語」は「共通語」に変化。伊福部が親しんだアイヌの言葉は徐々に廃れていくことになる。
禁じられた郷愁(ノスタルジア)。言語や独自文化、伝統的な芸能や風習が規制されたから余計にコンベンショナルな西洋音楽の体裁を借りてノスタルジックを表現しようとしたのでしょうか。
ヤナーチェクは特に、発話旋律または旋律曲線と呼ばれるメロディをもとに、オペラや合唱曲、それを器楽に置き換えた作品を残している。

お時間の関係から、ステージではそれほど踏み込んだお話しはされておられなかったのですが、その「母国語」が彼らの音楽の源泉。
母国・・・母なる国。
では、その母国語を何処でどのようにして覚えたか。そこに、チェコと日本、共通するものがあるのか。
国語は学校で習う・・・と思うのはワタシたち世代の感覚で、当時の学校教育はよく存じませんが、(教育的な)公用語はドイツ語なり、(日本の)共通語になっちゃったはずで、本来の母国語は文字通り母から伝えられたもの。
そういえば、チェコご出身のドヴォルザークの作品「ジプシー歌曲集(Zigeunermelodien) 作品55」の第4曲『我が母の教えたまいし歌(Kdyz mne stará matka)』が思い出されます。
日本語や英語では「母が」となっていますが、原語(チェコ語)やドイツ語では「老いた母が」となっていて、実のママンから教わったというより、公用語(ドイツ語)とは別にこっそり伝わった本来の「母(なる)国(の)語」という意味が込められているのではないかと想像しちゃいます。
同じ時代に、同じ境遇にあったヤナーチェクも同様の想いがあっての「発話旋律」ではないかと。封じたれた「母国語」に変わる音楽。
郷愁、ノスタルジアというと、ついつい風景、田舎めいた小川のせせらぎや向こうの山に沈む夕陽、森林の樹々の匂いを連想してしまいますが、母に抱かれて見た光景、母の背中で観た情景がその核心なのではないかしらン。郷愁とは母の面影、匂いと一体になって、母の言葉、母の感情が伝わったもの。
♪いい日 旅立ち ~ 母の背中で聞いた 歌を道連れに♪・・・的な?!
なんなら、胎児の頃に子宮に懐かれて聞いた母の言葉、母の鼓動、脈動が懐かしさの源泉・・・なのかも。
だから、チェコや日本の別なく、世界中の人々から共感を得て、広く親しまれているのではないかと思います。
母から伝わった言葉は、音楽に変わることで、国境や言語の壁を超えて、広く世界に拡まる・・・っと。

「老いた母」とはもしかして、プラハの礎となったチェコ(ボヘミア)の伝説的女王にして、スメタナがオペラにしちゃったリブシェ(Libuše)のことなのでしょうか・・・とカルリーチェク博士にお尋ねてしてみたかったかな。

IMG_3563.jpg
IMG_3564.jpg

後半の2曲は、ノスタルジックであるとともに、ある意味エキゾティック。
三善晃(みよし あきら 1933年01月10日 - 2013年10月04日)はそこはかとなく・・・どころか、かなり濃厚におフランスの香り。膨大な数になる作品の多くは合唱曲や歌曲ですが、管弦楽や室内楽、ピアノ独奏も相当量手掛け、今日演奏される「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ」は若い頃の作品。今回のテーマから少し外れるのかも知れませんが、東大仏文科からパリ国立高等音楽・舞踊学校に留学、おフランスから見たジャポンということなのでしょう。
躍動的で瑞々しくて、透明感があって、でもかなりフランス的。ワタシ好みではありますな。

多作ということでは負けていないのがボフスラフ・マルティヌー(Bohuslav Martinů 1890年12月08日 - 1959年08月28日)。このお方も一時期パリに学んで、その後ナチスから逃れるべく渡米。戦後は東西冷戦の影響下、遠く故郷を想いつつ、帰ることは敵わず、最期はスイス。
ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第1番」はパリに在った頃の作品でしょうか。三善作品と近しいようでいて、こちらはフランスから見たチェコ・・・というより、パリのエッセンスを少しまぶしたボヘミアン。「ボエミアン」とフランス語発音しちゃいましょうか。
エキゾティックなようでいて、ノスタルディック。ヴァイオリンが奔放に躍動するのだけれど、ボヘミア舞曲のリズムに絡むのは、より険しさが目立つ節回し。なんか、怒ってはります?

4曲のソナタに潜む「ノスタルジア」。
チェコやボヘミア、アイヌのことは(専ら不勉強なこともあって)よく存じ上げませんが、「郷愁」は言葉や風習に従うことのない、もっと個人的で私的な感情でありながらすごく普遍的でもあって共感を呼ぶのでしょう。
チェコやボヘミアをよく知らないことで、「ノスタルジック」とともに、異郷、異教を表す「エキゾティック」の意味まで(ちょっとだけ)理解し得たような気がします。

そして、それはアンコールで一層に深まって・・・。
ドヴォルザークの「交響曲 第9番新世界より』」の第2楽章から作られた歌曲「家路(Goin’ Home)」を、もちろんヴァイオリンとピアノのデュオで。
新世界アメリカから故郷ボヘミアへの呼びかけ。
歌曲として日本語詞をつけられた「家路」。余程に日本人作詞家の胸を打ったのか、多くの詞が寄せられて、一番知られるのは堀内敬三作「遠き山に日は落ちて」。教科書とかに載っていたのもこれでしたか。
多くの「家路」はゴーインホーム、自宅に帰ることになるのですが、野上彰版「家路」では”年を老いて 待ちわびる / 森の中の 母の家 / 母の家”と唄われて、他より実家感が高い。
それが思い出されて、こちらの演奏も、胸にじわァっと沁みてきましたね。
田舎に帰りたくなりました。ワタシの場合、クルマで30分の距離で、「郷愁」を誘うような風景はまるでなくて、森の中でもないのですが、「母の家」。郷愁は母の匂い。

さて、次回は・・・、
07月14日(日)、14時30開場、15時00開演で、『岩井美子ピアノリサイタル「闇をつつむ翳」』。
こちらも三度目のご出演となる岩井美子さんが、今までとは少し肌合いの異なる楽曲をご披露くださる演奏会。
演目は・・・。

モーツァルト 幻想曲ニ短調 KV397
シューマン 幻想曲ハ長調 作品17
ヤナーチェク 霧の中で
ドビュッシー 版画

が予定されています。
8月はB-tec Japan Osakaでの特別コンサートと大阪大学会館での通常公演が予定されています。詳細は、リニューアルされた「OCCA ワンコイン市民コンサート」のオフィシャル・サイトをご確認ください。

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント