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一番怖いのは・・・?! 「怖い絵」展へ [散歩・散走]

立秋が過ぎて、残暑厳しき今日この頃。年々暑さが身に堪える・・・というか、まだ体調がスッキリしない上、こうも暑いと、自転車で炎天下に出るなど、自殺行為に等しい。というわけで、「正しい盛夏の過ごし方」を幾つか用意したのだけれど、今日は曇天、雨催い。何れにしても、温度、湿度共に高く、不快なことこの上なしで自転車は使えない。今日もエアコンの効いた美術館で絵画鑑賞と参りましょう。


またまた昔話しになるのだけれど、昭和の頃はお盆過ぎの暑気払いとしてテレビや映画で怪談物が多く放映、上映されていたかと記憶する。背筋がゾクゾク、寒気を誘うような怖い話し。
それが今や、怪談がホラー(horror)に変わっちゃって、ヒュードロドロ的なしっとりとした怪談物は見掛けなくなって、集団で動く屍体だとかお面を着けた殺人鬼だとか甲殻類っぽいルックスの未確認宇宙生物だったり、時にグロテスクだったりして、恐ろしいというより嫌悪感が先立ってしまうような気がする。怖いというより、気持ち悪いような・・・。

怖い、恐ろしい・・・というのも色々あって、ビクビクしちゃうafraidにscared、ギャッと驚くfrightened、ゾッとするようなfearful 、眼を背けたくなるようなhorrified、怖気るようなterrified、・・・et cetera。ゾクゾクなのか、ブルブルするのか、慄いてちゃうのか、戦慄してしまうのか、怖い、恐ろしいも多種多様で、その感じ方もヒト其々。

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今日、ゾクゾク、ブルブルと悪寒を呼んでくれるのは、兵庫県立美術館で開催中の、その名も「『怖い絵』展」。
Fear in Painting』と英題されているのでゾッとするような・・・、とにかく怖いンでしょう。トリハダしちゃうほどの寒気を与えてくれるのか。眼で観る暑気払い、とっくりと拝見致しましょう。

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屋上のカラフルな蛙、「美かえる」さんに出迎えられて、兵庫県立美術館のエントランスに辿り着いたのが開館の5分前。券売所には長蛇の列。すでに前売り券を手にするワタシたちは、その隊列をスルーして、3階の会場へと誘われるが、そちらもすでに行列が出来ている。
源泉となった書籍同様に人気を呼んで連日混雑しているという『怖い絵』展。館内はエアコンが効いているとはいえ、悪寒を呼ぶより、人いきれで熱気を孕む?! 絵画に添えられたキャプションをゆっくり読んでいるのも難しい。まァ、そこは予習もしてきているし、日頃から身に着けた博識強記っぷりでカバーしましょうか(てへ)。

怖い絵展 Fear in Painting』とは、作家・ドイツ文学者・西洋文化史家の中野京子が2007年に出版したベストセラー書籍『怖い絵』に基づいて企画された、刊行10周年を記念してのエキシビション。
絵画の中の”恐怖”に着目し、その絵画の描かれた時代背景やその奥に隠されたモティーフを読み取り、解説するというもの。表層的、視覚的な怖さだけでなく、裏側に秘めた意味、背景から知る深層的恐怖。それらを含んだ西洋絵画・版画が約80点集められている。

約80点の絵画・版画は6つのチャプターで区切られて、
ギリシア・ローマの神話や聖書に語られる悲喜劇。抗うことの出来ない摂理や理解しがたく超越的でスピリチュアルなチカラ。それによって生み出されたストーリーを描く「第1章 神話と聖書」。
ヨーロッパのキリスト教圏では、文字を知らないヒトたちのために、寓意や教えを込めた絵画が聖書に代わって多く描かれた。その中に登場するのは、人間を堕落させて悪しき道へと誘う魔物たち。それらを描いた「第2章 悪魔、地獄、怪物」。
時にヒトを魅了する異世界。それはある意味ヒトの内面を映し出す鏡でもあり、本来あるべき姿の裏返し。そんな幻想的な世界を写すのが「第3章 異界と幻視」。
どんな絵空事より、どんな教訓や誡めより恐ろしいと感じてしまうのが現実での出来事。多くの苦悩や恐怖に満ちた現世。病いや老いであったり、犯罪や戦乱、不条理に悪弊。「第4章 現実」は真に迫った恐怖。
第5章 崇高」では、表面的には穏やかで理想的な風景が描かれたロマン主義時代の絵画が並び、その気高く神々しい表層の奥に塗り込められた見えざる恐怖感を孕んだ作品が紹介される。
最終章、「第6章 歴史」。人類の歴史は権力闘争の歴史でもあって、敗戦の後には無慈悲で悲劇的な結末が待つ。その運命と逸話を描いたドラマティックな作品群が展示される。

国内外からここに集められた80点の作品は、十八世紀後半から二十世紀初頭、年代もバラバラで描き手も違えば作風も異なる。ウィリアム・ホガースヨハン・ハインリヒ・フュースリーフランソワ=グザビエ・ファーブルフェルディナン・ヴィクトール・ウジェーヌ・ドラクロワオディロン・ルドンマックス・クリンガーポール・ドラローシュギュスターヴ・モローポール・セザンヌエドヴァルド・ムンクジェームズ・アンソール、”切り裂きジャック”ではないかと疑われたウォルター・リチャード・シッカートなどなどの名が並び、伝統的な古典から象徴派、印象派などの近代的作風まで様式も様々ではあるが、テーマで纏められているので、さほど違和感はない。が、そのテーマがテーマだけに、明るさ、華やかさは僅少で、全体的に暗鬱。透き通るような白さを放つのはあられもない裸婦像だったりするので、そればかりを注視するのも憚られる?!
サイズ的に小さいものが多く、リトグラフや版画作品はかなり接近しないと細部までは視えないほど。一番の大作は、ドラローシュレディ・ジェーン・グレイの処刑」。数奇な運命に翻弄されて在位僅かに9日間、”Nine-Day Queen”の、眩いほどに白い肌と白いドレスが血に染まる一瞬前のシーン。”怖い”というより、”哀しい”場面。

誰もが知るようなお宝級絵画が無いのは残念なところではあるが・・・、
題材は古典に求めつつも、描かれた時代はそれほど遡ることなく、ゴチック・ホラーやダーク・ロマン。妖怪、悪魔などが直接的に描かれているものもあるが、約半数は「心理的ホラー」?
その中に描かれるのは、オルペウスエウリュディケーオデュッセウス聖大アントニウスクレオパトラナポレオンチャールズⅠ世マリー=アントワネット、等々著名人も多数で、彼らが被った受難やその最期、革命や政変に加え、「メデューズ号事件」や「ファルモススの死体審判」など歴史的スキャンダル(?)も怖いお話しとして寄せられて、歴史マニア必見ですな。
神話や聖書からの引用も多いが、ゲーテの『ファウスト』、オスカー・ワイルドサロメ』、ダンテ神曲』やE.A.ポーの著作からの翻案もあって、文学ファンも必見?
キャプションを読まなくても、絵画のタイトルを見ると、どのお話しのどのシーンかは知れる。その解説文には気の利いた短いキャッチコピーが添えられて、細かい文字を読まなくても、どういう意図が描かれているのかが直感的に理解出来る。この辺りは文筆家が監修しているだけのことはある。同じテーマで描き手の異なる作品もあって、見比べるのも一興。

それらが何故、「怖い」のかを知るには中野京子著『怖い絵』を一読しておくべきなのだろうが、その策略には乗りません。西洋史がひと通りアタマに入っていれば大体が読み解ける範疇。神話や聖書からの引用については多少予習が必要・・・か。
古い時代の作品はいかにも教条主義的に教えや寓意を含み、十九世紀末前後のものはシニカルな象徴と印象。教義や戒律に背くと恐ろしい破滅が待っている?! それらに描かれる悪魔や妖怪は人の邪心から生み出された化身!? それらを「怖い」と感じるのは(恐らく)罪の意識、罪悪感。古い時代はともかく、科学や産業技術が発達した近代でもそうしたテーマが活き続けているのが面白いところか。

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1階エントランスでお出迎えしてくれるのは、ホメーロス作の叙事詩『オデュッセイア』にも登場し、ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス描くところの『オデュセウスに盃を差し出すキルケー』の主人公である魔女(女神?)。鏡に映るオデュッセウスに成り切れる?
イタリア半島西海岸に位置するアイアイエー島在住の、飽きた男を魔法でケモノや家畜に変えたという肉食系魔女を屈服させて、一年間もそこに同棲し、子供を二人も為したオデュッセウス。そうなると、魔女より怖いのは人間の(ゲスい)業・・・?

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兵庫県立美術館
に訪れたら観ておきたいのが、同館南側のミュージアムロードに立つ少女。少女だけれど、高さは約6メートル。阪神大震災から20年を迎えた2015年6月に設置されたそのオブジェは、現代美術作家ヤノベケンジが製作した「サン・シスター(Sun Sister)」。
ご兄妹に当たるのが、茨城市駅前に立つ身長620㎝の「サン・チャイルド(Sun child)」(→記事参照)。彼は『水都大阪2013』が開催された折りに中之島公園にも出張(→記事参照)し、そちらでも拝見出来て、まさか姉妹がいようとは・・・。
あとから産まれたオネーチャン。「サン・チャイルド」が東日本大震災を受け、「暗雲垂れこめるこの空に光差し込む入り口を開く」存在として、その手に太陽を持つ少年なら、「サン・シスター」は過去・現在・未来を見つめ、希望の象徴としての「輝く太陽」を手に持ち、世界中のすべての災害からの復興・再生を見守っている少女。愛称が「なぎさ」になっちゃったのね。

教えや誡めが絶対的効力を失った現代。罪の意識も薄れ、今や一番恐ろしいのは災害や予期せぬアクシデント?
ワタシのように、”清く、正しく、美しく”生きていると、それ以外は何ンにも怖くないぞ(かなり大嘘?!)。んン、逃れようのない奥様の追及が一番怖い!? 嗚呼。

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