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大阪クラシック2017 第47公演 『クロイツェル』 [音楽のこと]

日曜日から始まった「大阪クラシック」も、酣の「第4日」で、はや折り返し。連日、各公演は盛況であると承る。
真面目で堅気な勤め人・・・見た目はそうは見えないでしょうが・・・なワタシ。平日は、聴きたい公演があっても、よほど辛抱タマランってほどでないと、職務を放棄してまでは伺うことが敵わない。
が、今年はちょっと事情が違って、例年は休日・・・日曜日の「第1日」と土曜日の「第7日」、祭事的な「オープニング公演」と「クロージング公演」の前後に集中的に楽しませて頂いていたのが、今年は少しだけ平日も・・・。
というのも、日曜日と土曜日は他の・・・というか大阪大学関係の音楽イベントとダブル・ブッキングすることが多くなって、そちらを優先するあまり「大阪クラシック」を満喫するに至らない。・・・ので、埋め合わせの追加公演的に、水曜日の「第47公演」のチケットを手配。


その「第47公演」はヴァイオリン・ソナタ

秋風のヴィオロン」で、ワタシの中では、今月は”ヴァイオリン月間”。先達ては「フレンチ・コレクション(→記事参照)」と題されたコンサートでフランス近代音楽からヴァイオリンの名曲を盛り沢山。17日は「ワンコイン市民コンサート」でも『無伴奏ヴァイオリン』がプログラムされて、もちろんそれも伺います。

大阪クラシック」でも全81公演中、無伴奏ヴァイオリンは幾つかスケジュールされて、ピアノとヴァイオリンの作品を取り上げた公演も連日に渡って用意されています。が、多くは、日中の、伺うことの出来ない時間帯。それに、そのほとんどが無料公演とはいえ、商業ビルのエントランスであるとか音環境のよろしくないところで、しかも立ち見となってしまう。
どうせなら、じっくり腰を落ち着けて、きっちり拝聴したい。

で、これから伺う「第47公演」は、大阪市北区に立つ摩天楼、あいおいニッセイ同和損保フェニックスタワーあいおいニッセイ同和損保フェニックスホール。環境としては申し分ない。

ご出演は、大阪フィルハーモニー交響楽団首席コンサートマスター田野倉雅秋さんと東京音楽大学の専任講師、名古屋音楽大学の客員准教授でもある菊地裕介さん。これも何の不満もない。

そして、プログラムは『クロイツェル・ソナタ』ことルードヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲「ヴァイオリン・ソナタ 第9番 イ長調 作品47」。聴きごたえ十分で御座いましょ。

有料でないと成り立たない公演。立ち見では立ってられない、演奏時間約40分の大作。

さて、『クロイツェル』。
四月は君の嘘」の中で宮園かをりちゃんが演奏したことで、広く知られることになりました?!
・・・というのは、置いといて・・・
全10曲作曲されたベートーヴェンヴァイオリン・ソナタの中でも、「第5番 へ長調 作品24 』」と並んでよく知られる、作曲家自身が『ほとんど協奏曲のように、相競って演奏されるヴァイオリン助奏つきのピアノソナタ』とタイトルした異色の作品。それが『クロイツェル』と呼ばれることになったのは、ヴァイオリニスト、ルドルフ・クロイツェルに献呈されて、スコアの表紙に"R.KREUZER”と記されたことに由来する。

幸運にも、ワタシはここ両三年で三度も聴く機会を得て、今日が4回目。
ワタシが広報部長を務める(!)、我らが「ワンコイン市民コンサート」でも過去に2度プログラムされました。
最初は2015年2月開催の「シリーズ第37回」で、『永ノ尾文江+鈴木華重子 ベートーヴェン・ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会:その2』(→記事参照)。
酒豪でもある女性二人によるベートーヴェン・ヴァイオリン・ソナタ・ツィクルスは、全10曲のソナタを三回シリーズに分割、それぞれが『弾けるシャンパン』、『香り高き赤ワイン』、『色鮮やかな白ワイン』と副題されて、『クロイツェル』は1803年産の赤ワインとしてセレクトされました。
それは、その生産年の割りには、フレッシュな口当たりとなる、そして何より歓喜と幸福感に満ち満ちて甘美な『ハピネス・クロイツェル』でした。
次は、2015年10月開催の「シリーズ第47回」、『鈴木理恵子&若林顕 デュオ・コンサート”ウィーンからの二つのそよ風 その二”』(→記事参照)。
ご夫妻でもあるお二方の演奏は、これぞ楽聖さまのソナタと言わんばかりの、威風堂々な『リッチリィ・クロイツェル』。
そして、逸翁美術館マグノリアホールで3回に渡って催された「三浦章宏が奏でるベートーヴェンヴァイオリンソナタ全曲リサイタル」でも、その「Vol.2」で、パートナーに鈴木慎崇さんを迎えて演奏されたのが今年の2月。
熟練の男性二人による『クロイツェル』は、「刀剣男子」的な若々しい躍動感が溢れるようで、キレッキレの、研ぎ澄まされた業物のような『シャープネス・クロイツェル』。

演奏を比較しようなどとは思いません。音楽は、ましてやライヴは一期一会。その時のコンディションで出来栄えも変わるでしょうし、10組のデュオが居れば10通りの『クロイツェル』があってもいいとワタシは考えます。10回演奏すれば、10の表現があって然るべきだと考えます。
ただ、難易度も高くて、しかも40分の長尺。
先述の三組に加えて、今日の田野倉&菊池コンビも、演奏技量は言わずもがな。この40分の大作のどこを聴きどころとして、どう聴かせるか。聴衆を飽きさせずに惹きつけるか。演出力も問われる楽曲で、ずっと緊張を強いられるのもツライし、と言ってダラダラとメリハリがないのも聴いていられない。
通称『クロイツェル・ソナタ』に作曲家自らがつけたタイトルは『ほとんど協奏曲のように、相競って演奏されるヴァイオリン助奏つきのピアノ・ソナタ』。
指揮者もいない、二人だけの演奏。スコアの表紙には"Sonata per il Pianoforte ed uno violino obligato in uno stile molto concertante come d’un concerto”と記されて、二人だけの協奏交響曲。お互いのパワーバランスも大きなファクター。事前の打ち合わせで突き詰めるのか、阿吽の呼吸で合わせるのか。協奏とするのか、競奏になるのか。『ヴァイオリン助奏つきのピアノ・ソナタ』とするのか、『ピアノとヴァイオリンのためのソナタ』に仕上げるのか、それとも・・・。
聴かせどころがピタリとハマれば演奏者の愉悦。それが理解出来てしっかり耳に届けば聴衆の悦楽。

随分と前振りが長くなってしまいました。ザ・フェニックスホールでの「第47公演」もそろそろ開演。さて、どんな『クロイツェル』を聴かせて頂けるやら。

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約300席のキャパシティのホールでの「第47公演」。チケットは早々に完売したそうで、当日券もなく、満席の盛況。ワタシのお席は1階F列9番。小さなステージに置かれたピアノは威容を誇るSteinway & Sons D274
1ベルが鳴ってホールが暗転、ひと筋のスポットライトが、弾き手を待つピアノの黒いボディを艶かしく浮かび上がらせる。
下手側のドアが開いて、田野倉さんと菊地さんがご入場。ヴァイオリニストが、Steinwayから音を拾って、演奏前のチューニング。そのヴァイオリンを構えて、静かで厳かな序奏からもう「クロイツェル」の世界が広がる。
ヴァイオリン向きのイ長調は束の間。ピアノが引き取った途端に転調し、表情を変えて、モジュレーションを重ねつつ、緩急強弱の振幅が大きくなって、上昇するかと思いきや下降する、Adagio sostenuto - Prestoがまるで多重人格のような第1楽章。温和な振りをしているかと思うと豹変、独りビューティ&ビーストのようなツンデレっぷりが、いかにもベートーヴェン
プロフィルを変化させながら、朗々と歌い上げるヴァイオリン。少し控えて、それを追従するピアノ。ヴァイオリンが主で、ピアノが従かというと、そうでもない。手綱を握っているのはピアノ。下からしっかりきっちり支えながら、ヴァイオリンを上手にコントロールしている印象。
テンションの高い第1楽章から一転、第2楽章は穏やかで優美な主題と4つの変奏曲。そのそれぞれも微妙にタッチを変えて、滑らかながらメリハリの効いたヴァリエーション。
そして、第三楽章は快活なナポリタン・ダンス、タランテラ。毒蜘蛛どころか、蝶のように華麗に旋律が躍る。
協奏交響曲のようなヴァイオリン・ソナタ。さすがコンマスと言わしめるような田野倉さんのヴァイオリンは当然としても、それを引き立てるように、恐らく鳴り過ぎるSteinwayを宥めすかしながら、コンビネーションのバランスを測るピアニストのクールな仕事っぷりがいい感じ。
全体に、音楽祭に相応しい華やかな、『セレブレーション・クロイツェル』。先の『ハピネス』に近いようでいて、あちらが祝杯の赤ワインなら、こちらは乾杯用のよく冷えてホップの効いたビール・・・かなァ。聴かせどころは何処だったのでしょう? んン、強いて言えば、全部?! 40分があっという間に感じるほどに陶酔させて頂きました。


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アンコールはベートーヴェン繋がりで、フリッツ・クライスラー作曲「ベートヴェンの主題によるロンディーノ」なのですが・・・。

多くの仕掛けが施されたザ・フェニックスホール。ステージ後ろの遮光壁が音もなく上がり、大きなガラス越しに広がるのは21時の煌めくイルミネーション。ネオンの瞬きが、小さなロンドをより華やいだ印象に変えるよう。


いや、実に楽しませて頂きました。
まだまだ続く「大阪クラシック」。次は14日(木)12:00の「第48公演」に向かいます。大植英次もピアニストとして加わる、4台8手のピアノ・カルテット。ベルリオーズの「幻想交響曲」がトランスクリプションされる、恒例のピアノ・スペクタキュラー公演。こちらも何か仕掛けられている予感・・・!?

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