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バッハとイザイ [音楽のこと]

今月は17日(日)に予定されていた「ワンコイン市民コンサート」。それが台風接近による荒天が予想されたことから中止となって、随分と寂しい思い。折しも一週間続いた音楽祭「大阪クラシック」も終えて、俄かに「音ロス」状態になっていたのですが・・・。

シリーズ 第69回」となる公演は、『柴田由貴 無伴奏ヴァイオリン・リサイタル 〈バッハとイザイ〉』が予定されていて、それが中止との報せを受けて、「秋風のヴィオロン」から九月はヴァイオリン月間と独り決めしていたワタシとしては、それこそ「節ながき啜り泣き」してしまいそうな心持ち。『無伴奏ヴァイオリン』でおひと方という心易さ・・・ということでもないのでしょうが、再開の運びとなって先ずは重畳、喜ばしい限りです。
気易さとはいえ、たった独りの出演者である柴田由貴さんのご都合と「ワンコイン市民コンサートシリーズ実行委員会」スタッフのご尽力の賜物。今日は、広報部長ではなく、ワンコイン市民コンサート・ファミリー・オーディエンス代表として(あまりに急だったので、ちょっと慌てましたが・・・)厚く御礼申し上げたい気分です。

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再開となった『柴田由貴 無伴奏ヴァイオリン・リサイタル 〈バッハとイザイ〉』は今日、09月30日(土)の開催。時間は変わらず、開場14:30、開演15:00。

本日、無伴奏ヴァイオリンをご披露くださる柴田由貴さんは、
1988年大阪生まれ。3歳よりヴァイオリンを始める。桐朋女子高校音楽科(共学)卒業後、渡仏。2009年パリ市国立音楽院にてディプロマ(ヴァイオリン、室内楽、和声学)取得。フランス国家演奏家資格取得。スコラ・カントルム音楽院ソリスト課程にてパトリス・フォンタナローザ氏に師事。2012年グラズノフ国際コンクール3位(リトアニア)、2013年レオポルド・べラン国際コンクール3位(仏)、2014年クレ・ドール国際コンクール(仏)審査員満場一致の1位、および審査員特別賞受賞。フランス、リトアニア、ベルギー、スイス、ブルガリアにてコンサートを行う。
これまでに、和波孝禧、山本裕樹、千々岩英一、ジャン=ピエール・ヴァレーズ、パトリス・フォンタナローザの各氏に師事。室内楽をブルーノ・パスキエ、フランソワーズ・ルヴェシャン、イザイ四重奏団の各氏に師事。
2015年、イザイ無伴奏ヴァイオリンソナタ全曲コンサート、2016年、バッハ無伴奏ヴァイオリンソナタとパルティ―タ全曲コンサートを大阪、東京、北海道にて開催。日本イザイ協会会員。
・・・というプロフィール。

そして、本日のプログラムは、
ヨハン・ゼバスティアン・バッハ
  無伴奏ヴァイオリンソナタ 第1番 ト短調 BWV1001 (1720年)
    第1楽章 アダージョ
    第2楽章 フーガ アレグロ
    第3楽章 シチリアーノ
    第4楽章 プレスト
  無伴奏ヴァイオリンパルティ―タ 第3番 ホ長調 BWV1006 (1720年)
    
第1楽章 プレリュード
    
第2楽章 ルール
    
第3楽章 ガボット
    
第4楽章 メヌエット Ⅰ・Ⅱ
    
第5楽章 ブーレ
    
第6楽章 ジーグ
ウジェーヌ=オーギュスト・イザイ
  
無伴奏ヴァイオリンソナタ 作品27 全曲 (1924年)
    
第1番 ト短調
      
第1楽章 グラーヴェ
      
第2楽章 フガート
      
第3楽章 アレグレット・ポコ・スケルツォ―ソ
      
第4楽章 フィナーレ・コン・ブリオ
    
第2番 イ短調
      
第1楽章 妄想
      
第2楽章 憂鬱
      
第3楽章 亡霊たちの踊り
      
第4楽章 復讐の女神たち
    
第3番 ニ短調 「バラード」
    
第4番 ホ短調
      
第1楽章 アルマンド
      
第2楽章 サラバンド
      
第3楽章 フィナーレ
    
第5番 ト長調
      
第1楽章 曙光
      
第2楽章 田舎の踊り
    
第6番 ホ長調

前半は言わずと知れた「音楽の父」、パパ・バッハが1720年に作曲した「無伴奏ヴァイオリンのための6曲の独奏曲、第1巻」からの抜粋。奇数番がソナタで、偶数番がパルティータ。因みに、「第2巻」はチェロの受け持ち、「無伴奏チェロ組曲」になる。
難曲というよりサディスティックな、旋律楽器であるヴァイオリン1挺で多声部で構成されるポリフォニー音楽を表現しなさいという鬼のような楽曲?!
のっけから四重音で始まって、例えば独りの歌い手さんにコーラス(合唱)付きで歌いなさい、それぞれのパートはメロディアスに・・・っていうような、ちょっと無理難題。数学的に、線型方程式というか、多元一次方程式とみるか。とにかく、算数レベルじゃない難しさ。しかも、ただ難しいばかりではなくて、優雅に美しく、如何にも超絶技巧でどや顔決める感じじゃなくて、クールにすかしている風情がかっこいいわけですな。

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カッコいいといえば、そのスコアだけ見て、これを適当なテンポで演奏すれば、ハードロックかヘビーメタル系ロックのギター(まァ、オルガンでもシンセサイザーでもいいのですが)・ソロ? ・・・とも思えるような・・・。時代を超えて、ジャンルを超えて浸透している・・・というか、往年のロック少年はちゃんと””の音楽を勉強して継承していたわけですな。

ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(Johann Sebastian Bach 1685年03月31日 - 1750年7月28日)というと、教会や宮廷でのオルガニスト、チェンバロ奏者、(ハンマー)クラヴィーアの演奏家、総じて鍵盤楽器のヒトというイメージですが、その父親はアイゼナハの町楽師として弦楽器を担当していたのだし、パパ自身も最初のキャリアはヴァイマール宮廷楽団のヴァイオリニスト。この楽曲もその頃から温めていたものかもしれず。
何れにせよ、300年を経た今でも、バイブル、聖典と崇められるような作品。

ひと頃は忘れ忘れられ(かけ)たJ.S.バッハ。それが現在まで大作曲家として崇め奉られているのは、その時々に彼をリスペクトし、彼をフォローする音楽家が現れたおかげ。パパ・バッハ自身10人もの子を生したビッグ・ダディなのだけど、彼を「音楽の父」と慕う音楽家は一体何人いると思っているの?
3,500,000,000・・・35億!! [コピーライト]ブルゾンちえみ(笑)
まァ、人数は兎も角・・・、クラシック界に止まらず、ワタシが”にーさん”と慕うジョン・ロードなどハード・ロックの分野にもインフルエンス、実際それに近い人数はいるかもしれず、後半に演奏される「無伴奏ヴァイオリンソナタ」の作曲者、ウジェーヌ=オーギュスト・イザイ(Eugene-Auguste Ysaye 1858年07月16日 - 1931年05月12日)もそのひとり。

イザイは作曲家でもあるが、ヴィルトゥオーソと称えられたヴァイオリニストでもあって、セザール・フランクカミーユ・サン=サーンスエルネスト・ショーソンなどから作品を献呈されて、イザイ弦楽四重奏団を設立後に、クロード・ドビュッシーの「弦楽四重奏曲 ト短調 作品10」を初演。指揮者としても才能を発揮し、ヨーロッパだけに止まらず、アメリカまでも活躍の場としました。
「狂乱の20年代」、 1924年ごろ、帰欧した彼が耳にしたのがヨーゼフ・シゲティが演奏するJ.S.バッハの「無伴奏ヴァイオリンソナタ」。それにインスパイアされたイザイはひと晩で全6曲の「無伴奏ヴァイオリンソナタ」、そのスケッチを書き上げてしまった・・・のだとか。
パパ・バッハの「ソナタ」に感銘を受け・・・はしたのだろうけれど、”シゲティが演奏するバッハ”がかなり刺激的だったんではないかなァ。”教典”としてのバッハの「ソナタとパルティータ」に倣ったのはほんの一部。まァ、”経典”・”聖典”を完コピしても”写経”にしか過ぎませんわな。
面白いのはその6曲がそれぞれ、当時活躍するヴァイオリニストたちに献呈されていること。6曲を6人のヴァイオリニストに捧げてはいるのだけれど、それぞれがそのヴァイオリニストのプロフィールを映しているということ。

第1番 ト短調』はハンガリー生まれのヨーゼフ・シゲティ(Joseph Szigeti 1892年09月05日 - 1973年02月19日)に・・・というより、イザイがインスパイアされた、シゲティが演奏するJ.S.バッハの「無伴奏ヴァイオリンソナタ」に。
第2番 イ短調』は、カザルス三重奏団としても知られる、フランス出身のジャック・ティボー(Jacques Thibaud 1880年09月27日- 1953年09月1日)に。
第3番 ニ短調 バラード』はルーマニアを代表する音楽家ジョルジェ・エネスク(George Enescu 1881年08月19日 - 1955年05月04日)に。
第4番 ホ短調』はオーストリア生まれでのちにアメリカ国籍を得たフリッツ・クライスラー(Fritz Kreisler 1875年02月02日 - 1962年01月29日)に。
第5番 ト長調』はイザイ弦楽四重奏団のセカンド・ヴァイオリンを担当した、ベルギー生まれでイザイのお弟子さんマチュー・クリックボーム(Mathieu Crickboom 1871年03月02日 - 1947年10月30日)に。
第6番 ホ長調』はスペイン人ヴァイオリニストのマヌエル・キロガ(Manuel Quiroga 1892年04月15日 - 1961年04月19日)に向けて。

端々まで計算され尽くして舞曲集的な体裁を持つバッハ版に較べると、即興的で断片的。表題が付与されているものもあれば、形式が指定されている楽章が含まれていたり、同じ作品番号を与えるには、ちょっと纏まりに欠けるような気もします。
当時名だたるヴァイオリニストをヴァイオリンの楽音で語ればどうなるだろう・・・というようなコンセプト・アルバムかトリビュート・アルバム的な作品・・・といったニュアンスに感じるのですが・・・。
クロード・ドビュッシーがその晩年、フレデリック・ショパンに倣って24曲の前奏曲をものしたように、イザイの場合も幼い頃から聴き親しんだ、弾き親しんだパパ・バッハへのある種挑戦だったのでしょうか。ドビュッシーの作品が絵画的あるいは詩的であるのに対して、象徴的、表象的ではあるのですが・・・。ピアニストが情景を描写すれば、ヴァイオリニストは人物を表現するといったところか。

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予備知識はこれくらいにして、秋風のヴィオロンに後押しされて待兼山を昇り、リアル・ヴァイオリンの楽音を求めて大阪大学会館
座りなれたいつものバルコニー席。観馴れたステージには観熟れたBosendorfer252の姿はなく、譜面台が置かれているだけ。
そこに現れるのは、フェミニンでラグジュアリーなベアショルダードレスを纏った由貴さん。

開場を待つ間に、他のお客様からどの席がよく聴こえるかと尋ねられて、さて、今日はヴァイオリン1挺きり、いつも通りのバルコニーがいいのか、1階前列の方が聴き取り易いのかと悩んでしまいましたが、彼女が奏でた「無伴奏ヴァイオリンソナタ 第1番 ト短調 BWV1001」、最初の四重音を聴いてバルコニー席まで十分響くことが確信されました。ビブラートや特殊奏法が作り出す微細な表現まで聴き洩らすまいと思えばごく近い席がいいのでしょうが、バルコニーでもその微小な表情さえ読み取れるほど、彼女のヴァイオリンはよく鳴っているように感じられました。
そのお若い状貌は緊張しているようにも見えるのだけど、演奏はそれに負けず力強くてダイナミック。半端なロッカーは蹴散らしてしまうほど、その容姿とのギャップが大きくてちょっと驚かされました。
その力量は「無伴奏ヴァイオリンパルティ―タ 第3番 ホ長調 BWV1006」でも遺憾なく発揮されたのですが・・・。

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開演前にディスプレイ表示された案内。第1部が1時間? はァッ???!
前半にバッハ、インターミッションを挟んで、後半にイザイをたっぷり・・・だと思っていたのですが、第1部にバッハ2題に加えて、イザイの『第1番』から『第3番』。
それは難曲どころか、バッハ以上に特殊奏法のオンパレードで、時にアクロバティック。身を委ねたくなるような癒しの音楽でもなく、聴く方もパワーを要するほどで、あまり全曲演奏されない理由はそこにあるのかしらン? 演奏する方はもっとしんどいんでしょうが・・・。それで、3曲で要休憩?!
第1番』と『第2番』はパパ・バッハの遠ォい親戚(?)程度にその風味を止めるが、テンポは大いに揺れて、強弱の振れ幅も大きくて、イザイの作風とシゲティティボーのエッセンス、由貴さんの解釈が加わって、””とは違う味覚を感じさせる。
第3番』はバッハのバの字(Bの字)もないけれど(ニ短調のホールトーン・スケールでB音も使われてない?!)、ワタシはこれが一番好みかなァ。休憩前のアンコールみたいですね。

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休憩を挟んで、後半。第2部が始まる前に、ステージ奥の大型スクリーンを使って、由貴さんが研鑽を重ねたパリの音楽学校事情や彼女が師事したパトリス・フォンタナローザ氏の事柄などなど。
そこから「フランコ=ベルギー派」についてお話しが発展したのですが、ヴァイオリンの奏法にも流儀、流派があって、弓の持ち方、運弓など技法も異なり、それから発せられる音が変わってくる云々。もう少し深く詳しく伺いたいところですが、なに、時間がない? ではまた、別の機会にでも・・・。

第2部はジェーヌ=オーギュスト・イザイ無伴奏ヴァイオリンソナタ 作品27」の『第4番』から『第6番』までを一気に。それぞれが献呈したヴァイオリニストに因んで、クライスラー流であったり、ベルギーやスペイン風であったり、そのニュアンスを丁寧に弾き分けて。その中には、息もつかせぬパッセージ、指がつりそうな技巧が盛り込まれ、挑戦的な『第1番』、『第2番』よりもドラマティックですかね。
この中では、ゆったりと情景的な『第5番』が一番好物に近しいかなァ。
ワタシの好みはともかく、貴重なものを聴かせて頂けたいい演奏会でした。お疲れ様でしたと声を掛けたくなるような、超難曲。何せ、献呈された6名のヴァイオリニストはおろか、作曲したイザイ自身も難し過ぎて人前では演奏出来ずにいた作品。
秋風のヴィオロン”というには、”女心と秋の空”、変化の度合いが大きくて、”節ながき啜り泣き”というよりは、ポール・ヴェルレーヌも逃げ出すほどの大号泣? 台風一過の再開公演に相応しいような、“吹きまくれ逆風よ”といったところでしょうか。
まだまだお若い由貴さん。5年後、10年後にもう一度同じプログラムで聴かせて頂きたい。それまで彼女の名前とそのヴァイオリンの音色を記憶しておこうと思います。

5年後・・・と言わず来月は・・・、
10月15日(日)は『佐藤卓史 ピアノリサイタル〈ウィーン、夢の街〉』。「ワンコイン市民コンサート」には3度目のご出演となる、ウィーンで研鑽を重ねられた佐藤卓史さんと”ウィーンの至宝”こと大阪大学会館常設の1920年製Bosendorfer252の協演で、音楽の都に去来した、W.A.モーツァルトJ.ブラームスA.M.J.ベルクA.シェーンベルクE.W.コントゴルトP.コントの作品を演奏予定。調性音楽が無調になり、十二音技法へと移行する、その変遷を追うプログラム。
来月と言いながら、2週間後、予約のお申し込みはお早めに。

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申し込み・・・と言えば、「ワンコイン市民コンサート」のホームページが完全リニューアル。
申込受付」や「公演スケジュール」に進むには、トップページの「日の丸(日本国旗)」もしくは「ユニオンジャック(英国旗)」をクリックしてください。それぞれ日本語の案内、英語の案内へとリンクしています。

ではまた、大阪大学会館でお逢いしましょう。御免候へ。

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