進化系ピアノデュオによるクリスマス・ファンタジー@Magnolia [音楽のこと]
今日はマグノリアコンサート。それも今年最後で、クリスマス・スペシャルであるそうな。
行かねばッ!!
とその前に、腹ごしらえのランチは、逸翁美術館近くの有機茶屋 あじゃりで。
店名通りにオーガニックな食材に拘った和設えのこじんまりしたカフェで頂くのは『自然療法 薬膳カレー』。鰹節に香草、黒胡麻が振り掛けられて、玄米ご飯の上に2切れ並べられているのは豚の角煮に見えて実は車麩の角煮。ヴィジュアル的にも和風ヘルシーっぽくて、ルゥにも何やらカラダに良さ気なものが渾然一体と溶け込んでいるらしい。
見た目通りにお味も優しいのかと思いきや、これが意外にスパイシー。辛さとともに、お出汁的な風味が染み渡ってくるようで、ある意味複雑系なのだけど、まとまりがあって、嫌味がない。車麩の角煮もモッチモチで面白い食感。これはクセになるかもしれない・・・ような。
人参しりしりが入ったサラダに別添えされた人参ドレッシングがほんのり甘くて、カレーとの相性もいい。
ちょっとルゥが少ないような気もしたが、和テイストなオリジナリティに惹かれました。多分、来月にもリピートしてしまいます。次は、コーヒーに加えて、デザートも付けて頂こうかな。
店の設え、スタッフの対応も心地良くて、テラス席で出迎えてくれた猫さんもなかなかの美形。マグノリアへ通う楽しみがひとつ増えましたな。
お腹が満ちるとともに、いい時間になりました。逸翁美術館へ向かいましょう。
今日のマグノリアコンサートは、楽器が1台で、プレイヤーが二人。同ホールに常設されたヴィンテージ・ピアノ、1905年製Steinway & Sons B-211を、それぞれのソロと連弾で演奏するプログラム。
連弾といえば・・・、
ちょっと懐かしい映画「LEZIONI PRIVATE(課外授業 1975年・イタリア)」の中で、キャロル・ベイカー扮する妖艶なピアノ教師フロメンティが「連弾はアンサンブルの基本」とかなんとか仰っていたような・・・。あんな"bijin-kyoshi at the piano school"がいたら励むよねェ。
何にせよ、ひとつの楽器を複数人でシェアするなんて、ピアノや鍵盤楽器だけの特権。連弾用として創作された楽曲は多くはないけれど、連弾用にアレンジされたものは多くある。「アンサンブルの基本」だからか、作曲家自身がその検証用に弾いてみたり、家庭や小ホールで気軽に楽しむためであったり、室内楽から大規模な管弦楽曲まで連弾用に編曲したものが相当数残されている。"進化系デュオ"と評される二人が何をどう演奏されるのかが今日の聴きどころ。
Steinway B-211、魅惑の脚線美
開演時間となって、Steinwayの前にスタンバイしたのは、伊賀あゆみさんと山口雅敏さん。
よく見られる通常のプリモとセコンドのように役割分担せず、超絶技巧を駆使した演奏と、複雑な手の交差、アクロバットな体の動きを用いた見た目にも楽しい連弾作品や、世界(日本)初演となる珍しい作品の発掘、山口の採譜によるV.ホロヴィッツの編曲を華麗にリメイクした作品などのオリジナル編曲を中心に演奏することから"進化系"と呼ばれている・・・のだそうな。
ピアノのスコアスタンドに置かれた2台のiPad(Airかな?)に表示される譜面を見ながらのプレイというのも"進化系"たる所以かしら?!
1曲目は、ルロイ・アンダーソン作曲(グレッグ・アンダーソン編曲)「そりすべり」。Andeson&RoeのG.アンダーソンによる2台ピアノ版編曲を、今日のためにお二方の手で連弾仕様に改めたヴァージョンでの演奏で、最初から四手は交差し、弾き進むうちに20指は白鍵と黒鍵をうまく使って重なり合い、四本の腕がまるで88鍵を奪い合うように激しく動く。ポジションとしては、あゆみさんがプリモ、雅敏さんがセコンドとなるのでしょうが、それは座り位置だけで、手指は「鍵盤上の立体交差やァ!!」的な運動を見せる。
コンビネーションの妙といえばそれまでなのだが、忙しいのは腕だけではなく、ダンパーペダルも二人でシェアして、その合間にはiPadにBluetooth接続したペダルを操作して表示されたスコアをスクロールさせる。膨大な練習量を想わせて、見ているだけで目が回りそう?!
今日のスタインウェイはなんとはなしに煌びやかな声音で、そこはかとなくクリスマスっぽい。少しく硬質感はあるのだけれど、四手での演奏で音数も倍加しているはずなのに、音質的な歪みを現さず、その演奏に応える。演奏家の高度な要求に対応出来るところが名機の名機たる所以。
2曲目は、日本の年末の風物詩(?)となった「交響曲 第9番 ニ短調 作品125 」より「最終楽章 『歓喜の歌』」。演奏されるのは、ルードヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの最も著名なシンフォニーの、もっとも広く知られた最終楽章を、フランス人作曲家=ピアニストであるヘンリー・ラヴィーナがピアノ連弾用に編曲したもので、長く絶版状態であったことからほとんど知られることもなく、録音も残されていなかったものを、お二人が探しに探して、本邦初公開の大阪初演としたのだとか。管弦楽と合唱全部を1台のピアノ、四手演奏とするので、ダイナミックなだけでなく、アクロバティックでさえあるが、紛れもなく「第九」。
昨年の「大阪クラシック・第6日・第61公演『ピアノ・スペクタキュラー』」でマエストロ大植を筆頭に3台のスタインウェイ(尾崎有飛、甲斐史郎、大植英次)と4人のソリスト(ソプラノ:西田真由子、アルト:福嶋あかね、テノール:松原友、バリトン:大谷圭介)と100人近い合唱(大阪フィルハーモニー合唱団)で演奏された「第九」も圧巻であった(→記事参照)が、連弾版も興味深い。
ラヴィーナはベートーヴェンの交響曲を全てピアノ連弾化しているらしい。聴いてみたい。
大作に続く3曲目は「動物の謝肉祭」から『第13曲 白鳥』。カミーユ・サン=サーンスが遺したオリジナルはチェロ+(ピアノ×2)。それをグレッグ・アンダーソンがソロ・ピアノ版とし、ウラディミール・ホロヴィッツがさらに手を加えたものをあゆみさんが四手連弾にトランスクリプション。チェロが歌う「白鳥」もいいけれど、連弾ピアノもそれに劣らない。キーボードの上をレガートに滑る指先が、揺蕩うように水面を渡る白鳥に変わる。「鍵盤の上のアンナ・パヴロワやァ!!」的にエレガンス。頭痛が治るぞ?!
次もサン=サーンスで、「死の舞踏」なのだが、これがややこしい。サン=サーンスがフランスの詩人アンリ・カザリスの詩にインスピレーションを得て歌曲として創作、のちに交響曲とした。作曲者自ら2台ピアノ版とヴァイオリン&ピアノ版も残しているが、フランツ・リストがピアノ・ソロとした編曲があり、さらにそれをホロヴィッツが改編。で、今日演奏されるのはホロヴィッツ版を雅敏さんが連弾用に変改したもの。
元になった詩の中で死神が弾くのはヴァイオリン。シンフォニー版でもチューニングを変えたヴァイオリンがソロをとる。ちょっと妖し気で情景的なメロディとハーモニーがピアニストを惹きつけるのかしらン?
10分の休憩の間にお二人は衣装替え。後半は「愛と炎」がテーマとなるらしい。
まずはモーリッツ・モシュコフスキー作曲「春、5つのピアノ作品集 作品57」から『第5番 愛のワルツ』と「8つの性格的小品 作品36」から『第6番 火花』をあゆみさんのソロで。「ワルツ」はロマンティックに、「火花」はホロヴィッツあるいはアルカーディ・ヴォロドス風に技巧的。そのメリハリがピアニスティックで、それに応えてSteinwayが優雅に語り、奔放に歌う。
変わって、雅敏さんのソロは、マルグリット・モノー「愛の讃歌」。エディット・ピアフが自ら作詞し、歌ったものをイタリア人作曲家でピアニストのロベルト・ピアナがピアノ独奏とした編曲での演奏。
開演前にゲネプロの音がロビーに漏れ聞こえてきた時はあゆみさんが弾いているのだと思っていたのだが・・・。メロウでスゥーティな味付けですな。
臨場感溢れるその演奏は圧巻ではあるのだけれど、華やかなはずのクリスマス・ファンタジーに『血の日曜日事件』というのも・・・(笑)。
エンターテインメント性の高い四手ピアノのコンサートでした。
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