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コバルトの季節の中で [音楽のこと]

十月末に生まれたせいか、晩秋から初冬にかけたこの季節が一番好ましい。サクラの春もいい。緑溢れる初夏もいいが、大阪がコバルト色に染まる秋がいい。

 

日本の秋といえば・・・、
夏の暑さに倦んだ街が秋霖によって少しずつ冷やされ癒されて、その長雨が上がれば爽快感が心地いい秋麗。雨に洗われて街もリフレッシュ、空が高くなることと相まって、少しはキレイになったように見える。日が暮れれば月が冴え冴えと情緒を添える。
少しずつ温度と湿度が低くなって、その空気感が、糊をしっかり効かせて洗い上げた、洗いざらしの木綿布のように"パリッ!!"としているようで、朝早くに街へ出るのが気持ちよかった。

最近は、熱帯化してしまったのか、夏が九月末、残暑が十月の最初まで続くうえ、それを流し去るはずの秋霖もしめやかに降るどころか、怖いくらいに脅迫的なゲリラ豪雨ばかりで、街を浄めるどころか蹂躙するようで風情の欠片もない。

それでもやはり、秋がいい。

公園には色とりどりの秋薔薇が咲いて、どこからともなく金木犀の香りが届く。御堂筋の公孫樹並木が落とす実のその匂いだけはちょっとカンベン。それから、公孫樹並木が黄金に染まり、郊外のわずかばかりの森林も紅や黄に燃え始める。
彩りと香りの移ろいに連れて物悲しさも深まってくるのが秋惜しむ頃。薔薇と金木犀が去って、紅葉も枯れ葉に変わる。

はしゃいだ夏のあとの倦怠感とともに感じる侘しさ寂しさ。文学的で音楽的な季節となっているようで、文字に書かれ音に綴られる。和歌に詠まれ、クラシック音楽にもなり、ジャズやポップス、ロックにも歌われる秋。それを数え上がればキリがない。

旧ブログで取り上げたのが、なぜかフグ田マスオさんがらみで象徴派の詩人ポール・ヴェルレーヌの「Chanson d'automne秋の歌(落葉)」(→記事参照)とラウル・ディ・ブラシオ作曲の「Otonal(秋によせて)」(→記事参照)。クロード・ドビュッシーのピアノ曲も幾つか取り上げた(→記事参照)。

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今年は何がお薦め? 秋といえば、枯葉/落葉。
月並みだけど、「枯葉」とくれば、1945年にジョセフ・コズマが作曲し、後にジャック・プレヴェールが詩を付けた、シャンソン・ナンバー。歌詞が多分に文学的で、ヴェルレーヌとはまたひと味違うが、趣きがあってトレビア〜ン。シャンソン曲としても有名であるが、ジャズのスタンダードとしても知られ、多くのミュージシャンがカバーしている。ピアノのソロから小編成のバンドでも、ビッグバンドでの演奏でも、それぞれに味わいがあるのは原曲の出来がいいから。
ダレのどの演奏がいいかと、クラシックの楽曲と比肩しうるほど、数多くレコードもリリースされている。シャンソンか、ジャズか、フランス語詩か、英語詩か、長いヴァースのついた「Les Feuilles mortes」か、それが省略されてしまった「Autumn Leaves」か・・・。日本語版も多く歌われて、「枯葉」と言えば即、♪かァれェはよォ〜♪と歌えるほど広く知られている!? ナット・キング・コールが日本語で唄っている変わり種もあれば、日本の歌手も大勢カバーしている。もちろん、ピアノを始め、インストゥルメンタル版も名盤揃い。

この曲、簡単なようで難しい。オリジナルがシャンソンであるからか、ピアノやインストゥルメンタル版であっても"歌心"が必要かと。といって、シャンソンらしく"語るように唄う、唄うように語る"と、感情過多になりすぎるとモッサリしすぎてキショい。フェイクやアドリブがないと退屈で寂しいが、しくじると台無しになってしまう。ある意味難曲!?
誰もが演奏してみたくなるほど魅力的で、それでいて、こうでないとという決め手が見つからないからか、甘ったるゥいムード音楽風からアップテンポにしたものまで、長い歴史の中で演奏するミュージシャンの数だけヴァリエーションが生まれてしまった。

「iTunes」でサーチしてみたら、「Les Feuilles mortes」でも「Autumn Leaves」でも「枯葉」でも、それぞれ百数十タイトル、数え切れないほどヒットする。大人買いどころか、お大尽でないと買い尽くせない!?

数あるヴァージョンの中からあえてひとつチョイスするなら、意外なところでエリック・クラプトンの「Autumn Leaves」。跳ねない、揺れない、ブリティッシュ・ロック・テイストに溢れ、渋くてオットコマエな風味。ひじょーにブルージーでめっさカッコいいから。
いっそのこと、イヴ・モンタンエディット・ピアフジュリエット・グレコビング・クロスビーナット・キング・コールフランク・シナトラオスカー・ピーターソン・トリオスタン・ゲッツビル・エヴァンス・トリオマイルス・デイヴィスキャノンボール・アダレイキース・ジャレット、etc. そして、椎名林檎八代亜紀までありますよ(笑)。しっとりとしたヴォーカルからスリリングなピアノ・トリオ、ホーンもストリングス・アンサンブルも、思いつく限りの「枯葉」を集めてみるのも面白いかも。

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枯葉」をもう1曲。クロード・ドビュッシー前奏曲 第2巻』から「第2曲 枯葉」。ドビュッシーらしい和声法で綴られた、いかにも印象主義的な楽曲。
印象として、紅葉した葉が枯れて赤黒いような枯葉ではなく、黄葉が散って行くどこかキラビやかな風情を感じる。「Feuilles mortes(枯葉)」という表題ほどの陰湿さは感じない。カサカサに乾燥しているわけでもない。誰も見る人もなく、ただ風に舞う金色めいた枯葉。散り落ちた"落葉"ではなく、風に揺蕩う黄金の葉。
そして、それは舞い落ちることなく、風の中に静かに消えて行く。キラビやかな侘しさ。これぞ、ピアノによる、ピアノのための、ピアノの「枯葉」。
シャンソンもいい、ジャズもいい、けどドビュッシー

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紅葉ではなく、黄葉。大阪市内でも多く見受ける公孫樹の葉もそう。御堂筋も市内の公園も舞い落ちたイチョウの葉でコバルトイエローのカーペットを敷き詰めたようになってしまう。

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"ジュリー"こと沢田研二の楽曲に「コバルトの季節の中で」というのがあった。「髪型がかわりましたね。秋風によく似合いますね」と唄い出し、「コバルトが目にしみますね」と続く。
秋のコバルト色。若い頃はずっと、散り落ちるイチョウの葉をイメージして、"コバルトイエロー"を連想していた。
しかし、舞い散る木の葉も、散り落ちた枯れ葉も「目にしみる」ことはない。
秋雨のあと、急速に移ろい行く季節にあって、雨と風に浄められた、どこまでも高い空はコバルトブルー。独りになって、アナタが見上げる空の高さは悲しみの深さ。落涙しないようにと上を向いたら、その先にある空の蒼さが一層寂しさを引き立てる。
「寂しくて泣いているのではなく、見上げた空の蒼さが目に沁みただけなのでしょう。誰だって秋は独りですね」とココロに思っても、その慰めはあえてクチに出さない。「誰だって 秋は独りですね。だから今朝はなにも 話しかけません」それでも「誰だって過去はつらいですね。だから明日のこと話してみませんか
優しさと慈しみを含んだ歌詞・・・なんでしょうね、多分。この歳になったら、この歳になったからか、そう思える「コバルトの季節の中で」。

髪形が かわりましたね
秋風に よく似合いますね
何か悲しいこと あったのでしょうか
コバルトが 目にしみますね
誰だって 秋は独りですね
だから今朝はなにも 話しかけません
しあわせの手ざわりが
いまとても懐しく
足早に過ぎて行く この秋の中で
あなたを 見失いたくないのです

風の日は きらいでしたね
忘れたい 何かあるのですね
だけど人はきっと 愛しあえるでしょう
コバルトが 目にしみますね
誰だって 過去はつらいですね
だから明日のこと 話してみませんか
ひとりぼっちだったから
やさしさが 好きでした
絶えまなく揺れている この秋の中で
あなたを 見失いたくないのです
あなたを 見失いたくないのです
(作詞:小谷夏)

そろそろ、ここ大阪もコバルトイエローとコバルトブルーのコントラストに彩られる頃。ワタシの一番好きな季節。

ロケ地:大阪城公園(2012年)、服部緑地(2011年)、京都洛北(2011年)
使用アプリ:Cameran、Luminance、My Sketch、Strip Design、TapFX


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コメント 6

福さん

いつもながら素晴らしい文章力ですね〜アートなフォトも素晴らしい♪( ´▽`) しばしオサレな秋を楽しみましょう!
by 福さん (2012-10-28 13:09) 

silvercopen

私も10月末の生まれたためか秋が好きです(笑)
by silvercopen (2012-10-28 14:46) 

JUN1026

福さん、コメントありがとうございます。
直木賞と芥川賞、本屋大賞、はてはノーベル文学賞をもらえそうですか?(笑)
寒くなる前に、木枯らしが吹き出す前に、楽しんでおかないといけないですね。
by JUN1026 (2012-10-28 19:20) 

JUN1026

silvercopenさん、コメントありがとうございます。
この時期は季節の流れも、夕暮れの移ろいも、目に見えるほど速くて、季節感を一番感じやすいように思うのですが、どうでしょう?
by JUN1026 (2012-10-28 19:23) 

yosshu0715

Autumn Leaves、僕も好きで何曲かお気に入りを持ってます!!(笑)
ピアノジャズ系が多いですが、ヴァイオリンも何曲か・・・!!
しかし、クラプトンは知りませんでした!!(笑)
早速YouTubeでチェックしましたが、渋くて凄くいいですね!!(笑)

子供の頃は秋は冬に向けての通過点でしかなかったですが、今は芸術の秋、食欲の秋、自転車ベストシーズンの秋!!

短い秋を何通りにもの楽しみたいと思っています!!(笑)
by yosshu0715 (2012-10-29 00:48) 

JUN1026

ヨッシュさん、コメントありがとうございます。
E.クラプトン、なかなか渋くてよろしいでしょ!?
スタンダードナンバーはプレイヤーごと、それこそ十人十色。色んな解釈があって、様々なスタイル、表現方法があるものだと感心させられます。聴き比べてみるのも面白いですね。

秋を楽しみに出掛けたいですね。とりあえず紅葉狩りですか?
by JUN1026 (2012-10-29 09:09) 

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