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星のさざめき ~ 沼沢淑音リサイタル [音楽のこと]

本日の「ワンコイン市民コンサートシリーズ」は大阪大学豊中キャンパス大阪大学会館を飛び出した特別公演で、大阪市淀川区にあるベーゼンドルファーのショールーム・B-tech Japan Osakaを会場とした、『沼沢淑音ピアノリサイタル』。

 

沼沢淑音ピアノリサイタル.jpg

 
沼沢淑音
(Yoshito Numasawa)さんは「ワンコイン市民コンサートシリーズ第50回」でもファンタジックな演奏(→記事参照)を披露されたピアニストで・・・、もうあれから1年余もなるのですね。

神奈川県伊勢原市に生まれ5歳よりピアノをはじめる。
小学校、中学校時に全日本学生音楽コンクール東京大会で第2位受賞。

若い音楽家のためのチャイコフスキー国際コンクール、マウロ・パオロ・モノポリー国際ピアノコンクール、ケルン国際音楽コンクールにて入賞し、アルフレッド・シュニトケ国際コンクール、ポリーニも過去に優勝したポッツォーリ国際ピアノコンクールで優勝。

また浜松国際ピアノコンクールに参加し、「(公財)アルゲリッチ芸術振興財団賞」、「ネルセシアン賞」を受賞。
2016年5月別府アルゲリッチ音楽祭において演奏予定。

日本国内各地、スペイン・イタリアでの音楽祭、ドイツ、ロシア、ベラルーシ、中国等で演奏。

外山雄三指揮、仙台フィル、沼尻竜典指揮、アンサンブル金沢、チャイコフスキーホールにてアナトリー・レービン指揮、ロシアシンフォニーオーケストラと共演等、国内外のオーケストラとも多数共演している。

また室内楽にも積極的に取り組み、2010年、崎谷直人・新倉瞳両氏とのピアノ・トリオのCDが発売され、レコード芸術誌に掲載される。
FM-NHK「名曲リサイタル」に出演。

これまでに杉安礼子、故ウラジーミル・竹の内、辻井雅子、佐藤辰夫、広瀬康、野島稔、ミハイル・カンディンスキー、エリソ・ヴィルサラーゼの各氏に師事。

桐朋女子高等学校音楽科ピアノ科を首席で卒業、あわせて桐朋学園音楽部門より特別奨学金を授与される。
桐朋学園大学ソリスト・ディプロマを経て公益財団法人ロームミュージックファンデーションの奨学生として2015年にモスクワ音楽院を卒業。

・・・というのが彼の公式ホームページに記載されたバイオグラフィー。
Ad Hoc 特別コンサート 『沼沢淑音ピアノリサイタル - 星のさざめき』」と題された今日の公演に用意されたプログラムは、

エドヴァルド・グリーグ バラード 作品24
アナトーリィ・リャードフ
前奏曲 ニ短調
ニコライ・メトネル
おとぎ話 作品20-1 
アレクサンドル・スクリャービン
ピアノソナタ 第2番 『幻想』 嬰ト短調 作品19
フレデリック・ショパン
ピアノソナタ 第3番 ロ短調 作品58
ガブリエル・フォーレ
夜想曲 第1番 変ホ短調 作品33-1同 第2番 ロ長調 作品33-2

星座の形は地球の見る場所によって異なる。その結果生まれてくる星座をめぐる物語も違う。作曲家たちが「どこ」から星たちを見上げたのかという問いを問うことで浮かび上がるそれぞれの内的宇宙に耳をすませる」というのが今回のコンセプト・・・であるらしい。
「どこ」というのは空間的な位置だけでなく、「何年何月何日何時何分の何処」という時間を含めた時空間をいうのかしら・・・というイジワルは置いておいて・・・。

今日のお楽しみは沼沢さんの演奏だけではありません。阪大キャンパスからB-tech Japanに会場を移して、使用される楽器も変わります。

ワンコイン市民コンサート」が催される大阪大学会館に常設されるピアノは1920年に製造されたBösendorfer252で、その名称通りに長さが252㎝となるコンサートグランドピアノ。標準的な88鍵より低い音域に弦が追加されて、最低音を通常よりも長3度低い「F音」とした、92鍵の鍵盤を持つのが特徴。今回使用されるModel290 Imperialのパイロットモデルとされ、ただでさえ生産台数の少ないベーゼンドルファーの中でも超希少な1台となっている。
これまで63回行われたシリーズでも幾多のピアニストによって、多くはピアノ・ソロ、時にはヴァイオリンやヴォーカルなどの伴奏として、その甘美な音色が披露された。
どういう縁でそのヴィンテージ・ピアノが大阪大学会館に収まったのかは伺っていないが、「ワンコイン市民コンサート」といえばBösendorfer252。ワタシもその声音に惹かれて通っている・・・と言っても過言ではないほどに魅了されている。

ベーゼンドルファー(L. Bösendorfer Klavierfabrik GmbH)は、1828年、オーストリア・ウィーンにてイグナーツ・ベーゼンドルファーにより創業された、スタインウェイ(Steinway & Sons)ベヒシュタイン(C. Bechstein Pianofortefabrik AG)と並んでピアノ製造御三家に数えられるとともに、そこで製造されるピアノは、「至福の音色」を持つと言われ、「ウィーンの至宝」とも呼ばれる。

今日のコンサート会場となるのは、そのおタカラ級ピアノの専門店B-tech Japan Osaka。ショールームに併設されたスタジオで、30名様限定の特別公演。演奏に使用されるのは、もちろんBösendorferで、同ブランドのフラグシップモデルであるModel290 Imperial

B-tech Japan Osakaは、ワタシの自宅から1㎞弱、徒歩10分と掛からない。以前、もっとご近所にベーゼンドルファーのショールームがあった頃は、まだ幼かった息子さんの手を引いて時折り覗きに行っていたのだが、ヤマハの傘下に入って、そのショールームが閉じてからはご無沙汰。息子さんのために1台欲しかったが、奥様が「マンションでは置けません、弾けません」と仰るので残念した悲しい過去。

ワタシの昔話はさておいて、「至福の音色」を伺いに会場へと向かいましょう。

開場が15:00。その少し前にB-techに到着してみると、もう何人か「ワンコイン」の常連さん、顔見知りのマダム(&マドモアゼルも?)たちもお集まりになり、矯めつ眇めつお宝ピアノをご覧になっている。ベーゼンドルファーを専門に修復・調律・販売されている工房だと思ったら、小さく可愛いチェンバロ(!)があったり、実行委員会代表の萩原先生が試弾しておられるのはちょっと古い(?)ベヒシュタイン(!)だったり・・・、まさに「鍵盤楽器の宝石箱やァ!!!!」・・・みたいな。
時間ギリギリまで沼沢さんが音作りをしているスタジオと壁一枚隔てたショールームは別の盛り上がり。

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Bösendorfer Model290 Imperial

開場時間となって、スタジオから控え室へと退がる沼沢さんと入れ替わりに限定30名様のオーディエンスがスタジオ内へ。
そのスタジオは床面積20畳、天井高3.2メートル。そこに2台のグランドピアノが設置されていて、料金を支払えば、時間借りすることが出来る。演奏用にスタンバイしているのは2台のうちの1台で、Bösendorfer Model290 Imperial。控えているもう1台はもう少し小さいモデル。
Imperial
大阪大学会館に置かれる252をプロトタイプとして作られた姉妹品で、252より少し大きくて、間口も広がり、低い音域にエクステンドベースと呼ばれる鍵盤も増えて97キー、C0〜C8の完全8オクターヴの音域を誇り、奥行きも伸びて290㎝の堂々たる旗艦モデル。エクステンドされた音域の鍵盤は黒く塗り分けられている。もっと古いタイプは誤弾を避けるためにカバーされていたのだとか。ピアノといえば、造形美も魅力ではあるが、脚線美は阪大の1920年製252の方が勝る?
萩原先生のご解説によると、こちらは1989年製造のモデルであるとのこと。

15:30、開演時間となって、沼沢淑音さんがご入場。
まずはご挨拶と1曲目のコメンタリー。

で、その1曲目、「バラード 作品24」。一番最初の「B♭」から中音域に短い音が続く序奏だけでもその違いがはっきり分かるほどImperialの声音は特徴的・・・というか、驚異的。
ボディも大きくて弦長が長いので、膨よかだとか逞しい・・・というのとはちょっと違う。豊潤、芳醇、濃厚な味わいのリッチ・テイスト・・・っていうと、なんかのコマーシャルの惹句みたいだが、そう聴こえるのだから仕方ない。
しっかり修復されて、きっちり調律されたピアノと、確かな技力でそれを演奏するピアニスト。116.7392立法メートルの部屋に30人の聴衆まで入って、その狭い空間に重厚長大なルックスで圧倒するImperialはかなりオーヴァースペックじゃあないかしらンという演奏前の懸念は一瞬で払拭された。
沼沢淑音さんとBösendorfer Model290 Imperialのコラボレーションはある種の鬩ぎ合いの様相。鳴りたがるピアノとそれを抑えて調和を探るピアニスト。鳴らない楽器を鳴らすのも大変なら、鳴り過ぎるそれを抑制するのも至難、忍耐が必要となる。ピアノ演奏家は他の器楽奏者と違って、自前の楽器を持ち歩くことは少ない。会場に設置されたピアノの特性を短時間で理解し、会場の音響に応じた音を作り出さないといけない。作曲家たちが見上げた「星のさざめき」を再現するためには、その前にピアノと対話し、コミュニケイト出来ないといけないわけなのだが、ごく短時間で沼沢さんとImperialは蜜月な関係となったのでしょうね。

さほど大きくない、どちらかというと華奢な指先が鍵盤の上を躍ることで現出する音色は、言いようのないほどの深みを伴って、弱いタッチでもボディ全体が鳴っているのが分かる。高音域から低音域まで思いの外バランスもよくて、余韻までしっかり響いている印象。
その豊かな響きを齎すのは最低音域に増設されたエクステンドベースによるもの。直接打鍵、打弦されることのないそれらの弦は、他の弦が打たれることで共鳴振動して、得も言われぬ深いサウンドを生み出す。ブリュートナー社(Julius Blüthner Pianofortefabrik GmbH)製作のピアノはアリコートシステム(Aliquot System)」という独自の弦構造で、高音域にキラキラ成分を増強させた(→記事参照)が、ベーゼンドルファーは低い音域を厚くすることで深みと奥行き、伸びやかな広がりを生成している。黒く大きなボディから発せられる声音は、確かにピアノの音色には違いないのだけれど、一般的な88鍵のものと倍音構成まで異なるようで、それは筆舌に尽くしがたい、まさしくインペリアルな音色。
しかし、特徴的であるが故に演奏する楽曲や演奏形態を選ぶンじゃないかとも思われて、今日のプログラムも一部が変更された。
豊かに広がる分、ほんの少しだけ音の輪郭がぼやけるような気もしたが、ハーモニーによってはいわゆる「天使の声」・・・複雑な高次倍音まで聴こえたような気もして、それを御する沼沢さんのプレイと相まって、ちょっとデモーニッシュな妖しさ。魅入られたまま前半を終えて、後半のショパンではカラダじゅうの立毛筋が収縮したまま硬直しちゃうンじゃあないかと思ったほど・・・。
掛け値無しに「至福の音色」。生楽器の醍醐味で、耳の贅沢をさせて頂いた思い。日頃シンセサイザーなどの電子楽器ばかり扱っているだけに、これは一層刺激的。音作りの参考にもなりましたし。
今日は狭いスタジオで、かなり抑えた演奏になったようなのだけど、出来るなら、沼沢淑音さんとBösendorfer Model290 Imperialのコラボレーション、狭いスタジオではなく大きなホール、せめて大阪大学会館で再演願いたいなァ・・・なんて・・・。存分に歌い上げて欲しいなァ・・・なんて・・・。それは、ワタシひとりの願いではなく、あの場にいた30名の思い・・・だと思うのですが・・・、ねェ。

なんか、Imperiarlのことばかりになってしまいましたが、それはもちろん沼沢さんの演奏があってのうえ。贅沢はさせて頂いたが、もっと聴いていたくて、アンコールは、
アレクサンドル・スクリャービンポエム 作品32

エドヴァルド・グリーグ小人の行進
これでもまだまだ聴いていたい?!

で、帰宅するなり、4月16日(日)の「追加公演」もポチッとしてしまったァ。

その一週間前、4月9日(日)は定期公演(?)。大阪大学会館開場14:30開演15:00で、「シリーズ第64回今峰由香ピアノリサイタル ベートーヴェンとシューベルト:希望を求めて」。楽聖さまの「ピアノソナタ 第9番」を始め、シューベルト即興曲」、他。苦悩の先にある希望。ひと筋の光のように、作曲家を導いたもの、それは・・・??

5月14日(日)、「ワンコイン市民コンサート5周年特別公演:高橋悠治+青柳いづみこ『パリ1911-1913』」。ストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」と「春の祭典」をピアノ連弾で!! (高橋悠治青柳いづみこBösendorfer252=・・・、すごい化学反応が起こる・・・かも?!。

ワンコイン市民コンサートシリーズ」はこの年末までのプログラム予定が発表されていて、そのうち上記の3公演が予約受付中(もしかしたら、『追加公演』はもうソールドアウト、『5周年特別公演』も残席僅か・・・かもしれません)。何れにせよ、詳細はこちらにてご確認下さい⇨「ワンコイン市民コンサートシリーズ」。


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